ユナイテッド93 [2007年 レビュー]
「ユナイテッド93」(2006年・アメリカ) 監督・脚本:ポール・グリーングラス
仮に僕が。
あの日ハイジャックされた4機のうち1機を選んで映画を作るなら、僕はユナイテッド93は選ばない。
僕ならワールドトレードセンターに激突した2機目のユナイテッド175を選ぶだろう。
※この先、いくらか不謹慎と取られても仕方のない話をします。興味のない方はスルーして下さい。
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この事件に触れた世界中の人々は、「もしも自分が当事者であったなら…」と誰もが一度は考えたと思う。
ハイジャックされた飛行機に乗り合わせていたら。
激突されたワールドトレードセンター(WTC)にいたら。
考えることすら恐ろしくなるような現実。
僕は亡くなった人たちのことを思えば思うほどこの作品は、「テロリストがどれほど酷いことをしたか」をアピールすべきだと思うし、そのためには最も残酷な瞬間を生きた人々の“その直前まで”を描くべきだったと思う。正直僕はそこに期待していた。
これはノンフィクションのドラマである。
過去何度も書いてきたように、すべての人が知る結末へ向う映画は、そのプロセスこそが最大の見せ場である。
今となっては知る由もない“追突までのプロセス”で最も劇的な要素は、航空局や管制塔の混乱ではなく、テロリストに立ち向かう乗客たちの勇気でもなく、突然人生の幕を下ろすことになった人々の絶望だと思う。
この映画はその絶望がいかにもたらされたか、を描けばいいのだ。
そこで冒頭の一文。
僕がユナイテッド93ではなく、ユナイテッド175を選ぶ理由は、他の3機では描けない「極めて残酷なワンシーンが撮れる」と踏んだからだ。
ユナイテッド175がWTCの南棟に突入したのは午前9時3分。
1機目の突入から17分後だ。
この17分の間にUA175便の乗員乗客が、1機目の惨事を知り得たかどうかは分からない。
しかし、距離、角度、高さから見て物理的に「目視は可能」と判断し、僕は目撃者がいたと言う設定で脚本を書こう。
すでにパニック状態の機内から黒煙を上げるWTCの北棟を目撃した乗客は、さらにどんな気持ちになっただろうか?
理解不能な光景。
しかし、人は弱気になると誰もが最悪の事態を想像する。その想像力は悲しいほど逞しい。
「黒煙を上げるWTCに、この機は突っ込もうとしている?」
そう気が付いたなら。
仮に僕だったらどう思うだろう。
神よ。あなたはなぜ私にこんな試練を与えるのか?
神よ。私の前に悪魔がいます。あなたはどこに?
だから僕は「ユナイテッド93」の少なくとも前半1時間(主に航空局や管制塔、軍関係者の様子を描いた部分)は必要ないと思う。
誰がどこでどんな混乱を起こしていようと、それはテロリストたちにとっては思うツボで、彼らがこのシーンを観たら間違いなく「してやったり」と歓声を上げることだろう。
そんな描写は最小限に抑えて、人種も宗教も異なる無実の人たちがテロリストの悪質な行為によって道連れにされる様を描いていれば、この映画は世界中の人々に重要なメッセージを発信することが出来たのだ。
なのに「ユナイテッド93」は当時の舞台裏を明らかにすると見せかけて、実はアメリカの正当性とアメリカの勇気を称えようとしている。
まったくナンセンス。こんな映画はただのプロパガンダ映画でしかないと断言する。
でもこの映画のおかげでひとつ勉強になることがあった。それは、
「映画に出来る大きな仕事のひとつはこの世の不条理を描くこと」
と気付いたことだ。
合掌。
thanks! 540,000prv
>「映画に出来る大きな仕事のひとつはこの世の不条理を描くこと」
同感です。 亡くなった方々のご冥福をお祈りします。
でも、死んでも死に切れない・・と、いう思いだったんだろうと拝察します。
by Sho (2007-10-02 06:33)
いつか行ってみたいな。グラウンド・ゼロ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-10-02 12:22)
kenさん、こんばんは。753です。
実は先日、「サルバドールの朝」という作品を観てきました。
近い内に感想をアップしようと思いますので、詳細はそこで f^_^;)
でもこの映画もkenさんの行っていた
「この世の不条理」
をこれでもかって感じで描いています。
「ユナイテッド93」は観終わって劇場を出るときに酔った記憶があります。
人の悪意とはこれほどのものかと感じて気分が悪くなったんだと思うのですが。
確かにラストシーンで乗客が立ち向かっちゃうってトコにヤられるのは
製作者側の思うつぼなのかも知れませんね。
グリーングラス監督はそうは言ってませんけど、
「テロに立ち向かう勇気→対テロ戦争の正当化」
と利用された側面もいなめないでしょうし。。。
「ユナイテッド175」の機内で最後にどのようなドラマがあったのかというのは
ワタシ、気になります。
その手の本とか読み漁りましたが、不思議なくらい93便以外の
飛行機内でどんなことがあったのか見当たらないんですよね。
事件当時の何かの番組でN.Yへ向かった2機の内、どちらかの機内での
様子を再現していたものがあったかと思うのですが。
“グラウンド・ゼロ”はワタシも行ってみたいです。
できるならば早い内に、新しいタワーが建つ前に。
でもワタシ、飛行機嫌いなんですヨ。
その上、あの事件のことを考えると… Σ( ̄▽ ̄;
by 和-nagomi (2007-10-02 20:26)
考えてみれば、「フォーリングマン」の扱いにしても
国の都合があったような気がします。
都合の悪いことは報じない、というのはどこの国も一緒ですけどね。
ミャンマーの事件もかなり心が痛む事件です。
この件に関してはいずれ書こうと思っていますが。
飛行機嫌いなら、グラウンド・ゼロ見に行くの大変ですねえ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2007-10-02 23:04)
うん。
共感できます。
by ecco (2007-10-02 23:44)
映画館で見ましたけど、辛かったです。
by きりきりととと (2007-10-03 00:21)
僕も鑑賞中も直後も「辛い」という感想でした。
でも、今は少し違う感想を抱いています。
というのも、最近、9.11陰謀説に関する本をいくつか読んだからです。
特にWTCでマスターキーをもっていた清掃員の話は、
にわかに信じ難いけれど「国家」の恐ろしさを感じます。
あの日の朝、地価1階にいた彼は、
まず大きな爆発音を聞き、カラダが浮くほどの衝撃を受けます。
それは自分がいた地下1階よりさらに地下で起きたそうです。
そして、1機目の衝突。
マスターキーをもっていた彼は、
非常口の鍵をひとつひとつ開けながらへ上へ……。
その途中、何度か爆発音や奇妙な機械音を耳にします。
そして、2機目の衝突。
消防士や警察官に説得され、地上に戻った彼が見た光景は
熱さに耐え切れず飛び降りた人々の死体……。
そして、ビルが崩れる予兆。
彼は、近くに止めてあった消防車の下に潜り込みます、
そして、4時間半後、奇跡的にあの崩れ落ちたビルの残骸の下から救助。
そんな彼を国が放っておくわけはないですよね。
ですから、最初はヒーローに仕立て上げられ、政治的に利用されます。
連邦議員への立候補も進められたそうです。
でも彼は死んでいった自分の仲間や友人のために真相究明を求めました。
調査委員会で数々の証言をし、他に生き残った人々を証言者として推薦。
しかし、報告書に彼の証言は一切採用されていません。
また推薦した証言者はひとりも召喚されていないそうです。
『New York Times』などの世論調査では、過半数前後の人たちが
9.11は、テロリストが単独で起こしたものではなく
なにかしらの形でアメリカが関わっているという疑問をもっているそうです。
つまり、知っていて見逃した。
その上で被害の演出や助長工作があった。
あるいは、アメリカ主導で行われた。
そういった疑惑です。
……たとえ、軍産複合体とはいえ、これが本当ならば
アメリカはもちろん、国家というのは実に恐ろしいなと思い
そして、この映画の観方も変わってしまったという次第です。
by Tapas (2007-10-03 00:51)
>eccoさん
そうですか。嬉しいです。
nice!ありがとうございます。
>hyperbomberさん
希望があるように見せかけてありませんからねえ。
nice!ありがとうございます。
>Tapasさん
僕は陰謀説に関する本は読もうとも思いませんでした。
というのも、アメリカは確かにそういうことをやる国だし、もしかしたら事実かも
知れないけれど、そんなことを知れば尚更犠牲になった人たちは浮かばれない
と思うからです。
いずれにしても残念なことですよね。
by ken (2007-10-03 12:22)