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陰日向に咲く [2007年 レビュー]

陰日向に咲く」(2008年・日本) 監督:平川雄一郎 脚本:金子ありさ

 原作未読。いつか読もうと思いながら映画を先に観てしまった。
 読んでいないから期待するものも何もなく、余計な評判も耳にする前だったので、そこそこ楽しめるだろうと思っていたら、思いのほか地味な作品でそこが一番驚いた。特に前半の1時間は平凡なこと極まりなく、ここからさらに70分もあるかと思うと少々うんざりしたが、実は前半が種まきで、それをちょうど折り返した辺りから摘み取っていく構造になっていた。

 そもそも一介のピン芸人がどんな小説を書いて話題になったのか、一番気になっていたのはそこだったのだけれど、映画を観たら納得した。これは劇団ひとりがネタを作る過程で掘り下げていくキャラクター設定のメモを丁寧に文章化したものだ。
 すごいと思った。
 日の当たらない人々に目を向け、その特異性をネタにしてきた劇団ひとりの創作能力を、彼自身のパフォーマンスとしてではなく、文章に置き換えさせた編集者のプロデュース能力を。
 そう思ったら無性に原作が読みたくなった。ここから先はそのあとで書こうと思う。
 こんなことは「
トニー滝谷」以来だ。
 


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 原作読了。
 想像通り「劇団ひとりのネタ」だった。けれどその内容は想像を超えていた。素晴らしく面白い。
 特にギャンブルで多重債務者になった男のエピソード「Over run」と、売れない漫才師2人の視点から綴った「鳴き砂を歩く犬」は秀逸だ。
 構造的には「短編集」だが、実はそれぞれの登場人物が別のエピソードで“重要な脇役”として顔を見せるのも巧い。アイディアとしては決して新しくないのだが、その絡め方が絶妙なのだ。問題はこれをどう脚本にするかである。
 307枚にも及ぶ小説をすべてを描き切るのは物理的に不可能。しかし「味わい」と「仕掛け」は生かさなくてはならない。これを脚本に起こす作業はかなり苦労したのだろう。映画ではその苦労の痕跡を至るところに見つけてしまう。


 映画化に際して原作からカットされたエピソード(「ピンボケな私」)がひとつあるが、これは大正解。これをカットしなければ塚本高史のキャスティングは不可能だっただろう。
 残念なのは「ホームレスになりたかった男」と「多重債務者になった男」の関係をオリジナルで作り上げてしまったことだ。僕はここを無理やり作る必要はなかったと思う。そのせいで後半はひどく間延びしてしまい、感動を薄めてしまっている。しかし、この設定でなければまた岡田准一のキャスティングも無かっただろう。
 総じてこの映画は、「実現のために清濁併せ呑んだ結果、少々“ピンボケ”になってしまった一本」と言わざるを得ない。

 映画を観ることよりも、原作を読むことを薦める。
 そのオマケ感覚で映画を観るくらいがちょうどいいだろう。

陰日向に咲く 通常版

陰日向に咲く 通常版

  • 出版社/メーカー: VAP,INC(VAP)(D)
  • メディア: DVD

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コメント 2

PomPomMom

ふむ。勉強になりました。
ちょっと読んでみたいかも。最近、読書から遠ざかっている・・・
by PomPomMom (2007-12-05 12:31) 

ken

軽く2時間程度で読めると思いますよ。
楽しんでください。
by ken (2007-12-05 13:59) 

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