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バタフライ・エフェクト [2006年 ベスト20]

バタフライ・エフェクト」(2004年・アメリカ) 監督・脚本:エリック・ブレス、J・マッキー・グルーバー

 先日、我が社の中途採用面接に大手レンタルビデオショップの副店長という青年がやってきた。
 その青年は予てから「観るよりも作る側に回りたい」と考えていて、今回我が社の募集広告を見つけるや「好機到来!」と転職を決意したのだと言う。
 僕はそんな彼の動機にはまるで興味がなかったのだけれど、レンタルショップの副店長というプロフィールは面白かったので「じゃあ最近面白かった映画を何本でもいいから挙げてみて」と聞いた。すると副店長クンは「映画はDVDでしか観ないのでちょっと古くてもいいですか?」と前置きし、しばらく考えた末に「ビッグ・フィッシュ」と「クローサー」と「バタフライ・エフェクト」を挙げた。僕はどれも観ていないフリをして「何が面白かったのか説明してみて」と続けたら、なるほど映画の解釈は人それぞれ違うものだなあと感心するほどの迷解説。しかも僕が聞き上手だったのか副店長クンが悦に入ったのか話は一向に収まらず、それどころか“言っちゃ悪いですけど僕はアナタなんかと比べものにならないくらい沢山映画を観てますからね”と軽く人を見下したような素振りになる始末。あちゃー副店長クン、選んだ映画は良かったけど面接で図に乗ってアゴが上がっちゃダメなのよ。と、いうわけで彼はきっと今もどこかのレンタルショップで観る側として働いているはず、なのでした。

 さて。その副店長クンオススメの中で唯一僕が観ていなかった「バタフライ・エフェクト」なんですが、
 この映画は本当に面白いです。
 せっかくですから今日は、ただの「面白い」を「スゲー面白い!」にするための解説を少しだけ書きたいと思います。
 この作品は本編の冒頭で次のようなテロップが表示されます。
 
 「ある場所で蝶が羽ばたくと、地球の反対側で竜巻が起こる」
 初期条件のわずかな違いが、将来の結果に大きな差を生み出す、
 という意味のカオス理論のひとつ。

 前口上としては面白いけれど、はて?カオス理論とは何ぞや??と大半の人が思うはずですね。
 
広辞苑によるとカオス理論とは「初期条件によって以後の運動が一意に定まる系においても、初期条件のわずかな差が長時間後に大きな違いを生じ、実際上結果が予測できない現象。流体の運動や生態系の変動などに見られる」とある。…ふむ、難しい(笑)。
 このカオス理論を判りやすく説明するときに必ず持ち出される話が、アメリカの気象学者エドワード・ノートン・ローレンツのエピソードなんです。

 1960年。
 ローレンツが天気予報研究のため初歩的なコンピューターシュミレーションによる気象モデルを観察していたときのこと。ある検査結果の検証のため同一の気象データを初期値として入力すべきところ、その手間を惜しんだローレンツは「初期値の僅かな違いは結果に大きな影響を及ぼさないだろう」と小数点以下のある桁以降を省いて入力しました。ところがその結果はローレンツの思いに反して大きく異なってしまった。この体験をしたローレンツは、そもそも完璧な初期データというものが存在しない(人間には計測不可能である)ことを知り、気象の長期予報は不可能であるという結論を出したのです。これを「蝶の羽ばたきが数ヵ月後の台風の進路に影響を与えるかもしれない」という形で表現し、これがのちに「バタフライ効果(エフェクト)」と呼ばれるようになったのです。
 ようやく本題にたどり着きました(笑)。
 
 人は誰でも
自分の歩んできた分岐点を振り返ることがあります。
 最近ではニコラス・ケイジ主演の「天使のくれた時間」(2000)がそうでした。
 「あのときもうひとつの道を選んでいたら、自分の人生は一体どうなっていたんだろう?」
 “もしもの世界”はエンタテイメントの世界の重要な題材です。しかしこの「バタフライ・エフェクト」はたった一度の分岐点を振り返る物語ではありません。ここがまずこの作品の画期的なところです。
 僕たちは毎日、毎時間、1分、1秒、常にあらゆるジャッジを迫られ、実際にジャッジを下しています。それは実に何気ないことから重要なことまで。
 問題なのは「まったく意識せずに行った行為が、のちの予期せぬ事態の要因になっている」ということなのです。
 例えば、あなたの愛する人が今、交通事故にあったとする。その原因が10年前にあなたが何気なくしたクシャミのせいだったとしたら…?
 僕たちは「バタフライ・エフェクト」で描かれている事象を実際に体験することは出来ません。しかしだからこそ映画としての価値があると思うのです。
 
 「ある場所で蝶が羽ばたくと、地球の反対側で竜巻が起きる。
 では、蝶の羽ばたきを止めたなら、竜巻は起こらずに何が起きるのか…?」

 カオス理論をエンタテイメントに昇華させた最高傑作。必見です。

バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション

バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2005/10/21
  • メディア: DVD

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コメント 13

へちま38

私にバタフライエフェクトを最初に教えてくれたのは
「ジュラシックパーク」の数学者マルコム先生でした。
手にお水をたらしてね♪
by へちま38 (2006-03-04 18:26) 

gutta

若者、その質問の真意を読め、といいたいですね。また見たい映画のリストが増えました(笑)
by gutta (2006-03-05 03:07) 

ken

>へちま38さん
 うわー!JPの中にそんなシーンありましたっけ?覚えてないーっ!(笑)。
 そのシーンだけもう一度観たいです。

>ぐったさん
 「観たい映画リスト」にどんどんタイトルが増えていくのは嬉しいけれど、
 それをいつ観ることになるのかが、だんだん心配になって来ました(笑)。
 nice!ありがとうございます。
 
by ken (2006-03-06 01:18) 

きりきりととと

いつになく気合いの入った解説にプロとしての矜持を見ました。
by きりきりととと (2006-03-07 11:50) 

ken

ま、ま、まさか。ワタクシ、プロではございませんので!(笑)
でもお褒め頂き、nice!までありがとうございます。
by ken (2006-03-07 17:33) 

はち

はじめまして。はちと申します。
あんまり気に入ったので、この気持ちを誰かと分かつべくTBさせていただきましたが、ご迷惑でしたら削除していただいて構いませんです。

途中、一瞬理想的な展開を見せられるのが、ラストにかなり効いてる気がします(^^
確かに、過去をやり直したからって、より良い結果になるとは限りません。運が味方してくれた部分は自覚してないことが多いと思うので、むしろ「これだったらいじらない方が良かった」ということも多そうな気がします。
by はち (2006-06-06 16:23) 

ken

はちさん、こんばんは。
運が味方してくれた部分も人生の転機には往々にしてありますね。確かに。
「リトライしないほうが良かった」というのはある意味「最悪の展開」と
言えるでしょうね。面白いです。
by ken (2006-06-07 00:56) 

Sho

この映画を観よう、と思ったきっかけになったのが
kenさんのレヴューでした。
私は人の一生を「巨大なあみだくじ」のように感じたりしてたのですが、
どれを選んでも「ある意味」一緒、にも思いました。
とても面白い映画でした。
すてきなレヴューを、ありがとうございました。
by Sho (2006-06-10 08:58) 

ken

カオス理論は考えれば考えるほどドツボにはまる気もしますね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2006-06-11 14:38) 

デクノボー

kenさん、こんにちは。
こちらへのコメントで失礼します。
以前私のブログの「バタフライ・エフェクト」の記事にコメントとTBをいただいたのですが、事情があってブログが抹消されていまいました。
せっかくいただいたコメントも消えてしまい、申し訳ありません。
体裁は同じで立ち上げなおしましたので、TBさせてください。

忘れた頃にもう一度、この映画を観て、また楽しみたいと思います。
by デクノボー (2006-07-10 17:52) 

ken

ブログ抹消? ありゃりゃ、大変なことになってましたね~。
でも改めて頑張って下さいねー。
by ken (2006-07-10 18:16) 

クリス

人生の選択を自らが行っていると若い頃は信じていましたが、今はいろんな目に見えない力によってその方向に仕向けられてる(言葉が悪いけど)ような気がしています。
by クリス (2007-10-10 22:38) 

ken

生かされてる、と言ってもいいかも知れませんね。
by ken (2007-10-10 23:55) 

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