魂萌え! [2008年 レビュー]
「魂萌え!」(2006年・日本) 監督・脚本:阪本順治
「夫を亡くした妻の自立」というテーマは、今まで映画よりもテレビで目に触れてきたように思う。
特に「夫の死後、妻の知らなかった事実が次々と明らかになる」という展開はいかにもワイドショー好みのストーリーだ。
ところが阪本順治はこれを映画として充分通用するストーリーに昇華してみせた。
描くは、還暦を目前に控えた女性の“再生と復活”。
結論を前倒しにすると、エンディングはあまりに清清しく晴れやか。
不思議だった。
どちらかと言えば無骨な男の物語を得意としてきた阪本順治が、なぜ市井の女を主人公に、ここまで清清しいエンディングを描けたのか。
僕は遠い昔に観た1本の映画を思い出した。
「どついたるねん」
阪本順治の出世作。これも“再生と復活”の物語だった。
もう圧倒的に風吹ジュンがいい。
妻、母、主婦、恋する女、孤独な女、自立しようともがく女…。
男に比べればはるかに多面的な顔を持つ“女”を、風吹ジュンは監督に求められるまま、何事もなかったように、見事に演じ分けている。
シーンによって考え抜かれただろうメイクも巧かった。
特に夫の愛人だった昭子(三田佳子)が自宅に訪ねて来るシーンで、敏子(風吹ジュン)があわてて引いた不気味なまでに赤い口紅。それと対するように夫(寺尾聰)の蕎麦打ち仲間だった男(林隆三)と待ち合わせたときの若々しいヘアスタイル。あるいは女友達と会っているときのナチュラルメイク。カプセルホテルの支配人(豊川悦司)と会うときの地味なメイク。
“風吹ジュン七変化”と言えなくもないこれらのシーン別メイクは、そのまま「すべての女性が持つ可能性を表現している」と言っていい。これは、例えいくつになっても本人の努力次第で社会復帰も、恋愛も不可能じゃないと言う監督からのエールだと、すべての女性は受け止めるべきだろう。
僕は敏子が一人焼肉屋で生ビールをがぶ飲みし、その足で映写技師を訪ねるシーンが好きだ。
彼女は人生の新しい扉を開けるために酒の力を借りた。それは家庭と言う後ろ盾を失って“社会の弱者”になりつつあった敏子が土俵際でわずかに踏ん張り、それまでの過去をうっちゃるための“力水”だった。このシーンがエンディングの清清しさの布石にもなっている。そして何より、風吹ジュンが可愛い。
エンディングにはイタリア映画の傑作「ひまわり」が効果的に使われている。
ジョヴァンナ(ソフィア・ローレン)と敏子の対比は静かだけれど感動的だった。
佳作。
thanks! 810,000prv
「夫を亡くした妻の自立」というテーマは、今まで映画よりもテレビで目に触れてきたように思う。
特に「夫の死後、妻の知らなかった事実が次々と明らかになる」という展開はいかにもワイドショー好みのストーリーだ。
ところが阪本順治はこれを映画として充分通用するストーリーに昇華してみせた。
描くは、還暦を目前に控えた女性の“再生と復活”。
結論を前倒しにすると、エンディングはあまりに清清しく晴れやか。
不思議だった。
どちらかと言えば無骨な男の物語を得意としてきた阪本順治が、なぜ市井の女を主人公に、ここまで清清しいエンディングを描けたのか。
僕は遠い昔に観た1本の映画を思い出した。
「どついたるねん」
阪本順治の出世作。これも“再生と復活”の物語だった。
もう圧倒的に風吹ジュンがいい。
妻、母、主婦、恋する女、孤独な女、自立しようともがく女…。
男に比べればはるかに多面的な顔を持つ“女”を、風吹ジュンは監督に求められるまま、何事もなかったように、見事に演じ分けている。
シーンによって考え抜かれただろうメイクも巧かった。
特に夫の愛人だった昭子(三田佳子)が自宅に訪ねて来るシーンで、敏子(風吹ジュン)があわてて引いた不気味なまでに赤い口紅。それと対するように夫(寺尾聰)の蕎麦打ち仲間だった男(林隆三)と待ち合わせたときの若々しいヘアスタイル。あるいは女友達と会っているときのナチュラルメイク。カプセルホテルの支配人(豊川悦司)と会うときの地味なメイク。
“風吹ジュン七変化”と言えなくもないこれらのシーン別メイクは、そのまま「すべての女性が持つ可能性を表現している」と言っていい。これは、例えいくつになっても本人の努力次第で社会復帰も、恋愛も不可能じゃないと言う監督からのエールだと、すべての女性は受け止めるべきだろう。
僕は敏子が一人焼肉屋で生ビールをがぶ飲みし、その足で映写技師を訪ねるシーンが好きだ。
彼女は人生の新しい扉を開けるために酒の力を借りた。それは家庭と言う後ろ盾を失って“社会の弱者”になりつつあった敏子が土俵際でわずかに踏ん張り、それまでの過去をうっちゃるための“力水”だった。このシーンがエンディングの清清しさの布石にもなっている。そして何より、風吹ジュンが可愛い。
エンディングにはイタリア映画の傑作「ひまわり」が効果的に使われている。
ジョヴァンナ(ソフィア・ローレン)と敏子の対比は静かだけれど感動的だった。
佳作。
thanks! 810,000prv
これはドラマ化を見たのですが、もう高畑敦子さんが素晴らしくて!脇も良くて、「映画はいいかな・・」と思ってましたが、見る価値ありそうですね。
ドラマでも、主人公はとっても可愛らしくて愛おしかったです。
by Sho (2008-06-04 22:55)
ドラマもあったんですね。知りませんでした。
映画版もご覧になって、ぜひその比較レビューをお願いします!
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-06-05 01:40)
見ました。
ドラマに負けず劣らず、よかったです。
トラックバックさせてください。
この映画紹介してくださって、ありがとうございます。
by Sho (2008-06-07 22:46)
こんばんは。
この映画の風吹ジュンさんは本当に素敵でしたね(^^)
世間知らずな主婦だった主人公が少しずつ成長していく姿に
ついつい応援しながら観ていました。
ただ、こんなにいい作品だったのに、映画館には人があまりいなかった気が…
by non_0101 (2008-06-08 00:14)
すみません。何度か試みたんですが、どうしてもTBが上手くできませんでした。
by Sho (2008-06-08 06:14)
>Shoさん
ドラマに負けず劣らずということは、やはりドラマのクオリティも高いって
ことですね。素晴らしい。原作の力もあるだろうけど。
>non_0101さん
興行的にはいまひとつだったのでしょうか?
東京国際映画祭でもまずまずの評判だったと聞いたので、それなりに行くかと
思ったんですけどね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-06-09 02:10)
>僕は敏子が一人焼肉屋で生ビールをがぶ飲みし.....
この映画については全く知識なし、ですが、
風吹ジュンがこれをやっているシーンが、思い浮かびますね。ビールを持ってる手つきや、そのあと手で口を拭いた(想像)だろう様子、大きな息をついた様子などなど。こういうシーンの似合いそうな女優さんだなあと。
中年の良い味出してる女優さん、すくないですよね。日本は。
by snorita (2008-06-11 15:30)
主役を張っていた若い女優が、歳を重ねていい中年を演じられるようになると
すごくいいと思うんですけどね。プライドが許さないのかなあ。
by ken (2008-06-11 16:23)