潜水服は蝶の夢を見る [2008年 レビュー]
「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年・フランス/アメリカ) 監督:ジュリアン・シュナーベル
ある日突然、脳梗塞に襲われた「ELLE」の編集長ジャン=ドミニク・ボビー。
3週間の昏睡から覚めた彼は身体全体の自由を奪われる“ロックト・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)”になっていた。唯一動かせるのは左目だけ。やがて彼はまぶたの動きを使ってコミニュケーションを取り、自伝の執筆を始める…。
今年のゴールデングローブ賞で、外国語映画賞と監督賞を受賞した作品です。
外国語映画賞の監督が、監督賞を獲得するいわゆる“2冠”達成者は、1982年「ガンジー」のリチャード・アッテンボロー、2000年「グリーン・デスティニー」のアン・リーに続く3人目の快挙でした。
さて、こういうカットを見ると、2004年のスペイン映画「海を飛ぶ夢」をつい思い出してしまうのですが、これはそれよりも重度な障害を持った男のハナシです。そして比べちゃいけないんだけど「四肢麻痺なんてまだマシじゃん!」って思っちゃう。それほどロックト・イン・シンドロームは壮絶なんです。
オープニングから約11分間はひたすら主人公目線です。
ここで観客は「コミニュケーションが取れない絶望感」を追体験することになるのですが、これはいい演出だったと思います。脚本も良かった。
自分の意識はしっかりしている。相手の言うことも理解できる。ただ自分の思いを伝える方法だけが無い…。
こんな絶望的な状況はありません。それは生きることを諦めたくなるほどの息苦しい絶望でした。
この11分間は見ものです。
なぜなら「人間がいかに身勝手な生き物か」がここで明らかになるからです。
僕は肺がんで亡くなった父を思い出しました。
末期がん患者だった父は入院生活の途中で声を出すことが出来なくなりました。以降しばらくは筆談を続けていましたが、やがて身体を動かすことも難しくなり、父は顔を動かすだけでYES-NOを伝達するようになりました。
しかし問題はここからで、僕たちは父の言いたいことを汲み取って聞いてやれない、というジレンマに陥るのです。「喉が渇いた?おなか空いた?どこか痛い?痒い?気持ち悪い?寒い?暑い?まぶしい?」…いくら聞いても首を立てに振らない父。父の思いが汲み取れず、つい「じゃあ、なんなの?」と口走ってしまう僕。そのときの父の哀しげな表情は今も忘れることが出来ません。
そんな毎日が続く中で、父は徐々に生きる気力を失ったと思います。そして数日後、僕は「人間は気力を失うと死ぬ生き物」であることを知るのです。
本作の見応えは、生きる気力を失いかけていた主人公が、絶望の淵から立ち上がろうとするところにあります。そして彼の“言葉”が彼にしか生み出せない“言葉”になっているところも重要なポイントです。この原作には大いなる興味を抱きました。
残念なのは主人公に関わる女性たちの心情がうまく描ききれていないこと。特に“蝶”である女性の主人公に対する想いは明らかに描写不足だったと思います。
彼が本を書けたのは彼の“言葉”を汲み取った人たちのおかげです。
介護を体験した者から言わせると、言葉を拾った人たちの献身的な姿勢にも感動しました。
実話の持つパワーは凄まじい。
ある日突然、脳梗塞に襲われた「ELLE」の編集長ジャン=ドミニク・ボビー。
3週間の昏睡から覚めた彼は身体全体の自由を奪われる“ロックト・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)”になっていた。唯一動かせるのは左目だけ。やがて彼はまぶたの動きを使ってコミニュケーションを取り、自伝の執筆を始める…。
今年のゴールデングローブ賞で、外国語映画賞と監督賞を受賞した作品です。
外国語映画賞の監督が、監督賞を獲得するいわゆる“2冠”達成者は、1982年「ガンジー」のリチャード・アッテンボロー、2000年「グリーン・デスティニー」のアン・リーに続く3人目の快挙でした。
さて、こういうカットを見ると、2004年のスペイン映画「海を飛ぶ夢」をつい思い出してしまうのですが、これはそれよりも重度な障害を持った男のハナシです。そして比べちゃいけないんだけど「四肢麻痺なんてまだマシじゃん!」って思っちゃう。それほどロックト・イン・シンドロームは壮絶なんです。
オープニングから約11分間はひたすら主人公目線です。
ここで観客は「コミニュケーションが取れない絶望感」を追体験することになるのですが、これはいい演出だったと思います。脚本も良かった。
自分の意識はしっかりしている。相手の言うことも理解できる。ただ自分の思いを伝える方法だけが無い…。
こんな絶望的な状況はありません。それは生きることを諦めたくなるほどの息苦しい絶望でした。
この11分間は見ものです。
なぜなら「人間がいかに身勝手な生き物か」がここで明らかになるからです。
僕は肺がんで亡くなった父を思い出しました。
末期がん患者だった父は入院生活の途中で声を出すことが出来なくなりました。以降しばらくは筆談を続けていましたが、やがて身体を動かすことも難しくなり、父は顔を動かすだけでYES-NOを伝達するようになりました。
しかし問題はここからで、僕たちは父の言いたいことを汲み取って聞いてやれない、というジレンマに陥るのです。「喉が渇いた?おなか空いた?どこか痛い?痒い?気持ち悪い?寒い?暑い?まぶしい?」…いくら聞いても首を立てに振らない父。父の思いが汲み取れず、つい「じゃあ、なんなの?」と口走ってしまう僕。そのときの父の哀しげな表情は今も忘れることが出来ません。
そんな毎日が続く中で、父は徐々に生きる気力を失ったと思います。そして数日後、僕は「人間は気力を失うと死ぬ生き物」であることを知るのです。
本作の見応えは、生きる気力を失いかけていた主人公が、絶望の淵から立ち上がろうとするところにあります。そして彼の“言葉”が彼にしか生み出せない“言葉”になっているところも重要なポイントです。この原作には大いなる興味を抱きました。
残念なのは主人公に関わる女性たちの心情がうまく描ききれていないこと。特に“蝶”である女性の主人公に対する想いは明らかに描写不足だったと思います。
彼が本を書けたのは彼の“言葉”を汲み取った人たちのおかげです。
介護を体験した者から言わせると、言葉を拾った人たちの献身的な姿勢にも感動しました。
実話の持つパワーは凄まじい。
ものすごく見たくなりました。
>生きる気力を失いかけていた主人公が、絶望の淵から立ち上がろうとするところにあります。そして彼の“言葉”が彼にしか生み出せない“言葉”になっているところ
ここは自分で見て確認したいです^^
by Sho (2008-01-26 18:53)
私も見たくなりました。
グローブ賞を取って記憶に留めていたのですが
アカデミー賞でノミネートから外れたので気になっていました。
作風は「みなさん、さようなら」と「海を飛ぶ夢」と似ているようですね。
自伝と言うことは実話なのでしょうか・・・
心の琴線に触れる作品は自分のためにもドンドン観たいと思います。
by (2008-01-26 20:33)
「潜水服は蝶の夢を見る」
一度聞いたら忘れない素敵な題名ですね。
多分劇場では観られないかな、と思いますが、
遅れてでも必ず観よう!とkenさんの記事をみて思いました。
by てくてく (2008-01-26 23:38)
>Shoさん
息苦しい映画です。
生きる気力はどこから生まれてくるものかを目撃してください。
nice!ありがとうございます。
>Bettyさん
実話です。
主人公の環境は「みなさん、さようなら」と「海を飛ぶ夢」に似ていますが
テーマはまったく異なります。ぜひ楽しんでください。
nice!ありがとうございます。
>てくてくさん
僕はなぜ「服」なんだろうと思いましたが、観たら謎が解けました。
このタイトルを記憶に留めて、近い将来ぜひご覧になってください。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-01-27 00:55)
こんばんは。
こんな状態になっても自分の仕事をやり遂げた主人公と
言葉を書き取った人々に感動でした。観て良かったです☆
by non_0101 (2008-01-28 23:32)
両者共にあっぱれ!でしたね。
自分があの立場になったらどんな行動が取れるのか、
しみじみ考えてしまいました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-01-29 00:58)
こんばんは~。
崩れた氷河が逆回しで戻っていくエンディング映像も素晴らしかったです。
色んな人に薦めたいと思える映画でした。
by (2008-02-19 00:55)
エンディングの逆回し映像は、いろんな解釈の出来るいい演出でしたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-02-19 01:54)
私のブログへのコメントありがとうございました。
感想を読ませていただき、また映画が蘇ってきました。
by (2008-02-23 19:44)
いい映画でしたね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-02-24 01:20)
こんばんは。
kenさんの文章に、映画の感動jがよみがえり、
”心”を介護することの意味も凄く考えさせられました。
映画を観た後、私は突然逝った母のことを思い出し、
何もしてやれなかったことが残念で仕方なかったです。
by Naka (2008-03-11 19:25)
死に行くものに対して、残された者は確実に無力ですね。
でもそれ以上に生きることの素晴らしさを教わった気がします。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-03-11 22:35)