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SMOKE [2006年 ベスト20]

スモーク」(1995年・アメリカ/日本) 監督:ウェイン・ワン 原作・脚本:ポール・オースター

 「エイプリルの七面鳥」に続く、荻上直子監督選「愛する人とおいしいものを食べたくなる映画10本」の第2弾。
 これはブルックリンのタバコ屋に集う客達の日常を描いた物語で(登場人物がやたらタバコを吸っているので「おいしいものを食べたくなる」かどうかは別にしても)これはとてもいい映画でした。
 この作品の佇まいを一言で表現するなら、“ときどき思い出して読み返したくなる短編小説”のよう。
 ポール・オースターの噛み応えのある脚本を、「ジョイ・ラック・クラブ」の監督、ウェイン・ワンが丁寧に咀嚼し、シンプルだけど奥深い映像に仕上げています。

 主な登場人物は、毎日同じ時間に店の前の写真を撮り続けるタバコ屋の主人オーギー(ハーヴェイ・カイテル)、銀行強盗に妊娠中の妻を殺された作家のポール(ウィリアム・ハート)、そしてクルマに轢かれる寸前のポールを偶然助けた黒人少年ラシード(ハロルド・ペリノー)。物語はこの3人を軸に展開します。
 映画の序盤。あまりに素朴で淡々と進むため、もしかしたら「面白みに欠ける」と思うかもしれませんが、圧倒的な存在感を放つハーヴェイ・カイテルの演技にぐいぐい引きずり込まれるのは必至。続いてタバコの煙の重さを量ろうとした男のエピソードを聞かされたが最後、きっと画面から目が離せなくなると思います。
 もしもそう感じなかったら。
 アナタはまだこの映画を観なくていい。これは「スクエアな客はお断り」の映画なのです。

 僕は観ている途中から「短編小説を読んでいるような感覚」を覚えていました。もちろんそれには列記とした理由があるのですが、興味を持った方はぜひ自分の感覚でもって確認して欲しいと思います。観ればきっと“映像の行間を読まされる”ことになると思うのですが、これは僕にとって「ホテル・ハイビスカス」以来の衝撃でした。
 エンディング。
 TOM WAITSの「Innocent When It Your Dream」に乗せたモノクロ映像は、ディナーの後に飲むエスプレッソのような味わいがあり、さらに粋でカッコ良かったのはエンドロール。THE JERRY GARCIA BANDの「Smoke Gets In Your Eyes」は「SMOKE」のエンディングに相応しい選曲で、かつ素晴らしいアレンジなのでした。
 
 僕はこの映画をときどき思い出して読み返すため、自宅の棚に常備しておこうと思います。

SMOKE

SMOKE

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2005/03/02
  • メディア: DVD

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コメント 12

coco030705

こんばんは。
これは、だいぶ前に見たので、あまり筋は覚えていないのですが、
すごくいい映画でしたね。ハーヴェイ・カイテルがいい味をだしてました。
顔はこわいのに、いい役者ですね。
kenさんの記事を読んで、また見たくなりました。
by coco030705 (2006-01-18 20:29) 

面白そうですね、また観たことがないので物凄く観たいと思いました。
…そしてタバコも吸いたくなりました。。
by (2006-01-18 20:36) 

蓮花

kenさんがこの映画をまだごらんになっていなかったのが不思議なくらいです。
私はこれ公開当時に観たのですが、それっきりなので、細かいところは覚えてなくて。
でも、見終わった後とてもリラックスした気持ちになった記憶が。
当時まだ私は喫煙者ではなかったので、喫煙者の今、
kenさんのレビューで久々に観たくなりました。
余計なことですが、えっと、ストッカード・チャニングは貫禄の女優さんですよ。
黒人でも少年でもなくて・・・。
by 蓮花 (2006-01-18 21:12) 

ken

>coco030705さん
 ハーヴェイ・カイテル最高!彼のようにいい顔をする中年オヤジになりたいと
 激しく思いました。ルビーにお金を渡すときなんてチョーカッコよかった!
 nice!ありがとうございます。

>aikaさん
 僕は5年前にタバコをやめたのですが、これを観ても吸いたいとは思いません
 でしたね~。良かった良かった(笑)。nice!ありがとうございます。

>蓮花さん
 こういう埋もれた名画を僕はたくさん見落としていると思います。
 他にもあったらぜひ紹介して下さい!
 ついでに記事の誤りに関するご指摘もありがとうございました。
 本日訂正させていただきました^^
by ken (2006-01-19 12:36) 

魚河岸おじさん

印象が強く残っている映画です。
kenさんの記事を読んで久しぶりに見たくなりました。
こういう感じにしてくれる文章・・・・
勉強になります。
by 魚河岸おじさん (2006-01-20 19:23) 

ken

なんだか夢を見ているような映画でもありましたね。
忘れられない夢、なのかも知れません。
by ken (2006-01-21 14:55) 

po-net

ハーヴェイ・カイテルがとても素敵でしたねぇ。とてもいい映画だったのに
細かいところを忘れてしまった。。なんで忘れてしまうかなぁ??
もう一度是非観たいと思います。
by po-net (2006-01-21 22:16) 

ken

人間は忘れることで幸せになれる生き物なんです。
忘れたからこそもう一度「SMOKE」も楽しめるというわけ(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-01-22 23:19) 

てくてく

kenさんや皆さんが仰るように、
ハーヴェイ・カイテル扮するオーギーがとても良かった^^
煙草をスパスパ吸っているのも、
今となっては逆に新鮮な気持ちもしました。
ジャケットを見て興味を惹かれたのですが、
良いシーンでしたね~^^
by てくてく (2009-08-03 23:57) 

ken

繰り返しになりますが、曲の力も大きかったと思います。
これぞ映画の醍醐味。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-08-04 00:35) 

movielover

本当に最高の一本だと思います。
『短編を読んでいるような感覚』は私も感じましたよ。
やっぱり脚本もポール・オースター本人が書いているからかな??

私は当時喫煙者で(今は止めてますけど)、
映画を観た後なんだかそれが幸せなことに感じました。
曲の力も大きいですよね。

本当に一生のうち何度でも、ふと、思い出した時に観たい映画のひとつです。
by movielover (2010-01-07 22:26) 

ken

この作品は、やはりポール・オースターの存在が大きかったと思います。
その証拠にウェイン・ワンの新作「千年の祈り」はイマイチでした。
そろそろまた観たくなってきました。nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-08 02:18) 

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