SSブログ

アイム・ノット・ゼア [2009年 レビュー]

アイム・ノット・ゼア」(2007年:アメリカ) 監督:トッド・ヘインズ

 ボブ・ディランの半生を6人の俳優によって描き分ける実験的映画。
 …と言いながら、主人公は誰もボブ・ディランを名乗っていない。これがまず僕を混乱させた。
 「THE FREEWHEELIN' BOB DYLAN」と思われるレコードジャケットも登場するが、似て非なるアートワークにしてしまっているし、ならば「詩人、無法者、映画スター、革命家、放浪者、ロックスター、すべてボブ・ディラン。6人の豪華キャストが演じる、生ける伝説」なんてコピーをチラシに掲載すべきではないと思う。僕に言わせればこれは「ボブ・ディランの生き様にインスパイアされた、トッド・ヘインズが独創的に構築したフィクション」である。

 断っておくと、僕はMTVアンプラグドのアルバムを1枚持っているきりで、ボブ・ディランのことは何も知らない。だからこそ僕はボブ・ディランのことが知りたくて観たのだけれど、何の知識も持たずに本作を観ると混乱するだけだ。少なくとも彼が辿った半生は知っておく必要がある。その裏側でディランは“どんな表情をしていたのか”を覗くのが、本作の正しい見方だろう。
 僕は何も理解できずにだらだらと観ている最中、「そういえば、みうらじゅんはこの映画をどう評価したのだろう?」と思った。そして映画のあとで調べてみたら、彼のこんな感想を拾うことが出来た。

 「この映画は『好きな人は好きかもしれないけれど、苦手な人はわからない』が、正直な感想です。だから、好きな人が観ればいいんじゃないですか?」

 仰るとおり。そして僕には分からなかった。
 ただし、映画の質感はとても良かった。リズムも、ダイアログも、俳優たちの演技もかなりいい。だから僕は「地獄の黙示録」以来、「この映画を理解したい」と心から思った。
 みうらじゅんさんは「オープニングの汽車が走っている映像の上に『メンフィス・ブルース・アゲイン』がかかって始まる。まるでこの映画のために作られた曲のようにかっこ良かった」と同じインタビューで語っていたけれど、ディランを知ればなるほどとうなずけるポイントがきっといくつもあるはずだった。それが理解できないのは悔しかった。悔しいと思わせるほど、これはスタイリッシュな映画なのだ。
 
 俳優の中では唯一、女性でディラン(をモデルにしたジュード)を演じたケイト・ブランシェットがいい。特にクライマックスで「僕はフォーク歌手じゃない」と語ったあと、しばらくしてカメラ目線になるのだが、その“目力”に衝撃を受けた観客は少なからずいただろう。「見ていたつもりが、実は見られていた」という主従逆転の衝撃。僕は「君たち(オーディエンス)が僕(ディラン)をどう見ていたかは知らないけれど、僕だって君たちを冷静に見ていたんだぜ」というメッセージかと思った。ディランに詳しい人は、あのショットをどう受け止めたのか聞いてみたい。

 実験的映画と評されたこの映画の構造は素晴らしいアイディアだと思う。
 「一人の生涯を、まるで群像劇のように多人数で描く」はぜひ別の人物で観てみたい。もしやマイケル・ジャクソンならかなり面白い作品になるんじゃないだろうか?

アイム・ノット・ゼア [DVD]

アイム・ノット・ゼア [DVD]

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: DVD

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トワイライト~初恋~容疑者Xの献身 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。