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続々僕の知らないところで亡くなった友へ [日記]

 
 まだ残暑も厳しいある日。
 僕はオフィスで昔撮ったリバーサルフィルムを整理していた。
 いくつかのケースを開け、中味を確認し、再び引き出しの奥にしまう、と言う作業を繰り返しながら、あるタイミングで僕は、何のキャプションついていない小さなケースを見つけた。

 

 中味はなんだろう?と思って1枚抜き取り、蛍光灯にかざしてみる。
 するとそこには懐かしい顔があった。

 佐藤クン、君だったよ。

 確か、ビクター青山スタジオのリハーサル室で撮った1枚だと思う。
 僕がLIVEの演出をするようになった頃、遊びでメンバーのオフショットを撮ってたんだよね。
 いろんなところで何枚も撮ったはずなのに、ここに残っていたのはわずか23枚。
 その中で君の写真は1枚きりだった。
 たった1枚だけれど、この写真、僕は嬉しかったよ。
 だってこれは、この瞬間確実に僕たちは繋がっていた、という証だから。

 でも僕はそれをしばらく眺めたあとで、また元の場所に戻すことにした。
 なぜって、僕はどうしてもフィルムを現像する気になれなかったから。
 どうしても。

 こんなことがあって、今年の夏はいつの間にか終わったんだ。


 
 

 夏が終わると、僕は必ず口ずさむ歌がある。

 「♪ 君の嫌いな東京も 秋はすてきな街 でも大切なことは ふたりでいること」

 君の命日が近づいてきたある日。
 僕はふと、
「この1年、何度君のことを思い出したかな」と、ぼんやり考えてみた。
 1年365日。
 きっとこの半分も思い出してなかったな。
 いや、“半分”の半分も思い出してなかったかも知れない。
 もしかしたら、たったの10回くらいだったんじゃないだろうか。

 こう聞いたら、君は僕のことを「薄情なヤツだな」と笑うだろう。

 2006年11月17日。君が死んで2年が過ぎた。

 ねえ。
 よく、「先に逝った人は、残された人の記憶の中で、生き続ける」って言うよね。
 でも僕はこうも思うんだ。
 「人は忘れるからこそ生きていける」
 過去の辛いことや哀しいこと、全部覚えていたら、僕はきっと生きていられないと思う。
 ねえ。
 僕は君のことをあまり思い出さなくなったから、この1年過ごせたような気がするんだ。
 だってふとした拍子に君のことを思い出すと、僕の機能はすべてが一旦停止するんだよ。
 今でもね。

 11月19日。

 2日遅れでお墓参りに行って来たよ。
 去年は全然気がつかなかったけど、つつじが真っ赤で驚いたよ。
 しかも付き合ってくれた彼女が持ってた傘と偶然同じ色だった。
 それはそれはきれいだったよ。

 

 それにしても、お墓と向き合うと言葉がないね。
 僕は墓石を触りながら、「また来るよ」と声をかけるのが精一杯だった。
 そして、雨に濡れた冷たい墓石を触ったら、無性に君に逢いたくなった。
 血の通った君の顔がどうしても見たくなった。


 だから僕は、夏にしまい込んだフィルムを現像に出すことにした。


 現像してみたら、これがピンボケだったことに気がついて、自分の未熟さを思わず笑ったよ。
 でもこれは、まぎれもない、血の通った君の顔だ。
 何かを考えているようで、でも考えていないような、ふとした瞬間に君がよく見せる顔。


 


 さて。
 今日から君は僕の家に来てもらうよ。
 ウチでは死んだ親父と並んでもらうことになるけれど、もしも居心地が悪かったら言ってくれ。
 そのときはまた、どこか居場所を考えるよ。

 じゃあな。


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コメント 9

きりきりととと

たしか昨年もこの方について書かれた記事を拝見いたしました。
ご冥福をお祈りすると共にkenさんのところで楽しく過ごされますように。
by きりきりととと (2006-11-26 07:59) 

魚河岸おじさん

記憶の中で行き続ける親しい人
ボクも機能が停止してしまう人が心の中に生きています
優しい文章を読みながら、今朝彼のことを思い出しました・・・・・・
by 魚河岸おじさん (2006-11-26 09:57) 

ecco

以前に記事に書かれた方ですね。
佐藤さんはシアワセな方ですね。
こんなに思ってくれる人がいるんですもの。。
by ecco (2006-11-26 10:38) 

Sho

お気を悪くされたら、どうぞ許してください。
ken さんの感じ方とは少し違うかもしれませんが、忘れていくことも又、一つの供養なのかもしれないと、この頃少し思うようになってきました。
ken さんの文章から、愛情がにじみ出ているように思いました。
by Sho (2006-11-26 22:20) 

ken

>hyperbomberさん
 ありがとうございます。
 2年経ってやっと吹っ切れてきた気がします。

>魚河岸おじさん
 先に旅立った大切な人のこと。ときどきは想ってあげるべきなんですね。

>eccoさん
 ありがとうございます。
 彼の人徳だと思います。

>Shoさん
 ありがとうございます。
 忘れないと辛いことたくさんありますよね。
by ken (2006-11-27 10:57) 

yamagen

もう2年たったのですね。
自分もメールの整理をしていたら懐かしい文章を見つけました。
最近、家人を亡くしたのですが、喪の過程というのは
少しずつ忘れていく過程なのだと感じています。
ということで今年は喪中です。こんな連絡に使ってごめん。
by yamagen (2006-11-27 11:01) 

ken

先生、お久しぶりです。
まったく音沙汰が無いので、先生まで逝っちゃったかと思いましたよ。
でもご不幸はあったのですね。お悔やみ申し上げます。
飲める体調かどうか心配ですが、久しぶりに一杯やりましょうよ。
by ken (2006-11-27 19:51) 

yamagen

常に飲める体調です。ただ喪があける
まではまって下さいまし。
たまになんかDVDないかなぁと思うと、ここに来ては
いるんです。
でも、1999年の夏は映画よりも鮮やかです。
また連絡しますね。
by yamagen (2006-11-28 17:55) 

ken

再会できる日を楽しみにしています。
by ken (2006-11-29 13:13) 

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