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裸の十九才 [2010年 ベスト20]

裸の十九才」(1970年・日本) 監督・脚本:新藤兼人 脚本:松田昭三、関功

 殺人事件で死刑判決を出す際に参考にされる死刑適応基準、通称「永山基準」の元となった死刑囚・永山則夫の半生を描いた作品。

 僕は何がきっかけだったか、ずいぶん昔から死刑制度に興味があって、その問題を扱った本を読んだり、ドキュメンタリーを観たり、映画を観たりして来た。そのおかげで僕は、日本の死刑制度の在り方に疑問を持つ人間になってしまったのだけれど、「では、死刑制度はどうあるべきか」を探るために、今もいろんな文献やこういった作品に触れている気がする。
 
 この映画を観ようと思ったのは、2009年10月11日にNHKのETV特集で放送されたドキュメンタリー、「死刑囚 永山則夫~獄中28年間の対話~」という作品を観たからだ。
 死刑宣告を受けた人間は、親族と担当弁護士以外の面会は許されていない。それどころか2006年に日弁連が死刑囚79人から取ったアンケートによると、3割近くは死刑確定後一人の面会もなく、中には「17年前が最後」というケースもあったというから、死刑囚の実態は知りようが無いのだ(この辺りは森達也著の「死刑」にも詳しい)。
 ところが、このドキュメンタリーでは永山則夫が残した膨大な往復書簡、本人のインタビューテープ、そして永山と獄中結婚した(のちに離婚)和美さんのインタビューによって、シャバで過ごした19年よりも長い、拘置所で過ごした29年の様子を、断片的ではあるけれど、垣間見ることが出来る。
 そんな中で僕が一番驚いたのは、永山にとっても謎だった「なぜ自分は4人もの人を殺したか」の答えを見つける件だ。永山は拘留されてから膨大な量の本を読み始めるが、そこでオランダの犯罪学者の言葉に衝撃を受ける。

 『貧困は人間関係を破壊する。
 社会から切り捨てられた人間は、その社会に対して、もはや何の感情も持てなくなる』

 永山則夫の肉声。
 「これだと思ったな。こういうために(事件は)
起こったんだってことを知ったんだ」

 獄中での様子が分かると、一方で彼が「外で成したこと」はなんだったのかが知りたくなった。
 ドキュメンタリーには新藤兼人監督が、永山の生い立ちから逮捕されるまでを「忠実に再現した」と言われる本編、「裸の十九才」が一部使用されている。僕は、親に捨てられ餓死寸前になりながら眼光鋭い4歳の則夫少年を見止めた瞬間、これは映画としても只事ではないと思った。

 映画は、集団就職で上京した少年、山田道夫(原田大二郎)が都会での生活になじめずドロップアウトしていく様を、幼少期の極貧生活に理由を探りながらカットバックを続ける。時代と人間の暗部が、濃淡の強いモノクロームで影絵のように描かれていて見応えは抜群である。しかも正義感はさておき、生きるためには人を殺めるしかない少年の“追い詰められた感情”が、実に丁寧に描写されていて、「どこかで立ち直るきっかけを与えてやれないものか」と、ついつい同情の目で観てしまう自分に驚いてしまった。

 僕は観ながら、18歳で上京したときのことを思い出していた。
 恐ろしく貧乏で、社会の底辺にいて、雨風をしのぐ場所はあったものの、孤立感に支配されていた時代。僕と永山の違いはどこにあるんだろうと思った。塀のむこうとこちらとでは、ボタンを掛け違えた程度の差しかないんじゃないだろうか。唯一永山になくて僕にあったのは精神的な支柱だけ、だったような気がする。
 時代は巡り、格差による貧困が蔓延する現代。いま改めて観ても充分に通用する強烈なメッセージに満ちた作品。原田大二郎の拙い演技が妙に生々しくて心に痛い。

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無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

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Sho

この映画は知っていましたが、永山則夫を描いたものとは知りませんでした。「無知の涙」はずいぶん前にほんの少し読みかけて止まってしまいました。この映画も見てみたく、ドキュメンタリーも見たかったと思います。

by Sho (2010-05-28 21:47) 

movielover

ずっと昔に「無知の涙」を読んだのですが、
ひりひりするような文章の羅列に、
痛々しさを覚えた記憶があります。
ドキュメンタリーがあるのは知りませんでした。
機会があれば観てみたいです。
by movielover (2010-05-29 09:25) 

ken

>Shoさん
 このドキュメンタリーは偶然見つけたものですが、観て良かったと思える
 素晴らしい出来栄えでした。そして映画も新藤兼人監督の馬力を感じました。
 nice!ありがとうございます。

>movieloverさん
 僕も「無知の涙」読んでみようと思います。
 ドキュメンタリーは再放送されるかも知れません。NHKですから。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2010-05-29 10:27) 

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