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THE 有頂天ホテル [2006年 ベスト20]

THE 有頂天ホテル」(2005年・日本) 監督と脚本:三谷幸喜

 僕は一映画ファンとして劇場が満員になっているとそれだけで幸せな気持ちになります。
 多くの人たちとスクリーンを共有し、そこで繰り広げられる芝居に一喜一憂し、皆で満足な表情を湛えて劇場をあとにすることが出来れば、これほど嬉しいことはありません。
 1月14日(土)ヴァージンシネマ六本木。21時50分の回は終了が0時を回るにもかかわらず9割の席が埋まっていました。公開初日とは言えこの作品に対する期待度がいかに高いかを物語っていたと思います。

 今日は先に結論から。
 「THE 有頂天ホテル」は実に良く出来た、素晴らしい作品だと思います。
 三谷幸喜さんの才能に、亀山千広、石原隆といった“テレビを知り尽くした人たち”の経験値がミックスされて、136分という長丁場もまったく飽きさせることなく見せてくれます。ボキャブラリーの少ない僕がときどき使う言葉ですが、それはまったくもって「感動的な仕事」と言っていい。ここまで緻密な脚本を一体どれくらいの時間で書き上げたのか、完成までのプロセスを取材したいくらいの出来でした。

 水を差すわけではありませんが、劇場を出たところでこんな声が聞こえたのも事実です。
 「(点数つけると)60点くらいかなあ。なんだかテレビの延長線上にある映画みたい」
 僕は三谷さんのテレビ作品を「やっぱり猫が好き」以外あまり観たことがないので、この評価が正しいのかどうかは分かりませんが「テレビっぽい」のは間違いありません。けれど最後まで飽きさせなかった一番の理由もここにあるんです。

 「THE 有頂天ホテル」は舞台の戯曲と違って映画用のオリジナル脚本ですから、短いシーンの積み重ねが可能です。戯曲の映画化って場合(三谷さんの「笑の大学」などもそうですが)、どうしてもワンシーンが長くなってしまうケースがあって、よほど脚本が優れていないと途中飽きられてしまうことがあります。
 劇場に足を運び、金を払って着席した客は少々退屈だからと言って隣の劇場へ逃げることはありません。しかしテレビの場合、視聴者はいとも簡単に隣のチャンネルに逃げることが出来ます。リモコン片手にチャンネルを頻繁に変える行為を「ザッピング」と言いますが、例えザッピングされても再びチャンネルを合わせてもらう、あるいはザッピングの途中でチャンネルを留めてもらうためには、途中から観ても面白く、リズムとテンポが良くて、飽きさせない作品を作らなくてはなりません。そういう意味でこの作品は「三谷幸喜」と「フジテレビ」という最強のタッグによって生まれた実に「テレビっぽい」傑作であると僕は思うわけです。

 もうひとつ書いておきたいのはこの作品の価値。
 仮にポッと出の新人作家がこの脚本を書けたとしても、ここまで豪華なキャスティングは不可能だったと思います。「三谷幸喜ブランド」とも言うべき三谷さんがこれまでに積み上げてきた実績と信頼があってこそ可能だった驚異のキャスティング。しかもこれがコメディ映画で、出演している俳優全員にそれぞれ見せ場があるところも見事としか言いようがなく実に感動的。その中でもやはり役所広司さんがダントツにカッコイイんだけど。
 僕個人はあるシーンで(多分アドリブだろうけれど)ケツを見せた西田敏行さんがサイコーに好きです。あのシーンで西田さんの芸人魂を見ました(笑)。
 
 2006年の最初を飾るに相応しい日本映画の傑作。
 ぜひ劇場に足を運んで、たくさんのお客さんと一緒に、大声で笑って来て下さい。
 僕ももう一度観に行こうと思います。
 では皆さん、劇場で逢いましょう。
THE 有頂天ホテル スタンダード・エディション

THE 有頂天ホテル スタンダード・エディション

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2006/08/11
  • メディア: DVD

nice!(13)  コメント(24)  トラックバック(9) 
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コメント 24

はじめまして!
私もこの映画とっても気に入りました。
いつもはがらんとしていた映画館が同じレイトショーでほぼ満席でした。
他の人の感想は聞けませんでしたが、私はもう一度見て、見落としたであろうシーンや台詞を確認したいです(^^)
by (2006-01-16 01:11) 

ken

すずさん、ようこそ。
僕は冒頭、ココリコの田中直樹くんと八木亜希子さんが出ていたシーンで
いきなり笑いました。こういう細かいワザを僕ももう一度確認したいと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-01-16 01:36) 

gutta

やっぱり「細かいワザ」がちりばめられていそうですね。一度みただけでは全てのコワザに気づけない、ということがリピーター率つながる、という計算がなされているんでしょうか。いちど見てみたい映画リストがさらに増えました。
by gutta (2006-01-16 03:48) 

youko

コメント読んで、映画館で是非見たくなってしまいました。(^^)
by youko (2006-01-16 08:18) 

midori

おはようございます。私も観ました。
どっかんどっかん笑ったんですけど、なんだかジーンとしてしまうところも
あって、隣に座った知人は感激屋なので泣きっぱなしでした。
(別に泣ける映画ではないんですけどね)
そうそう、西田敏行。ドアが閉まる直前の・・・やっぱりアドリブですよねぇ。
私は総支配人が逃げ回るところがおかしくて仕方なかったです。
あとオダギリジョーにも感心しました。いるいる、こういうヤツ!って。
はっ! すみません朝からベラベラと・・・。つい興奮してしまいました。。。
by midori (2006-01-16 08:43) 

今さらですが、今年もよろしくお願い致します。(^^)
映画の初日に映画館に行ったなんていつぶり?って思うほど
久々の経験でした。
家族が三谷さんのファンなのと、まああれだけ宣伝されちゃうと
ってこともあるんですけれど...。
でも本当に何度も何度も笑って楽しい作品でした。
映画館で見てよかったと思ってます。
でも、DVDが出たらコッチも欲しくなってしまうでしょう。
一度見ただけでは気づかなかった、それこそ”小技”が満載のようなので。
by (2006-01-16 09:48) 

しろうさ

kenさん ごきげんよう(←セレブ風)

私もこの映画は注目し、観に行く予定でおります。
水曜のレディスDayを狙い撃ちです!
三谷幸喜の場合は舞台でも会話が注目ですね。
いかにお洒落な会話をしているか。それにつきると思うのですよ。
だからkenさんもコメントしていらしたように役者さん全員に見せ場がある画になると思うのですね。TVっぽいのではなくあえて「舞台っぽい」って感想が聞きたかったですね。
by しろうさ (2006-01-16 13:10) 

ken

>ぐったさん
 一度観てみたいリストにどんな映画があるのか、今度こっそり(なんで?)
 教えてください。nice!ありがとうございます。

>youさん
 みんなで一緒に観て笑う、という意味において、ぜひ劇場で。
 nice!ありがとうございます。

>midoriさん
 伊東四朗さんは反則です。だってあそこで白塗りにする意味がないもん(笑)
 でも登場するたびに笑いましたね。
 グッと来る、という意味では役所さんが佐藤浩市さんを見送るシーンが
 一番泣けました。佐藤さんのセリフがカッコよかったんですよねえ。
 nice!ありがとうございます。

>パンプキンさん
 DVDは即買いですね。我が家の家宝にします(ウソ)。
 それにしても「笑い」って人生を豊かにしますよね。
 nice!ありがとうございます。

>しろうささん
 いつの間にセレブに?!
 舞台派のしろうささんにはどんな風に映るのか楽しみです。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2006-01-16 17:00) 

こんにちは、以前にもおじゃましたことあると思います。。。
気になっていた映画です。滅多に邦画を観たいと思わないのですが、コレは観てみたいんです。テレビ的っていのは残念な話ですが、あれだけ豪華なキャスト、セットであればそれだけで満足できそう。有頂天っぷりは大成功!
コレは観てみます。
by (2006-01-17 10:22) 

ken

atsukoさん、こんにちは。
「テレビ的」という評価は前向きに捉えてもらえると嬉しいです。
決して損はしないと思いますので、ぜひご覧になってくださいね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-01-17 12:12) 

メイ

もの凄く、もの凄く去年から楽しみにしていた映画です。
絶対見に行きます!!
なので、記事は見た後で、じっくりと。
楽しみに取っておきます♪
by メイ (2006-01-17 22:55) 

ken

いってらっしゃいませ♪
by ken (2006-01-18 13:03) 

optsaru

うーん、実に冷静な評論!!

さすが、kenさん。

私的には、この映画、80点かな?
期待が大きすぎて、逆に大笑いできなかった。
小笑いは沢山ありましたけど。
くねくねダンスを見せてくれたら100点だったのにな♪
by optsaru (2006-01-19 20:49) 

ken

くねくねダンスは見せて成功するか失敗するか、いずれにしてもリスクの高いネタだなと思いながら観ていました。が、多分見せなくて正解だと思います。
きっと観客の心の中に最高のくねくねダンスがあるんです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-01-20 12:21) 

コザック

こんにちは!私も今年の劇場1本目がこれでした。大いに笑って劇場全体で楽しめました。たしかにテレビっぽいかもしれませんが、劇場で観るからこそ大声で笑える作品だと思います。
質のよい笑いを楽しめてホント今年最初を飾るにふさわしい作品でした~。
by コザック (2006-01-21 17:58) 

ken

この作品は映画ですが、三谷さんは劇場で観る芝居のように、
観客を楽しませようとしている気がしました。
だからこの映画を楽しむ最良の方法は、たくさんのお客さんと一緒に
劇場で笑うことなんだと思います。nice!ありがとうございます。
by ken (2006-01-22 23:25) 

メイ

kenさん!昨日メイもやっと見に行ってきました!
メイにはテレビなニオイよりも、舞台のニオイを濃厚に感じました。
なんでだろう??
たとえば「交渉人真下正義」は、面白かったけど、テレビで見ても良かったかな。
と個人的には思いましたが、
「THE 有頂天ホテル」は、テレビで見ても・・とは思わなかったからかしら??
メイはずっと笑いっぱなしだったのですが、そこはかとない品のようなモノをこの作品からは感じました。
記事を書いたらTBさせて下さい。
by メイ (2006-02-02 11:32) 

ken

舞台のニオイ、なんででしょうね^^
この映画、確かに品を感じます。
それは演者の力と洗練されたセリフによるものだと僕は思いますね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-02-03 14:25) 

こんにちは。私も西田さんのおしりみせに同感でnice!
ドアがしまるギリギリの線で入れるあたり。とってもニクイ!!今個人的にはまっているのはtwenty fourなのですが、あれは逆にテレビしか出来ない形ですが今度映画化が決まったようです。でもあの雰囲気がファンには受けるのか・・・テレビっぽい・・・テレビ的いいじゃない~!って私は思います。
by (2006-02-23 17:12) 

ken

「24」はシーズン1だけでギブアップしました。
だって24時間もドキドキしているのがつらいんだもん…(ToT)
面白いのは充分分かっているんですけどね(笑)
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-02-23 17:17) 

satoco

あけましておめでとうございます。2007年元旦にこの映画を観ました。

面白かったですねー。中島哲也監督がCMで培った腕を駆使して「嫌われ松子」を仕上げたように、TVドラマの手法を上手く取り入れた映画かもしれませんね。そういう意味でのTV的なら、大歓迎ですね。
TVドラマでは到底無理そうなくらい、時間をかけて脚本や演出を練っていそうですし、豪華キャストも手間隙も、映画ならでは。映画でしかできないことをしっかりやってますから。

キャストが豪華なだけじゃなくて、一人ひとり上手い人を配しているのも勝因でしたね。役所公司と佐藤浩一の通用口のシーンなんて、短いのにじーんときちゃいました。

後日記事を書くつもりなのでTBさせてください。
by satoco (2007-01-02 11:32) 

ken

役所さんと佐藤浩市さんのシーンは確かに感動的でした。
何がって、あの2人が競演していることが。
それもこれも三谷幸喜作品だからだと思います。
2006年だろうが、2007年だろうが、お正月に観るにはもってこい!の
作品ですね(笑)。nice!ありがとうございます。
by ken (2007-01-03 03:12) 

Sho

ずっと気になっていて、遅まきながらですが見ました。死ぬほど笑いました。役所さんと佐藤浩市さんのところは、泣きました。
毎年クリスマスか年の瀬あたりに見たいな・・と、思いました。なんとなくレトロなところと、人生捨てたもんじゃない、てところで「素晴らしき哉、人生」を思い出したりしてました。
by Sho (2007-08-12 02:20) 

ken

ある種の人間賛歌ですから、1年の締めくくりに観るのがいいですね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-08-12 11:17) 

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