接吻 [2010年 ベスト20]
「接吻」(2006年・日本) 監督:万田邦敏 脚本:万田珠実、万田邦敏
小池栄子主演のインディーズ映画は、まるでキム・ギドク作品のような味わい。理解し難い主人公の感情と展開に最期まで目が離せなかった。しかも、これが原作なしのオリジナル脚本であるところに価値がある。この世には映像でしか表現できない文学もあるのだ。
無差別殺人を犯し逮捕された坂口秋生(豊川悦司)は、自らメディアを呼び逮捕の瞬間をテレビ中継させ、その瞬間カメラに向って不適な笑みを見せた。その様子を偶然テレビで見ていたOLの遠藤京子(小池栄子)は、突如として事件に興味を持ち始め、裁判が始まるや弁護士の長谷川(仲村トオル)にまで接触。そこで京子は「坂口に差し入れをしたい」と申し出た…。
序盤、まったく関係の無い2人の様が、時折カットバックで描かれる。観れば観るほど何の脈略もない2人。しかし明らかに主人公と思われる2人である。
「彼らはこの先、どう繋がっていくのか?」
映画を観ていて最もワクワクする瞬間だ。それは落語の三題噺を聞く愉しみに似ている。関係性のないワードを、どう繋いでストーリーに仕立てるのか。噺家にとって腕の見せどころである。脚本家もしかり。そう思えば映画だけでなく人生そのものも、繋がらないはずの人間同士が繋がるから面白いのだ。
僕が「キム・ギドク作品のよう」と感じたのは、人間の狂気が2つ重ねられているからである。
大抵のドラマは一人の“狂気”で成立している。たとえば「羊たちの沈黙」はレクター博士の狂気が軸であり、「スター・ウォーズ」はダース・ベイダーの狂気が軸となってサーガが構築されている。
ところがキム・ギドクは、狂気の上にもうひとつ別の狂気を重ねようとする。その目的は狂気を狂気と思わせないためである。たとえばクラスにバカが一人なら目立って仕方ないが、2人もいるとどちらか片方は「まだマシな方」と思えるのと一緒。こうして観客の偏見を取り払おうとしているのだ。
このテクニックに長けているのが、ティム・バートンとキム・ギドクの2人である。
特にキム・グドクは、「人の“物差し”を壊す天才」だ。異常だと思っていた他人の狂気が、もしや自分の中にもあるかも知れない、と観客に思わせるテクニックは見事である。
「接吻」にはギドクのそれに近いものを感じた。
自分の中で、いつどんな感情が芽生えるか分からない。
こんなに怖いことが他にあるだろうか。
殺人は悪である。誰もが分かっていながら、それでも殺人のニュースを聞かない日は無い。
考えたくないことを考えさせるのがギドク映画である。僕はラストで「接吻」の意味までも激しく考えさせられた。
とにかく小池栄子が素晴らしい。
テレビでの印象を一切消した、中でも能面のような表情が秀逸だった。薄幸のOLという役をここまでこなせるとは思いもしなかったし、小池栄子を選んだスタッフに拍手を送りたい。
少しだけ作品に注文をつけるなら、長谷川の感情描写が若干足りなかったことと、直前に結末が読めてしまうことくらい。
面白かった。
小池栄子主演の新作がないことだけが残念だ。
小池栄子主演のインディーズ映画は、まるでキム・ギドク作品のような味わい。理解し難い主人公の感情と展開に最期まで目が離せなかった。しかも、これが原作なしのオリジナル脚本であるところに価値がある。この世には映像でしか表現できない文学もあるのだ。
無差別殺人を犯し逮捕された坂口秋生(豊川悦司)は、自らメディアを呼び逮捕の瞬間をテレビ中継させ、その瞬間カメラに向って不適な笑みを見せた。その様子を偶然テレビで見ていたOLの遠藤京子(小池栄子)は、突如として事件に興味を持ち始め、裁判が始まるや弁護士の長谷川(仲村トオル)にまで接触。そこで京子は「坂口に差し入れをしたい」と申し出た…。
序盤、まったく関係の無い2人の様が、時折カットバックで描かれる。観れば観るほど何の脈略もない2人。しかし明らかに主人公と思われる2人である。
「彼らはこの先、どう繋がっていくのか?」
映画を観ていて最もワクワクする瞬間だ。それは落語の三題噺を聞く愉しみに似ている。関係性のないワードを、どう繋いでストーリーに仕立てるのか。噺家にとって腕の見せどころである。脚本家もしかり。そう思えば映画だけでなく人生そのものも、繋がらないはずの人間同士が繋がるから面白いのだ。
僕が「キム・ギドク作品のよう」と感じたのは、人間の狂気が2つ重ねられているからである。
大抵のドラマは一人の“狂気”で成立している。たとえば「羊たちの沈黙」はレクター博士の狂気が軸であり、「スター・ウォーズ」はダース・ベイダーの狂気が軸となってサーガが構築されている。
ところがキム・ギドクは、狂気の上にもうひとつ別の狂気を重ねようとする。その目的は狂気を狂気と思わせないためである。たとえばクラスにバカが一人なら目立って仕方ないが、2人もいるとどちらか片方は「まだマシな方」と思えるのと一緒。こうして観客の偏見を取り払おうとしているのだ。
このテクニックに長けているのが、ティム・バートンとキム・ギドクの2人である。
特にキム・グドクは、「人の“物差し”を壊す天才」だ。異常だと思っていた他人の狂気が、もしや自分の中にもあるかも知れない、と観客に思わせるテクニックは見事である。
「接吻」にはギドクのそれに近いものを感じた。
自分の中で、いつどんな感情が芽生えるか分からない。
こんなに怖いことが他にあるだろうか。
殺人は悪である。誰もが分かっていながら、それでも殺人のニュースを聞かない日は無い。
考えたくないことを考えさせるのがギドク映画である。僕はラストで「接吻」の意味までも激しく考えさせられた。
とにかく小池栄子が素晴らしい。
テレビでの印象を一切消した、中でも能面のような表情が秀逸だった。薄幸のOLという役をここまでこなせるとは思いもしなかったし、小池栄子を選んだスタッフに拍手を送りたい。
少しだけ作品に注文をつけるなら、長谷川の感情描写が若干足りなかったことと、直前に結末が読めてしまうことくらい。
面白かった。
小池栄子主演の新作がないことだけが残念だ。
確かにキム・ギドクの映画と似た雰囲気がありますね。
この作品の存在を知ってから、とにかく見たくて見たくて溜まりませんでした。
ラストの彼女の行為は、その後の台詞の体現だと思います。もう誰にも自分を思い通りになどさせない。自分は自分の意思でこういうことだってするのだ!という、雄たけびのようにも感じました。
小池栄子は本当に素晴らしかった。
私はこの作品が本当に好きです。
by Sho (2010-04-02 23:08)
こんばんは。
小池栄子って、あの小池栄子ですよね、グラビア系アイドルの。
役者としてぜんぜん注目していなかったですけど、kenさんが
そんなにいいとおっしゃるなら、いいに違いないと思います。
それに、キム・ギドク作品に似てるなんて、ちょっと魅力的です。
ストーリーもおもしろそうだし、観てみますね。
by coco030705 (2010-04-03 00:08)
本作録画して見るのをとってあります。好物の予感がして。当たりですね。嬉しいです。小池栄子は大河ドラマのときもすごく良くて、いい作品さえ出会えばもっとすごいだろうなと思っていました。この人は結構底が深いですよ。
by satoco (2010-04-03 09:24)
>Shoさん
僕にはまだ「接吻」の答えが出せずにいます。
でもShoさんの仰ることも、分かるような気がします。
Shoさんがこの作品のことを好きだと仰るのも分かる気がします。
nice!ありがとうございます。
>coco030705さん
あの、小池栄子ですw
僕は彼女の大きな胸も、重要な意味があったように思います。
彼女が演じた京子は、自身を“持て余していた”気がするからです。
良かったらご覧になってみてください。
nice!ありがとうございます。
>satocoさん
きっとsatocoさんの好物だと思いますw
小池栄子さんにはもっといいホンに出逢って欲しいと思いました。
舞台とかも観たいなあ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-04-04 21:50)
ノーマークでした.
この記事を読んで,アマゾンで調べたら新品が安く出ていたので注文し,昨日届いており,早速観ました.
最初からグーッと惹き込まれて,映画のタイトルなんて頭から飛んでいたので,最後のシーンですごく動揺しました.
まだ不思議な感覚が体に残っていて,つい『接吻』の意味を考えてしまいますね.
役者も良かったし,監督夫妻のオリジナル脚本も良かった.3人の言動が「精神分析」の世界のようでした.
何度も見返す映画だと思うので,買って良かったです.
ご紹介ありがとうございました.
by midori (2010-04-08 11:35)
不思議な求心力のある映画だったと思います。
人間は社会との関わり方次第で、犯罪を犯してしまうのだと
強く思い知った作品でもありました。
観ていただけて良かったです。nice!ありがとうございます。
by ken (2010-04-08 13:22)