ダーク・ハウス/暗い家 [2009年 レビュー]
「ダーク・ハウス/暗い家」(2009年・ポーランド) 監督:ヴォイテク・スマルゾフスキ
東京国際映画祭4本目。「コンペティション部門」作品。
今年のコンペティションは例年以上に「観たい」と思わせる作品が並んでいた。
まず辻仁成がアントニオ猪木を主演に撮った「ACACIA」
近代中国史を背景に一人の若い女性の成長を描く「永遠の天」
自分をロシア革命家の生まれ変わりと信じる高校生の騒動を描いた「少年トロッキー」
現代のフィリピン社会で懸命に生きながらも脱落していく男の実話「マニラ・スカイ」
しかし、いずれもスケジュールの都合がつかず断念し、唯一観ることが出来たコンペ作品がポーランドの犯罪心理劇だった。
「大雨の夜に発生した事件と、4年後にその現場を検証する警察と容疑者。二つの時間に人間の欲望が渦巻く犯罪劇!」
僕はこのTIFF公式サイトのコピーを読んで、犯罪捜査映画の傑作中の傑作「殺人の追憶」を勝手にイメージした。そして「また、あんな映画が観られるといいな」という小さな期待を抱きつつ劇場へ向かったのだが、やはりこれは似て非なる物語。しかし否定するものではない。見慣れない外国映画の“文法”を愉しむのも、国際映画祭の愉しみの一つである。
まず驚かされたのは、思い切りの良さだ。
大きくは、時間軸をずらして4年前と現在(いま)を激しく交差させる構成。そして細かくは、主人公の妻が迎えるあまりに唐突な死の描写。
前者は4年前を「雨」、現在を「雪」の中で描き、その差別化を図っているところが“技アリ”だが、主人公の風貌を変化させ過ぎていて、僕は同一人物と理解するまでに若干の時間を要してしまった。
後者は本編の「鍵」となるシーンだったと思う。
主人公の妻は火にかけた鍋をテーブルに運ぶ途中で何の脈略もなく卒倒する。手をかける間もない即死。主人公以上に観客を驚かせるこの描写は、あとに続く「不条理」にリアリティを持たせるための極めて重要な伏線と言っていいだろう。このシーンのおかげで、観客は大概のことに疑問を持たず、劇中にずるずると引きずり込まれて行く。
しかし残念なことに体感時間は実尺(109分)を大きく超えていた。それは僕がポーランドの背景を理解していなかったからだ。
事件が起きた1978年は社会主義時代の末期。一方、事件の捜査が行われた1982年はワレサ議長率いる自主管理労組「連帯」と当局の対立が激化し、戒厳令が敷かれていた年。ここを理解していなければ、「殺人事件の捜査をする警察の面々が、まったく別の事件を隠ぺいしようとするドラマ」を完全な形では愉しめない。本作には「酒」と「煙草」が重要なアイテムとして登場するが、「酒に逃げるしかない社会」を僕たちは予備知識なしに理解することは出来ないからだ。
興味深い設定だっただけに、予習せずに観てしまった自分を呪った。
裏を返せば、予習すればかなり愉しめる作品だと言える。リトライしたい一篇。
すごく楽しく拝見させていただきました。
僕もマニラの旅行記書いていますので、
ぜひ見に来てくださいね。^^
by Sてう@旅行記サイト (2009-11-05 11:41)
ありがとうございます!
by ken (2009-11-05 12:38)