アウトレイジ [2010年 ベスト20]
「アウトレイジ」(2010年・日本) 監督・脚本・編集:北野武 編集:太田義則
「全員悪人」というコピーに偽りなし。
一言でいうなら北野武流の「レザボア・ドッグス」と言った構え。これが実に面白い。
ハナシは単純で、ヤクザ同士の些細なやっかみが、権力闘争にまで発展する、というだけのこと。たったこれだけの様がなんとも面白いのだが、女子に言わせると「ホント、男ってバカよねぇ」になるらしい。これは僕より先に観た知人の女子アナ(北野映画ファン)の第一声。「でも、スピード感が半端じゃなかった」と続けた感想は同感。
「CUT」に掲載された監督インタビューを引用するなら、「テンポはもう、漫才だよね」に尽きる。
そう。これは、“漫才師が撮ったしゃべくりヤクザ映画”なのだ。
だから監督名は「北野武」じゃなく、「ビートたけし」でも良かったんじゃないかと思う。それほどの新境地。観る価値は十分にある。
出てくる役者たちが錚々たる顔ぶれである点も、これまでの北野映画とは大きく異なる。
とにかく豪華だ。中でも椎名桔平、加瀬亮、三浦友和の3人が抜群にいい。
まず椎名桔平。
「役者は悪役をやりたがる」と良く聞くが、僕は椎名桔平の芝居を観ながら、その言葉を思い出した。剛速球投手のストレートを想わせる伸びとキレ。そして勢いと圧力。こんなに伸び伸びと、楽しそうに演じる椎名桔平、見たことない。
加瀬亮。
平成のヤクザ。「仁義なき戦い」には絶対に出て来なかったタイプの“ネオヤクザ”が実にハマっていた。フィクションだから実際にいる、いないは関係ない。「マジでいそう」だから良いのだ。英語をしゃべるという設定も効いていた。
三浦友和。
この人のおかげで作品が締まった。男性の客の何割かは、この人の立場で全体を俯瞰することになるだろう。いくつもの組を配下を持つ山王会本家の若頭・加藤。政治に置き換えると首相の女房役の官房長官といったところだが、スケールを小さくしてしまうと、単なる「嫌な上司に仕える部下」である。会長の関内(北村総一郎)は、組の面倒事はすべて加藤に圧しつけておいて、自分は方々にいい顔をして回るような男。そんなボスの下で加藤はじっと耐えているのだ。働くお父さんが一番感情移入し易い役を、三浦友和は抑揚を抑えて、巧妙に演じていたと思う。これが後半、ボディブロウのように効いてくる。
加藤はやんごとなき理由で会長に面を叩かれるのだが、本作の緊張感のピークはここだったと思う。そして、このときの三浦友和の芝居が実にいい。三浦友和は年齢を重ねて年々良くなっていく。僕は「こんな芝居も出来るのか」と激しく感動してしまった。
ただすべての俳優に、僕は北野監督の演出を感じた。繰り返すがテンポは漫才なのだ。三浦友和の芝居には漫才でも重要な“間”を見せてもらった。
僕がこれまでに観た北野映画の中では本作が一着だ。漫才で言う“オチ”も巧くて、僕は一瞬で放心してしまった。
繰り返すが、単純なハナシである。しかし、見事にエンタテインメントに仕上がっている。
遅ればせながら鈴木慶一の音楽も出色。
久しぶりにヒットして欲しい。
「全員悪人」というコピーに偽りなし。
一言でいうなら北野武流の「レザボア・ドッグス」と言った構え。これが実に面白い。
ハナシは単純で、ヤクザ同士の些細なやっかみが、権力闘争にまで発展する、というだけのこと。たったこれだけの様がなんとも面白いのだが、女子に言わせると「ホント、男ってバカよねぇ」になるらしい。これは僕より先に観た知人の女子アナ(北野映画ファン)の第一声。「でも、スピード感が半端じゃなかった」と続けた感想は同感。
「CUT」に掲載された監督インタビューを引用するなら、「テンポはもう、漫才だよね」に尽きる。
そう。これは、“漫才師が撮ったしゃべくりヤクザ映画”なのだ。
だから監督名は「北野武」じゃなく、「ビートたけし」でも良かったんじゃないかと思う。それほどの新境地。観る価値は十分にある。
出てくる役者たちが錚々たる顔ぶれである点も、これまでの北野映画とは大きく異なる。
とにかく豪華だ。中でも椎名桔平、加瀬亮、三浦友和の3人が抜群にいい。
まず椎名桔平。
「役者は悪役をやりたがる」と良く聞くが、僕は椎名桔平の芝居を観ながら、その言葉を思い出した。剛速球投手のストレートを想わせる伸びとキレ。そして勢いと圧力。こんなに伸び伸びと、楽しそうに演じる椎名桔平、見たことない。
加瀬亮。
平成のヤクザ。「仁義なき戦い」には絶対に出て来なかったタイプの“ネオヤクザ”が実にハマっていた。フィクションだから実際にいる、いないは関係ない。「マジでいそう」だから良いのだ。英語をしゃべるという設定も効いていた。
三浦友和。
この人のおかげで作品が締まった。男性の客の何割かは、この人の立場で全体を俯瞰することになるだろう。いくつもの組を配下を持つ山王会本家の若頭・加藤。政治に置き換えると首相の女房役の官房長官といったところだが、スケールを小さくしてしまうと、単なる「嫌な上司に仕える部下」である。会長の関内(北村総一郎)は、組の面倒事はすべて加藤に圧しつけておいて、自分は方々にいい顔をして回るような男。そんなボスの下で加藤はじっと耐えているのだ。働くお父さんが一番感情移入し易い役を、三浦友和は抑揚を抑えて、巧妙に演じていたと思う。これが後半、ボディブロウのように効いてくる。
加藤はやんごとなき理由で会長に面を叩かれるのだが、本作の緊張感のピークはここだったと思う。そして、このときの三浦友和の芝居が実にいい。三浦友和は年齢を重ねて年々良くなっていく。僕は「こんな芝居も出来るのか」と激しく感動してしまった。
ただすべての俳優に、僕は北野監督の演出を感じた。繰り返すがテンポは漫才なのだ。三浦友和の芝居には漫才でも重要な“間”を見せてもらった。
僕がこれまでに観た北野映画の中では本作が一着だ。漫才で言う“オチ”も巧くて、僕は一瞬で放心してしまった。
繰り返すが、単純なハナシである。しかし、見事にエンタテインメントに仕上がっている。
遅ればせながら鈴木慶一の音楽も出色。
久しぶりにヒットして欲しい。
2010-06-14 00:00
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コメント(22)
トラックバック(1)
もうこれは観るしかなさそうですね。
北野武の新境地は観てみたいし。
期待して観に行きます!
by ケンタッキー (2010-06-14 01:15)
この映画のテンポは、
本当に絶妙ですよね☆
私も『アウトレイジ』、
ヒットして欲しいです♪
by u_yasu (2010-06-14 03:04)
>ケンタッキーさん
何人か連れて観に行ってあげてくださいw
nice!ありがとうございます。
>u_yasuさん
気持ちのいいテンポってやっぱりあるんですね。
北野映画最大のヒットになって欲しいです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-06-14 11:09)
こんばんは。
kenさんのレビューがすごくおもしろくて、これを読むと観にいきたくなります。「アキレスと亀」とは全然ちがった映画みたいですね。
私も最近の三浦友和がいいな~と思っています。昔は百恵ちゃんの旦那という位置づけだったのに、役者として大きくなりましたね。
by coco030705 (2010-06-14 20:07)
迷っていましたが,ココ読んだら観たくなりました。
加瀬亮が気になっています。
by 漣花 (2010-06-14 21:48)
>coco030705さん
友和さんは“百恵のダンナ”から、完全に抜けましたね。
もちろん最近抜けたわけじゃないけど、最近ますます良いと思います。
nice!ありがとうございます。
>漣花さん
加瀬クン、いいですよ~。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-06-14 22:34)
気にはなっていましたが、kenさんの記事で雰囲気がわかってきました。
すごく疾走する感じでしょうか?面白そうですね。
予告では、加瀬亮がものすごく雰囲気が変わっていてびっくりしました。
そういえば北野武の映画は、わりとゆったりした空気のものが多い気がしました。「Dooles」などはきっとその速度感も好きだったんだろうな・・と、思い返しました。
by Sho (2010-06-16 13:07)
北野映画は、ゆったりとしているというよりも
「行間を読ませる」という表現が近いように思います。
by ken (2010-06-16 20:46)
こんにちは。
どんどん登場する死のシーンにショックを受けてしまったので、
かなりキツかったです(^_^;)
テンポは良かったですね~
特に指を詰める詰めないのシーンには思わず笑ってしまいました☆
by non_0101 (2010-06-17 07:12)
「これは映画なんだ」という思いを強く持たないと、
いろいろしんどい映画かも知れませんね。
僕は完全に心の“あるシャッター”を下ろした状態で観ていた気がします。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-06-17 09:23)
ぜったいに観に行こう、と思っていたのですが、
改めて観に行くべき、と思いました。
ビートたけしの映画、楽しみです。
by movielover (2010-06-18 00:29)
ご覧になったら、またぜひコメント寄せて下さいね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-06-19 23:43)
観て来ました♪
>テンポはもう、漫才だよね
あーーーーー。なるほど。漫才か〜。なんか納得☆
ちなみに私はヘビみたいな加瀬亮に釘付けでした!
by ジジョ (2010-06-28 23:11)
うはは。確かに爬虫類っぽかったですね、加瀬クン。
彼がブチ切れて手下を殴るシーンは気持ちよかったなあ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-06-28 23:20)
椎名桔平よかったですね。一番オーソドックスなヤクザ像なのに、実は悪人度は一番低かったかも。
by デクノボー (2010-07-12 01:06)
勢いだけの単純な役でしたよね。
それがまた良かったし、ますますほっしゃん。に見えた要因かもw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-07-12 15:11)
やっぱり、北野監督のストーリーは面白いです。
誰でも理解できるように複雑すぎない展開は
たしかに漫才のネタに通じるものがありますね。
それでいて、大友組長の予想を裏切る?意外性のある行動もあって・・・。
ただ、個人的に指詰めるシーンはどうも、苦手で、正視できませんでした。
by nary (2011-01-29 23:01)
メンテナンスをしていて、レス無しを発見してしまいました。
ウルトラスーパー亀レスで申し訳ありません!
「誰でも理解出来る複雑過ぎない展開」って、作るのは難しいと思います。
だからさすがだなあ、と思いますね。
by ken (2011-07-18 01:23)
北野武流「レザボア・ドッグス」!
「男ってバカよねぇ」も、すごくわかります。
あんな大きな闘争に発展する出来事なんて起こってないのに、
殺し合いになっちゃった、なにやってんの、もう。
って思いました、やっぱり(笑)。
by yonta* (2011-11-23 22:27)
女性にそう思わせるところも、北野監督の計算なんじゃないかと思いますね。
パート2がどうなるのか、とても楽しみです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-11-24 14:24)
やっと観ました(そんなんばっかですみません)。
これはもぅ、たぶん何度も観るでしょうね、なんかモヤモヤが取れなくてスカッとしたいとき。
いったい「なんだコノヤロー」「なんだバカヤロー」って何回言ったんだ(笑)。
ホント、ガラの悪い どつき漫才のノリとスピード感でした。
おっしゃるとおり、この3人がイイですね。
男、オトコ、漢だけの世界。
そりゃあ普通の女から見たら「バカじゃないの」ってなるんでしょうけど、なんというか闘争「本能」丸出しで、かえって潔いと思いました。
闘う昆虫のドキュメンタリー観てるみたいで。敗者は即去る。
やはりヤクザの世界では、女は「そえもの」でしかないんだよなぁ、それもまた潔し、なんて思ったりして。
満足満足。おなかいっぱいです。
by midori (2011-12-25 13:35)
「闘う昆虫のドキュメンタリー」とは、なんとも見事な表現!
midoriさんは、これをクリスマスイブにご覧になったのでしょうか。
それもまた「潔い」クリスマスでしたねw
nice!ありがとうございます。
やっとだろうと、なんだろうと、観て頂いてコメントして頂けるのが一番嬉しいです。
by ken (2011-12-25 18:05)