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二つのロザリオ [2009年 レビュー]

二つのロザリオ」(2009年・トルコ) 監督:マフムト・ファズル・ジョシュクン

 東京国際映画祭5本目。WORLD CINEMA部門作品。
 
 「WORLD CINEMA」部門とは、今年海外の映画祭で話題になった作品や、有名監督の新作で日本公開が決定していない作品を紹介する部門なのだそうだ。
 その中の1本である本作はロッテルダム映画祭で最高賞を受賞した作品で、カトリック教徒の娘に思いを寄せるイスラム聖職者の儚い恋を描いたもの。
 
 個人的には、ここ2本ヘヴィーな映画が続いたので、予備知識なく観られるほのぼのコメディにまずはホッとした。国際映画祭のプログラミング・ディレクターを務めることがあったら(ねーよ)、ラインナップには「硬軟のバリエーションがとっても大事」と覚えておこう。
 もうひとつ。およそ北米では通用しないだろう“ベタ凪ぎ”のドラマにすんなりと感情移入を果たし、素直に楽しめた自分自身にもホッとした。と言うのも、本作は映像で見せるもの以上に、観客の想像力でしか観ることの出来ない、主人公の「心の揺れ」が最大の見どころだったからだ。それほど穏やかなドラマである。そして、人を好きになった経験さえあれば、誰にでも楽しめる作品でもある。この間口の広さは商業映画としても褒められる。

 主人公の男性ムサを演じたナーディル·サルバジャクがいい。
 セリフが極端に少ない脚本は俳優の演技が作品の出来を大きく左右するが、本作においてはまったく申し分なし。彼の表情が観客を笑わせ、泣かせ、胸を熱くさせる。特にラストショットで見せる彼の表情。僕はこれ以上せつないラストショットを今まで見たことがない。
 また僕はこのトルコ産映画に、恋愛における「当たり前のこと」と、「当たり前じゃないこと」をひとつずつ見つけた。
 当たり前のことは、「恋は告白をしなければ、それ以上決して前に進まない」ということ。
 当たり前じゃないことは、「世の中には絶対に実らない恋がある」ということだ。
 なかなか告白をしないムサにイラついたら、この映画は観ていられない。しかしムサには「晩熟」という自身の性格と、「信仰の違い」という抗いようのない現実が“二重苦”となって圧し掛かっていた。だからこのドラマは面白いのだ。
 日本人の恋愛にはありえない障害。これを観たら、「よし」と行動に移す人もきっといることだろう。
 人の背中を押してくれる映画も、きっと「いい映画」と言っていい。

二つのロザリオ.JPG

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rennka

映画を観る前から,サムにイライラしそうですが(笑)
観てみたい映画です。

体調を崩されているとの事,大丈夫ですか?
旅が多いのは,羨ましいです。
旅先でのリフレッシュ,期待ですね。
by rennka (2009-11-05 21:33) 

ken

rennkaさん、サムじゃなくて、ムサですw
体調は匍匐前進並みのスピードで回復しています(たぶん)。
ここまでの旅はすべて仕事なので、逆にストレスもたまるんですよねえ。
お気遣い&nice!ありがとうございます。
by ken (2009-11-05 23:06) 

rennka

あちゃちゃ・・・ムサ・・でした(笑)
ごめんなさい。
私も疲れてる??(笑)
by rennka (2009-11-05 23:56) 

ken

へへへ。
これから忙しいシーズンになりますから、お互いここは息抜きしましょうw
by ken (2009-11-06 00:02) 

クリス

あ~!
この作品、めちゃくちゃ観たかったんですよo(>_<)o
劇場公開、されるでしょうか・・・?
トルコ映画って、けっこう良作も多いんですよね。
私の昔の同居人(イスラム教)は、カトリックの彼女と出会って、
心から好きあっていましたが、彼の両親が大反対してしまって
別れました。
理不尽な気もしたし、やっぱり宗教がからむと根深いなと
感じましたね。
by クリス (2009-11-06 00:40) 

ken

登場人物はこの2人のほかに、もう一人重要な人物がいて
この三角関係が意外と面白いんです。
だからシネスイッチとか、シネマートとかで掛かってもいいと思うんですけどね。
イスラムの友人がいたなら、なおさら観て欲しい小品です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-11-06 01:15) 

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