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宇宙大怪獣ギララ [2009年 レビュー]

宇宙大怪獣ギララ」(1967年・日本) 監督:二本松嘉瑞

 濃厚な韓国映画を観たあとにギララである。
 「なんたる雑食」と思われる方もいらっしゃるだろうが、このチョイスには僕なりの理由がある。
 実は雑誌「東京人」の11月号で「映画の中の東京」という特集がされていたのだけれど、中に映画評論家の川本三郎さんが「失われた昭和を求めて~今ひとたびの『銀幕の東京』」というコラムを書いていて、そこにこんな一節があった。

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 山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズの第34作「寅次郎真実一路」(59年)は、このシリーズのファンにもあまり面白くなかったので、そういったら、若い映画好きがこんなことをいった。
 「僕はとても好きです。だって冒頭の寅さんの夢のシーンにギララが出てきたじゃないですか」
 (中略)これを聞いた時、ギララを知らなかった人間として、なんというか「負けた」と思った。(中略)彼は映画を大上段から批評しているのではない。ただ、味わっている。批評家より彼のほうが豊かな映画体験をしているのではないか。
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 僕も「なるほど」と思った。
 映画という有形財産は製作者のものであるけれど、映画は公開された瞬間から観客の無形財産にもなる。観客が抱いた“映画に対する思い”は、紛れもなく観客自身のものであるからだ。また、その“思い”は仮に少数意見だったとしても、第三者から非難されるべきものではない。
 ただし意見の食い違う者同士が、相手の意見を尊重しつつ、その映画の持つ魅力を語り合うのは、すばらしく生産的なことだと思う。たとえば僕が「風と共に去りぬ」のレビューで、「おーい、ちょっと待てーい!」と書いたことに端を発したコメントツリーは手前味噌だがその好例だ。
 僕は川本さんのコラムを読まなければ、きっと「ギララ」を観なかったと思う。松竹映画製作の怪獣映画は後にも先にもこれ1本きりで、以降、松竹が一度もこのジャンルに手を出さなかった理由は、本作のクオリティが招いた興業的惨敗にあることは間違いない。
 しかし、コラムに登場した“若い映画好き”は、こういった先入観がそもそも間違いであることを僕に教えてくれた。ステロタイプな発想では「豊かな映画体験」を得ることは出来ない、という自己反省を含めて僕は本作を観てみることにしたのだ


 オープニング早々、いくつか驚いたことが。
 まずオープニングテーマをボニー・ジャックスが爽やかに歌っている。
 タイトルは「ギララのロック」(おい!)。

 「♪地球、僕たちの星/宇宙、僕たちの世界/未来、僕たちの明日/皆、僕たちのもの」

 
…ってロックじゃねーし。昭和歌謡だし!(笑)。
 で、本編に入って驚いたのは、登場する宇宙船「AABガンマ」の造形に見覚えがあったこと。しかも今見てもちょっとカッコイイ。宇宙空間でケツから青白い火をボーボー出しながら飛んで行くのはどうかと思うけど、このデザインは悪くない。きっとプラモデルとかになっていたんだろう。で、なきゃ、僕が知っているはずがない。
 88分の映画でギララが45分過ぎまで出て来ないのも驚いた。
 その間はオチのない宇宙コントを観ている気分。ギララの登場を今か今かと待っていた子どもはずいぶん焦らされてしまったんだろう。その反動で「やっと出た!バンザーイ」だったのかも知れない。
 ドラマに恋愛の要素が含まれていて、それがエンディングに結び付くという展開も珍しい。そして留めに倍賞千恵子(さすが松竹!)がエンディングテーマ「月と星のバラード」を歌いあげる。

 「♪月と星のかなた はるかなこの空の果て/行きつくことのない 限りない この世界に
  あまりにも あまりにも ふたりは小さい/あまりにも あまりにも ふたりは小さい」

 永六輔先生の作詞である。「人間は小さい」と言うより、「宇宙は大きい」と言われたほうがよほど気分がいいのに、と思いつつ、倍賞千恵子の能天気な歌声を聴きながら、「ギララで言わんとしたことは、そういうことか?」と思った。
 絶対に違う。好意的にとるなら、「新たな環境因子や生物種の導入は生態系の崩壊や種の絶滅に繋がりかねない」というメッセージである。当時そういう意識があったかどうかは別だが、今となっては極めて重要なメッセージだ。

 とまれ、この1本で僕が「豊かな映画体験」を出来たかどうかは分からない。けれど、ひとつ気が付いたことがある。「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の冒頭で登場して観客を驚かせたゴジラ。このアイディアは意外と「寅さん×ギララ」から来ていたんじゃないだろうか。そこに気付いただけでも、ギララは観た甲斐があった。なるほど、いい映画体験だった。

宇宙大怪獣ギララ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • メディア: DVD

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コメント 2

きさ

ギララですが、リアルタイムで見た様な気がします。
当時は怪獣映画ブームで各社作っていました。
本家東宝のゴジラ、大映のガメラ、大魔神、日活のガッパ、そして松竹のギララ。
どれも面白かったですね。
素直にギララを見るkenさんは偉いと思います。
by きさ (2009-11-20 23:40) 

ken

挙げていただいた中で観ていないのはガッパだけなんですよね。
せっかくだから観てみようかしらw
by ken (2009-11-23 16:46) 

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