敬愛なるベートーヴェン [2008年 ベスト20]
「敬愛なるベートーヴェン」(2006年・イギリス/ハンガリー) 監督:アニエスカ・ホランド
1824年5月7日。ウィーンケルントネル門劇場。
歴史的な一夜が訪れようとしていた。
交響曲第9番ニ短調作品125の初演。
この日ベートーヴェンは難聴であるが故、指揮することを恐れていた。
そんな彼を陰から支え、演奏会を成功に導いた一人の女性がいた。
アンナ・ホルツ、23歳。
彼女はベートヴェンの書いた楽譜を清書する写譜師だった…。
映画としてはかなり面白いです。
ここまでクオリティの高い音楽映画も久しぶりに観た気がします。
ただ、唯一残念なのは、これがフィクションであること。
アンナ・ホルツは架空の人物。
“第九”初演の夜、ベートーヴェンは舞台上にこそいたものの指揮をしたのは別の人物。
ここに目を潰れるかどうかが、本作の評価を分ける最大のポイントだと思います。
繰り返しておきますが、映画としては本当に面白いです。
まずベートーヴェンを演じたエド・ハリス。
乗り移ってます。何気にピアノもバイオリンも弾いてて驚きます。もう本物としか思えません。
「ポロック 2人だけのアトリエ」でジャクソン・ポロックを演じたときも「スゴイ!」と思いましたが、それをはるかに飛び越えてます。彼のベートーヴェンを超える役者は当分出て来ないでしょう。
アンナ・ホルツを演じたのはダイアン・クルーガー。
しびれるほどの美しさ。女性の作曲家など認められなかった時代にベートーヴェンの音楽を理解し、彼にアドバイスまで与えてしまう理知的で聡明な女性。彼女なしにこの架空の人物は創造出来なかっただろうと思わせるほどの存在感。
この2人がまさに“競演”する第九の初演シーン11分間は、(それが事実であろうとなかろうと)あまりに感動的な歴史的瞬間の再現でした。
エド・ハリスとダイアン・クルーガーの名指揮ぶりも、アシュレイ・ロウのカメラワークも、アレックス・マッキーの編集も、そして100以上あると言われる“第九”の録音から、テンポが速く力強い演奏を聴かせるアムステルダムのロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団(ベルナルド・ハイティンク指揮)の録音を選んだアニエスカ・ホランドのセンスも、総てが本当に素晴らしい。
そして演奏が終わったあと。耳の聴こえないベートーヴェンに届く“音の演出”も見事でした。
本作の構造は、17世紀のオランダの画家フェルメールが「青いターバンの女」を完成させるまでを描いた作品、「真珠の耳飾りの少女」と極めて似ています。
天才アーティストの現代に残る作品をアシストした無名の人。
この作品も大いなるフィクションですが、それでも許されたのは、なにより「フェルメールに謎が多い」からでしょう。
絵のモデルは誰なのか?絵はパトロンからの発注によるものなのか?自発的に描いたものか?
その想像力を働かせて作り上げたフィクションは、一種のファンタジーとして好意的に受け止められたのだと思います。
僕は「これが実話ならスゴイことだ」とヘンな期待をして観てしまいました。だから不満もあったのですが、これからご覧になる方は、大人のためのおとぎ話だと思って観れば、十分に感動できる“物語”だと思います。
少なくとも僕にとって“第九”演奏の11分間は、生涯忘れられない名シーンとなりました。
- アーティスト: サントラ,ルチア・ポップ,ペーター・シュライアー,キャロライン・ワトキンソン,ロベルト・ホル,ヴァルデマル・マリツキ,スティーヴン・コワセヴィッチ,ヴラディーミル・アシュケナージ,タカーチ弦楽四重奏団,ロンドン交響楽団,ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2006/11/22
- メディア: CD
これ、DVDで予告編を見て「面白そうだなあ」と思ってました。
陰で支えた女シリーズが好きです。
でもフィクションでしたか!ああ・・
by Sho (2008-06-07 22:51)
こんばんは。
この作品は映画祭で観た記憶があります。
監督さんが意外におちゃめな人で舞台挨拶も楽しかったです(^^ゞ
> アンナ・ホルツは架空の人物
なのですよね~ そこは舞台挨拶でも強く語っていたので、
監督さんが描きたかった女性像はどんな人だろうと思いながら観ていました。
第九の演奏は本当に圧巻でした!これだけでも観て良かった~と思いました(^^)
by non_0101 (2008-06-07 23:59)
>Shoさん
そうです。フィクションなんです。
でも良く出来てますよw
>non_0101さん
第九のシーンも、アンナが架空の人物だと思うと、そのありがたみも半減しますが
でも、いいシーンなんですよね~w
by ken (2008-06-09 02:11)
あれで終わりかと思ったほど大満足だった。ですた。
by **feeling** (2008-06-11 19:02)
あれ、とは“第九”の夜のことですね。確かにそう思いました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-06-11 19:20)