復讐するは我にあり [2008年 レビュー]
「復讐するは我にあり」(1979年・日本) 監督:今村昌平 脚本:馬場当
10月5日に急逝された緒形拳さんの代表作をwowowで観る。
原作は佐木隆三。
1963年に実際に起きた「西口彰事件」を題材にした小説で、1975年に直木賞を受賞している。
事件の概要は以下の通り。
福岡県の山道で2名の男性遺体が発見される。犯人は目撃者の証言などから前科4犯の西口彰と断定。福岡県警は全国指名手配する。
西口はその後、関西方面から、名古屋、静岡、東京と北上しながら逃走。途中詐欺や殺人を繰り返しながら、熊本まで戻ったところで逮捕された。西口は殺人5件、詐欺10件、窃盗2件で起訴され、1966年に死刑確定。1970年に執行されている。
実はこの事件をきっかけに「広域重要指定事件」制度が生まれている。
当時は東京オリンピックもあって国内の交通網が整備され始め、犯人が遠方まで逃走しやすくなり始めていた。ところが全国の警察署はそれぞれ縄張り意識が強く、連携捜査という意識が低かったため、捜査に重大な障害をもたらすようになっていた。
これを問題視した警視庁は、同一犯の犯行が複数の都道府県で起きた場合、全国の警察が捜査協力することを指導。その事件の指定を警視庁が行うことにした、というわけだ。
ドラマは榎津巌の最初の殺人から逮捕に至るまでが描かれている。
実に面白い。実録犯罪ドラマの中でも群を抜いていると思う。
しかし、「広域重要指定事件」が生まれたいきさつを聞くと、警察の混乱ぶりも見てみたいと思った。警察の連係プレーが巧くない中、それをあざ笑うかのように風を切って疾走する榎津巌の姿は、ある種痛快に映っただろう。
そんな空想はさておき。
僕は最初こそ拳さんへの追悼の念を持って観ていたのだけれど、ものの10分もしないうち拳さん演じる榎津巌に圧倒され、ドラマにずぶずぶとのめり込んでしまった。
榎津巌の憎々しい生命力。
それは演じた拳さん自身の「心技体」が充実していた証だ。
誰が言ったか知らないが、「若いときにしか出来ない仕事がある」、という言葉を思い出す。
振り返れば晩年の拳さんは、風に身をまかせる“ススキ”のような演技だった。
脇を固めた俳優の存在も大きい。巌の父と妻を演じた三國連太郎と倍賞美津子。そして巌の正体を知りながら情に絆された安宿の女将、小川真由美。少なくともこの3人がいたおかげで、拳さんのパワー溢れる演技が空回りせずに済んだように思う。
それをフィルムに収めたスタッフも見事な仕事をしていた。特に撮影の姫田真佐久。実は日本のカメラマンが得意とする“担ぎ(カメラ)”の映像は、観客が自らを「事件の目撃者」と錯覚してしまいそうな緊迫感を与えている。
それにしても、緒形拳と言う役者は笑顔が絵になる人だった。
そして笑顔の裏に潜む感情を出すのも巧い人だった。
合掌。
10月5日に急逝された緒形拳さんの代表作をwowowで観る。
原作は佐木隆三。
1963年に実際に起きた「西口彰事件」を題材にした小説で、1975年に直木賞を受賞している。
事件の概要は以下の通り。
福岡県の山道で2名の男性遺体が発見される。犯人は目撃者の証言などから前科4犯の西口彰と断定。福岡県警は全国指名手配する。
西口はその後、関西方面から、名古屋、静岡、東京と北上しながら逃走。途中詐欺や殺人を繰り返しながら、熊本まで戻ったところで逮捕された。西口は殺人5件、詐欺10件、窃盗2件で起訴され、1966年に死刑確定。1970年に執行されている。
実はこの事件をきっかけに「広域重要指定事件」制度が生まれている。
当時は東京オリンピックもあって国内の交通網が整備され始め、犯人が遠方まで逃走しやすくなり始めていた。ところが全国の警察署はそれぞれ縄張り意識が強く、連携捜査という意識が低かったため、捜査に重大な障害をもたらすようになっていた。
これを問題視した警視庁は、同一犯の犯行が複数の都道府県で起きた場合、全国の警察が捜査協力することを指導。その事件の指定を警視庁が行うことにした、というわけだ。
ドラマは榎津巌の最初の殺人から逮捕に至るまでが描かれている。
実に面白い。実録犯罪ドラマの中でも群を抜いていると思う。
しかし、「広域重要指定事件」が生まれたいきさつを聞くと、警察の混乱ぶりも見てみたいと思った。警察の連係プレーが巧くない中、それをあざ笑うかのように風を切って疾走する榎津巌の姿は、ある種痛快に映っただろう。
そんな空想はさておき。
僕は最初こそ拳さんへの追悼の念を持って観ていたのだけれど、ものの10分もしないうち拳さん演じる榎津巌に圧倒され、ドラマにずぶずぶとのめり込んでしまった。
榎津巌の憎々しい生命力。
それは演じた拳さん自身の「心技体」が充実していた証だ。
誰が言ったか知らないが、「若いときにしか出来ない仕事がある」、という言葉を思い出す。
振り返れば晩年の拳さんは、風に身をまかせる“ススキ”のような演技だった。
脇を固めた俳優の存在も大きい。巌の父と妻を演じた三國連太郎と倍賞美津子。そして巌の正体を知りながら情に絆された安宿の女将、小川真由美。少なくともこの3人がいたおかげで、拳さんのパワー溢れる演技が空回りせずに済んだように思う。
それをフィルムに収めたスタッフも見事な仕事をしていた。特に撮影の姫田真佐久。実は日本のカメラマンが得意とする“担ぎ(カメラ)”の映像は、観客が自らを「事件の目撃者」と錯覚してしまいそうな緊迫感を与えている。
それにしても、緒形拳と言う役者は笑顔が絵になる人だった。
そして笑顔の裏に潜む感情を出すのも巧い人だった。
合掌。
すごかったね。本当に。
by snorita (2008-10-24 09:12)
すごかった。ホントに。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-10-24 11:15)
レヴューを読んで観たくなりました。
蛇足ですが。
レッドクリフ、鳩飛んでますね、白いの。
by ばくはつごろう (2008-10-24 14:46)
最高の褒め言葉いただきました。
え!白いハトがやっぱり?! やるなあ、ジョン・ウーw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-10-24 15:11)
ずいぶん久しぶりですが、私もこの作品をもう一度見てみたくなりました
by マヌカン☆ (2008-10-24 17:57)
拳さんが遺した大きな仕事のひとつです。ぜひ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-10-24 20:49)
>それは演じた拳さん自身の「心技体」が充実していた証だ。
誰が言ったか知らないが、「若いときにしか出来ない仕事がある」、という言葉を思い出す。
おっしゃる通りですね。まさに油の乗り切った感がありました。
脇を固めた人達のすごさも同意です。
この作品が日本映画にあることが、ものすごいと思います。
by Sho (2008-10-24 21:44)
一時の日本映画は凄かったんですよ。やっぱり。
テレビ局主導になって売り上げは伸びたけど、中味はハテナですよねえ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-10-24 22:47)