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マルセイユの決着(おとしまえ) [2010年 レビュー]

マルセイユの決着(おとしまえ)」(2007年・フランス) 監督・脚本:アラン・コルノー

 16年ぶりのパリがあまりに愉しかったせいもあり、無性にフランス映画が観たくなっている。
 いや観たいというより、フランス語が聞きたいのかも知れない。
 そこで自宅のブルーレイレコーダーを確認したら、1本のフランス産フィルムノワールが出て来た。
 原作あり、オリジナルありのリメイク作品で、ダニエル・オートゥイユとモニカ・ベルッチ主演のギャング映画である。
 なんでもいい、とにかくフランス語が聞きたい(笑)。

 1960年代のフランス。
 刑務所を脱獄したギュ(ダニエル・オートゥイユ)は初老の大物ギャング。
 脱獄した足で、かつての相棒の未亡人マヌーシュ(モニカ・ベルッチ)のもとへ向かったギュは、マヌーシュとともにイタリア逃亡を決意する。そのためには金が必要だった。マヌーシュは自分の金を使うというが、ギュはそれを許さなかった。そこへ、ある大きなヤマの話が舞い込んでくる…。

 観ながらもしやデ・パルマの「カリートの道」も同じ原作かと疑ったが、それは違ったようだ。けれど老いたギャングが余生を静かに暮らそうと、最後の仕事に乗り出すシチュエーションは同じ。しかも仁義を重んじた時代は過去のものになり、礼儀を知らない若造と対峙することになるのも同じだ。
 いや、ちょっと待て。考えてみたら「ゴッドファーザー」から「アウトレイジ」まで、ギャング映画はすべて“世代交代”がドラマの肝だ。
 衝撃だった。
 そんなことに今頃気付くなんて。

 原作のタイトルは「おとしまえをつけろ」。
 ここからも分かる通り、ドラマは主人公ギュのプライドをかけた戦いである。自分を貶めようとした全ての者に対しての示し。フィルムノワールとはそういうものだが、大事なのは「悪役の存在感」と主人公が受ける「辱めの度合い」である。この二つが充分でないと観客はカタルシスを得られない。
 この構図はプロレスと似ている。
 序盤、悪役が派手に暴れてくれないと、後半ベビーフェイスの反撃を楽しめないのと一緒だ。
 そう言いつつ、「不条理」も無くはない。
 観客は人の道を外れた行為をスクリーンで目撃し、道理を知るのだ。これは映画だからこそ出来る逆療法である。フィルムノワールはそういう意味もあって今日まで存在しているように思う。

 映像がいい。
 暖色を強調した照明が時に油絵のように美しく、画角を傾けたアングルや人物と背景の配置がマンガのように闊達である。
 ダニエル・オートゥイユの枯れた演技も、脂の乗り切った(乗り過ぎか?)モニカ・ベルッチもいいが、何人かの脇役もいい仕事をしている。
 脚本もまずまず。
 この世で怖いことはいくつかあるが、「人の口に鍵は掛けられない」こともそのひとつだと改めて知る。フランス語がどれほど心地よくても、背筋が凍る思いをした。

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おとしまえをつけろ (ハヤカワ・ミステリ 1054)

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コメント 2

frenchblue

こんばんは。先日はblogへ書き込みいただきまして
ありがとうございました。

この作品渋谷のシアターNで年末に見たことを思い出しました。
私は仏映画が好きで、D・オートゥイユとJ・デュトロンが好きで
見に行きました。

J・P=メルヴィルの「ギャング」のリメイクのようです。
この作品も中々のクオリティでしたが、
あまりにも有名なオリジナルの方と見比べてみたいなあ。
と思いました。
by frenchblue (2010-10-18 21:37) 

ken

久しぶりにパリへ行って、フランス映画の良さを改めて知りました。
もっといいフランス映画が観たい今日この頃ですw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-10-18 23:33) 

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