オカンの嫁入り [2010年 レビュー]
「オカンの嫁入り」(2010年・日本) 監督・脚本:呉美保
大竹しのぶと宮﨑あおいが初共演とは知らなかった。
これが「大奥」のような作品なら気にも留めないが、タイトルから想像できる通り、構えの小さな作品である。観ると実際“自転車で行ける範囲内”の物語でしかなく、この小さな土俵で大竹しのぶと宮﨑あおいはがっぷり四つだった。
2人をツモれたプロデューサーは大金星である。役者のカップリングで観に行く気になったのも久しぶりだ。
陽子(大竹しのぶ)と月子(宮﨑あおい)はずっと母ひとり子ひとりで暮らしてきた仲の良い親子。
ある日の深夜。泥酔した陽子が“おみやげ”を持って帰ってくる。叩き起こされた月子が玄関口まで下りていくと、そこにはダサイ服に金髪リーゼントの見知らぬ若い男がいた。名前は研二(桐谷健太)。陽子は研二にプロポーズされ、今夜それを受けたのだという。
いい映画である前に、いい脚本だった。
ずいぶん時間をかけて丁寧に書いたあとが見てとれたので、エンドロールの後まずは無名の監督のことが無性に気になった。
呉美保は大林宣彦事務所でスクリプターとして働いていた33歳。スクリプターをしながら制作した2本のショートフィルムが認められ、さらに初の長編脚本が「サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門」を受賞し、29歳にして「酒井家のしあわせ」で長編デビューをしている。
女性監督と言えば近年活躍が目覚ましい西川美和、河瀬直美、荻上直子、タナダユキを思い出すが、やはり男性の監督とは違う女性ならではの視点がときどき可笑しくて、ときどきギョッとさせられる。男と違った“おもいきりの良さ”も女性監督作品の愉しみの一つだ。
呉美保の脚本で僕が気に入ったのは、考え尽されたキャラクターの背景にある。
一番は健太。元板前がなぜ金髪リーゼントに赤いジャンパーなのか。
呉美保は序盤観客に「コイツ、ただのアホやわ」と思わせておいて、アホも馴染んで来たころにその“種明かし”をしてみせた。僕は完全にやられた。不意打ちを食らって不覚にも涙が出た。健太の心根の優しさを知った観客は、この瞬間に月子から陽子へ「感情移入の乗り換え」を果たすと思う。別の言葉で言うなら「視点の入れ替え」である。
主人公が2人いて最初はAさんに、途中からBさんに感情移入をさせるテクニックは極めて高度なテクニックである。この“乗り換えポイント”の作り方は見事だった。
「映画は目に映るすべてのものに意味がなければならない」
これは映画に対する僕の持論だが、画面から得られる情報に対して、観客が抱いた「なぜ?」を、流れの中でひとつずつ潰していくことが出来れば、観客はきっと気持ちいい。これがいい脚本の条件じゃないかと思った。
大竹しのぶの白無垢と、クライマックスのやりとりには少々不満もあるが、都会では失われた心を通わせるご近所付き合いも丁寧に描かれた佳作。
吉田孝の美術も良し。下町特有の温かさが画面のいたるところからにじみ出ていて、昭和世代は心がほっこりすること間違いなし。
大竹しのぶと宮﨑あおいが初共演とは知らなかった。
これが「大奥」のような作品なら気にも留めないが、タイトルから想像できる通り、構えの小さな作品である。観ると実際“自転車で行ける範囲内”の物語でしかなく、この小さな土俵で大竹しのぶと宮﨑あおいはがっぷり四つだった。
2人をツモれたプロデューサーは大金星である。役者のカップリングで観に行く気になったのも久しぶりだ。
陽子(大竹しのぶ)と月子(宮﨑あおい)はずっと母ひとり子ひとりで暮らしてきた仲の良い親子。
ある日の深夜。泥酔した陽子が“おみやげ”を持って帰ってくる。叩き起こされた月子が玄関口まで下りていくと、そこにはダサイ服に金髪リーゼントの見知らぬ若い男がいた。名前は研二(桐谷健太)。陽子は研二にプロポーズされ、今夜それを受けたのだという。
いい映画である前に、いい脚本だった。
ずいぶん時間をかけて丁寧に書いたあとが見てとれたので、エンドロールの後まずは無名の監督のことが無性に気になった。
呉美保は大林宣彦事務所でスクリプターとして働いていた33歳。スクリプターをしながら制作した2本のショートフィルムが認められ、さらに初の長編脚本が「サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門」を受賞し、29歳にして「酒井家のしあわせ」で長編デビューをしている。
女性監督と言えば近年活躍が目覚ましい西川美和、河瀬直美、荻上直子、タナダユキを思い出すが、やはり男性の監督とは違う女性ならではの視点がときどき可笑しくて、ときどきギョッとさせられる。男と違った“おもいきりの良さ”も女性監督作品の愉しみの一つだ。
呉美保の脚本で僕が気に入ったのは、考え尽されたキャラクターの背景にある。
一番は健太。元板前がなぜ金髪リーゼントに赤いジャンパーなのか。
呉美保は序盤観客に「コイツ、ただのアホやわ」と思わせておいて、アホも馴染んで来たころにその“種明かし”をしてみせた。僕は完全にやられた。不意打ちを食らって不覚にも涙が出た。健太の心根の優しさを知った観客は、この瞬間に月子から陽子へ「感情移入の乗り換え」を果たすと思う。別の言葉で言うなら「視点の入れ替え」である。
主人公が2人いて最初はAさんに、途中からBさんに感情移入をさせるテクニックは極めて高度なテクニックである。この“乗り換えポイント”の作り方は見事だった。
「映画は目に映るすべてのものに意味がなければならない」
これは映画に対する僕の持論だが、画面から得られる情報に対して、観客が抱いた「なぜ?」を、流れの中でひとつずつ潰していくことが出来れば、観客はきっと気持ちいい。これがいい脚本の条件じゃないかと思った。
大竹しのぶの白無垢と、クライマックスのやりとりには少々不満もあるが、都会では失われた心を通わせるご近所付き合いも丁寧に描かれた佳作。
吉田孝の美術も良し。下町特有の温かさが画面のいたるところからにじみ出ていて、昭和世代は心がほっこりすること間違いなし。
全く知らないでいて、昨日か一昨日初めて予告を見ました。
宮崎あおいと大竹しのぶの組み合わせには、私も非常に興味を持ちました。とっても絆が深そうなこの母娘が、どうやってこのある種の別れに取り組むのかなあ・・と、思いました。
あと自分の年齢を考えると「こういうことが本当にあれば・・」と、願いました(笑)
by Sho (2010-09-05 14:13)
小さな幸せに満足していた娘に突然突きつけられた現実。
越えなければいけない壁が、ドラマの軸になっています。
ちなみに僕も年上の女性に憧れていた時代がありました(笑)。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-09-05 22:28)
単純に,この映画面白そう~って思ってたら,
娘の好きな宮崎あおいと桐谷健太が出てるので,
じゃあ観るか~~時間あったら~。
って,先週話してたところです。
なので,このレビューはサラサラっと読みました。
観てのお楽しみにしようと思って♪♪
私はもう嫁入りしませんが(笑)うちも娘と遊ぶ事が多くて
来年,県外に進学したら,私どうしよう・・・と,ちょっと
映画と逆パターンのようですが・・・
by 漣花 (2010-09-06 23:00)
漣花さんの悩み(不安?)がおもしろかったです。他人事でスイマセンw
ぜひお嬢さんとご覧になって、また感想を書きこみに来て下さい。
by ken (2010-09-06 23:28)