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按摩と女 [2009年 レビュー]

按摩と女」(1938年・日本) 監督・脚本:清水宏

 SMAPの草なぎ剛が主演した「山のあなた 徳市の恋」のオリジナル。
 なぜジャニーズ事務所が数ある日本映画の中から、わざわざ戦前の本作を選んでリメイクしようと思ったのかは知らない。けれど清水宏作品の中では確かに面白い、良く出来た作品だと思う。

 伊豆の温泉宿で働く按摩の徳市(徳大寺伸)は、東京から独りでやって来た女性客、美千穂(高峰三枝子)に恋心を抱く。しかし彼女は甥っ子連れの客、大村(佐分利信)に気があるようだった。
 同じ頃、宿では財布から金だけが抜かれる盗難事件が起きる。しかも2度。信用問題に関わると宿は泣き寝入りするが、徳市は密かに美千穂を疑っていた…。

 これまでに観てきた清水作品、「有りがたうさん」、「簪(かんざし)」、「風の中の子供」と比べても秀逸なところは、まずこのストーリーだ。
 惚れた女を疑わなければならない主人公の葛藤。これは“サスペンスドラマの王道”である。主人公が選ぶのは「情」か、それとも「法」か。こんな究極の選択を情緒あふれた温泉宿で展開する辺り、本作は「2時間ドラマの原点」と呼んでもいいだろう。
 また「盲目の按摩が惚れた女の気配を追ううち、知りたくなかった事実を知る」という展開も絶妙だ。ここには「目は見えていても、物事の本質は見えていない」という、健常者に対する皮肉も折り込まれていて、多くの観客は視覚障害者の洞察力を改めて思い知ることになる。
 原作モノを多数手がけた清水宏だが、このオリジナル脚本の出来栄えは見事。しかもドラマの結末に意外な展開が用意されているのも、充分今に通用する仕上がりとなっている。

 先の3本と比較して特筆すべきは、フォトジェニックなショットが多いことだ。
 特に番傘を差した美千穂のウェストショットと、温泉宿を背負って佇む馬車のショットは、息をのむほど美しい。戦前の平和な伊豆の風景を楽しむだけでも充分に見応えのある、清水宏作品の傑作。

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  • 出版社/メーカー: 松竹
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コメント 4

Sho

「山のあなた 徳市の恋」のパッケージをTSUTAYAで見て、とても現在の映画と思えなかったら、その横にこの「按摩と女」が置いてあり、こちらがオリジナルと気づきました。
なるほど結構斬新に思えるものも、実はずいぶん昔に既にあったりするのかもしれませんね。
でもどうして今リメイクしたのか不思議な気がします。
by Sho (2009-09-08 23:57) 

ken

僕もリメイク版にはまったく興味がなかったのですが、
オリジナルを観てしまったら、俄然リメイクも観たくなってしまいました。
興行的には惨敗だったようですが、はたしてどうなんでしょうか?
by ken (2009-09-09 06:32) 

カオリ

戦前の伊豆の風景、見てみたいです。
kenさんの書かれたあらすじを読んで、新歌舞伎(明治から昭和初期にかかれた歌舞伎)のストーリーと雰囲気が似ているなぁと感じました。時代の雰囲気なのかもしれません。
by カオリ (2009-09-10 11:50) 

ken

クルマ社会になる前の伊豆の様子はとても風情があって美しいです。
また温泉宿の部屋の構造にも目が止まりますね。
今みたいに個室じゃなく、襖で仕切られただけのオープンな感じが
穏やかな時代を感じさせて良いです。
by ken (2009-09-11 12:07) 

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