SSブログ

フェーム [2010年 レビュー]

フェーム」(1980年・アメリカ) 監督:アラン・パーカー 脚本:クリストファー・ゴア

 今から30年前、僕はまだ17歳で松山に住んでいた。
 けれどこの映画は、福岡か大分どちらかのとある劇場で観ている。
 当時つけていた映画ノートによれば、これを観たのは1980年の12月14日。冬休み前に1人で九州に行ったのは、読売新聞奨学生の面接を受けるためだった。
 僕は早くから映像の世界に興味があった。一方で実家は貧乏だった。実家に負担をかけずに映像の勉強をするためには、奨学金が必要だった。
 そこで僕は両親に内緒で読売新聞社に書類を送り、両親にバレないよう日がな一日郵便受けに張り付き、まもなく面接の通知が来たときは「よし」と思ったが、すぐさま困った。僕は四国に住んでいるのに、面接会場は九州だったからだ。
 正真正銘の一人旅はこのときが最初だったと思う。
 両親になんと嘘をついたのか記憶になく、お金をどう工面したのかも記憶にない。ただ覚えているのは松山からフェリーに乗って別府に着き(ここからの記憶が一部消えている)、どこかでタクシーを拾って、まず面接会場の下見をし、その途中に車窓から見つけたビジネスホテルへ戻って飛び込みで1泊。翌日面接を受けて、松山へ帰るフェリーの時間までずいぶんあったので、街をぶらぶらしていたら映画館を発見し、「Fame」と出逢ったと言うわけだ。

 名声の獲得を夢見て、ニューヨークの芸術専門学校に通う若者たちの物語である。当時の僕に刺さらないワケがない。僕は自分の将来を決める面接を受けた後で偶然この映画に出逢い、同じ夢を持つ者たちと共に学ぶことへの期待感を膨らませた。そして成功を勝ち取るためには、努力と協調が必要であることも学習したと思う。その後の30年は紆余曲折あったけれど、志半ばにして心が折れそうになったとき、僕はいつもこの映画のことを思い出していた。
 そして今、この映画を改めて観た理由は、上京から30年になろうとして僕がまた大きな分岐点に立っているからだが、まあそれはいい。

 出て来るのは無名の俳優ばかりである。そこがまた生々しくていい。
 オープニングは入学のためのオーディション。個性溢れるキャラクターが次々と現れ、スクリーンに鮮烈な印象を残していく。誰がどうなるのか分からずに傍観していると、やがて合格通知を受け取るシーンや初登校シーンで主要登場人物が明らかになっていく。登場の仕方も、それぞれが交わっていく様も、そして学年を進めながら積み重ねられるエピソードも、どれもがユニークで興味深い。
 エピソードは散発的だがまったく違和感はなく、編集のテンポとバランスは今観ても秀逸な仕上がりだった。ちなみにまだ17歳だった僕も「編集がずば抜けていい!」とノートに生意気なことを書いていた(笑)。

 本編には大きく3度のミュージカル的シーンがある。
 1度目は学食で突発的に始まったセッション。2度目は音楽科のブルーノが作曲し、ココ(アイリーン・キャラ)が吹き込んだ「フェーム」を、ブルーノの父が学校の前で大音量で流して始まるダンスシーン。3度目はクライマックス、卒業式のシーン。
 特に2度目、大勢の生徒が道路に飛び出して行われるダンスパフォーマンスは、一歩間違えると「アニマル・ハウス」のようなコメディに成り下がる可能性もあったが、周到なエキストラの演技指導と編集のおかげで、見応えのあるシーンに仕上げられていて改めて感心。
 また他2つのシーンもカット割りと編集が巧みで、特にエンディングの卒業式は潔すぎる締めくくりで今さらながら驚いた。
 とまれ僕の中で「フェーム」は、“音楽映画”という印象が強かったのだけれど、その音楽的要素が133分中わずか3つのシークエンスしか無かったのも驚きである。

 悩み多き今、このタイミングで観て良かった。僕は30年前の記憶を呼び戻し、初心に帰ることが出来ただけでも充分。普遍的なテーマとエピソードをミルフィーユ状に仕上げた本作は、今もなおまったく色褪せることのない青春映画の金字塔である。

フェーム [Blu-ray]

フェーム [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: Blu-ray

nice!(3)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 4

satoco

私も10代のころにこれを見まして。
そして映画ノートに「アラン・パーカーは天才だ」と書きました。
以後10年くらい、本作は私の最も好きな映画で、アラン・パーカーが最高の監督でした。しかも当時の私の夢は舞台俳優になることだったりしたので....w
途中で脱落しかけるダンス科の女性を演じた女優さんが、「彼女は物にならない。なぜなら自律心がないから」と語っていたのがパンフレット(古本屋でゲットしたのです)に載っていて、当時の私にはその言い切り方が衝撃でした。

kenさんにも青春時代の思い出に絡むような映画だったという奇遇が嬉しく、長く書いてしまいました。kenさんの素敵なエピソードにも感動しました。
by satoco (2010-09-26 00:11) 

ken

子どもの頃に書いた映画の感想は、今読み返すと本当に恥ずかしいです。
でも、いい“日記”でもありますね。
教師にダンスをやめるように言われたリサが、卒業式のシーンで歌手として
登場したときは、アラン・パーカーの優しさを感じました。
さすがに今、天才とは言い難いですが、巧い監督だなとは思いました。
それにしてもsatocoさんの夢が舞台俳優だったとは…w
だとすると、この作品は忘れられない1本ですね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-09-26 14:59) 

Sho

kenさんとこの映画との関わりの歴史が、非常に興味深く心に染みました。
この映画、当時かなり流行りましたね。私の友達も見て、感想を興奮して語ってくれたことを思い出しました。
今、出会いは遅かったですが、すべてをかけてきた仕事の分岐点にたっており、いろいろと考えさせられました。

by Sho (2010-10-02 14:29) 

ken

今回あらためて観てみて、一番心に染みたのがリサの存在でした。
僕の周りにも夢半ばで道を変えなければならなかった人たちが沢山いました。
そんな彼らが今、何をしているのか、すごく気になってしまいました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-10-02 23:54) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。