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千年の祈り [2009年 レビュー]

千年の祈り」(2007年・アメリカ/日本) 監督:ウェイン・ワン 脚本:イーユン・リー

 「SMOKE」の監督ウェイン・ワンの新作。
 アメリカで暮らす娘イーランを訪ねて北京からやって来た年老いた父、シー。
 娘は離婚をして独り暮らしを始めていた。父はその娘を慰め、再婚を促すつもりでやってきたのだが、娘は父に何も話そうとしない。戸惑う父もまた、娘にかける言葉を次第に失っていく…。

 恐ろしく地味な映画です。
 父と娘がなかなか口を開かないので、「ウェイン・ワンは一体なにが言いたくて、こんな映画を撮ったんだろう」と思いながら途中まで観ることになります。そういう意味では、登場人物がとても雄弁だった「SMOKE」とはまったくテイストが違います。
 ところが事が次第に明らかになると、観客の心にずしりと重くのしかかるものが現れます。しかもスクリーンからではなく、観客の内側からぬるりと現れる。それは観客自身が心の奥底にしまいこんだ「誰にも明かすつもりの無い秘密」。あるいは「誰にも弁解するつもりの無い誤解」。
 “思い出さないことにしていた痛々しい記憶”は、本作によって突然サルベージされ、私たちは“その記憶”ともう一度向き合うことになります。スクリーンに映し出されるのはあくまでその一例。観客はドラマの行く末を見届けながら、「はたして自分はどうすべきか」を考えることになるでしょう。
 不思議な映画です。これは「自分と向き合うことで完結するドラマ」と言ってもいいかも知れません。

 登場人物と脚本について。
 最も感心したのは、シーが公園で出逢う「裕福なイラン人マダム」というキャラクターの配置。
 語るに充分な言葉を持ちながら話し合わない父娘と、語り合うには心もとない英語で必死に分かり合おうとする異国の2人。これは「父娘の間に出来た壁が、人種の壁よりも高い」ことの象徴だったように思います。いや、この設定は素晴らしかった。
 イーランを演じたフェイ・ユーもいい。決して幸福とは言えない日常を生きる女性の悲哀を、しっとりと全身で表現していました。ヘンリー・オーの枯れた演技もきっと観客の心に響くでしょう。
 ウェイン・ワンの名作「ジョイ・ラック・クラブ」とも共通した、“親子間のコミニュケーション”という問題をじっくりと考えさせられる佳作です。この邦題じゃ、ヒットしそうもないけど。

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コメント 11

midori

この映画の存在は知っていましたが,確かに,このタイトルではアンテナに引っかかってきませんでしたね.
このレビューを読んで,すごく観たくなりました.ありがとうございます.
お体のほうはいかがですか? ご自愛くださいませ.

by midori (2009-11-15 11:25) 

Sho

「千年の祈り」という言葉自体はきれいな気がしますが、内容が全くわからないですね。レヴューを読むうち非常に観たくなりました。
なんとなく「ゆれる」や「蛇イチゴ」(こちらは未見です)を思い出しました。
最後の一文で、すみません笑ってしまいました。
「タイトル」っていうのは難しいですねえ・・・
by Sho (2009-11-15 12:45) 

ken

>midoriさん
 さすがウェイン・ワンというか、相変わらずスクエアな客は相手にしない、
 ビターな映画を撮ってます。タイトルはともかく内容は悪くありませんよ。
 nice!&お気遣いありがとうございます。

>Shoさん
 ご指摘の通り、このタイトルでは何も想像させるものがありませんね。
 ちなみに「ゆれる」と「蛇イチゴ」は似て非なる作品です。
by ken (2009-11-16 00:36) 

Betty

「千年の祈り」だとヴァンパイアか?なんて思っちゃいます^^;

父と娘の間って照れや意固地など色々な感情が渦巻いて素直になれない部分ってあるのですよね・・・
とても重い内容のようで、鑑賞するには心の準備が必要みたいです@@;
by Betty (2009-11-16 10:03) 

ken

間違ってもスカッとする映画じゃありませんw
でも、秋の夜長にいろんなことを考えさせてくれる映画ではあります。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-11-16 12:53) 

ETC

う~ん、、後味があまりよくなかったです。
色々考えて。。
by ETC (2009-11-16 16:17) 

ken

そうですね。
そういう意味でも「自分と向き合うことで完結する」ように思いました。
by ken (2009-11-16 16:34) 

non_0101

こんにちは。
娘の立場で観てしまったので、途中まで父親の行動にう~んと思ったのですけど、
最後は納得していました。
話すことで心が通じることの大切さを実感させられる物語でした☆
by non_0101 (2009-11-21 12:58) 

ken

娘からすると、あのお父さんはちょっとウザいですね。
でも相応の意味があるわけで、最期までじっくり観るとグッとくる映画でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-11-23 16:50) 

クリス

仰るとおり、ことの次第が明らかになる迄がながくて、その後がよかっただけに、もちょっとバランスよければ・・・って思ってしまいました。
私は結局、自身をイーランを重ねることはできませんでした。
いろいろ違いすぎたんで。
でも、イーランたちも、最後にはいい親子だなって思わせてくれて、よかったです。
by クリス (2009-12-31 00:33) 

ken

良好な親子関係にあると、この親子はちょっと違和感があるかも知れませんね。
この2人も、もっと話せよって感じでしたw
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-31 01:09) 

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