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イルマーレ [2010年 レビュー]

イルマーレ」(2001年・韓国) 監督:イ・ヒョンスン 脚本:ヨ・ジナ

 初見はブログを始める前で、いつか記事を書こうと思っていたチョン・ジヒョン主演の佳作。
 キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックでリメイクすると聞いたときは、「よくぞ、こんな韓国の小品を見出したもんだ」と驚きの方が大きかったのだけれど、6~7年ぶりに観直してみたら、すごく良く出来た脚本でハリウッドのリメイクも納得してしまった。

 1998年に生きる大学院生ソンヒョ(イ・ジョンジェ)と、2000年に生きる声優のウンジュ(チョン・ジヒョン)は
、あるポストを通じて手紙のやり取りが出来るようになり、やがて心を通わせていく、というファンタジーである。
 「時空を越えた愛」は、現実には起こりえないことだからこそ、フィクションの世界でたびたび扱われる「タイムパラドックス」の1エピソードだが、この設定でストーリーを構築すると
必ずどこかで破綻が起きるようになっている。
 破綻の典型的な一例は「親殺しのパラドックス」と言われるもので、過去に遡って自分が生まれる前に両親を殺した場合、「自分は生まれていなかった」ことになるが、そもそも自分が生まれなければ両親は殺害されこともなくなる、という矛盾である。
 「イルマーレ」の場合、そこまで物騒なハナシではないけれど、例えば
理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士が、「そもそも未来からの時間旅行者がいないのが、現在から過去に向うタイムマシンが存在できない証拠」と言うように、我々もなんとなく肌で感じている物理的な“非現実”はあって、時間を越えて手紙のやり取りが出来る大きな嘘は許せても、その仮説に則ったストーリーに小さな矛盾を認めたら、観客は一気に覚めてしまう。
 そんな中、今回「イルマーレ」を観直して感心したのは、その「矛盾」を観客が思うより先に手を打って、ことごとく潰していた点である。
 
 中でも一番のポイントは、ソンヒョにとっては2年後、ウンジュにとっては1週間後の2000年3月11日に済州島で逢おうと約束したシークエンス。別々のタイムライン(パラレルワールド)を生きる2人が、共に“未来の同じ日”を目指すという素晴らしいアイディアが披露され、観客は「ついに不可能が可能になる」と心躍らせる重要なシークエンスだが、この思いは叶わない。そして2人は再び手紙を交し、「この2年のあいだに何があったのか」に思いを馳せるが、やがて賢明な観客はこう思う。「ウンジュなら、その理由を探る方法はある」と。
 しかし、ウンジュにそうさせたくない脚本家は、別の手を打って観客の思いを潰しにかかる。2人が手紙をやりとりするきっかけとなった、ウンジュのかつての恋人を登場させたのである。そしてウンジュは忘れかけていた愛に再び火をつけ、ソンヒョと逢う理由を失ってしまうのだ。
 見事である。
 タイムパラドックスの矛盾が見え隠れした瞬間、先回りしてその芽を摘み、観客に疑問を抱かせないまま先に進めようとするテクニックは、この手の脚本を書くときのお手本とすべきである。しかもエンディングは大どんでん返し。タイムパラドックス的に言うと、この結末は“やり逃げ”に近く、好みも分かれるところだが個人的にはアリとしておく。

 当時まだ19歳だったチョン・ジヒョンがとても愛らしい。
 途中、彼女の幸せを祈りながら観ていた自分に気付いて、「映画は愛だな」と思った。映画の中の何かを愛せなければ、そこから得られる感動などないのだ。
 「ブルーとグリーンを基調に暖色系をワンポイント入れた」、と監督が語る映像も美しい。劇中でいい仕事をする犬(チベタン・テリアか?)も見もの。
 韓流ブーム前夜に作られた韓国映画の良品。

イルマーレ THE PERFECT COLLECTION [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
  • メディア: DVD
     

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コメント 8

漣花

好きな映画です。
ハリウッドの方から観て,韓国版を観ました。
前者の方が理解しやすく作ってあるように
思いましたしキアヌ♪が出ているけれども,後者の方が好きです。
そうですね。
チョン・ジヒョンも,韓国映画も,
ブームになる直前・なりかけた頃の
作品の方が,よかったかもしれないですね。
by 漣花 (2010-10-04 20:07) 

ken

そうですか。ハリウッド版は分かり易く作ってあるんですね。
ちょっと観てみたくなりました。
欲をかいていない時代の韓国映画って、とても好きです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-10-05 02:22) 

てくてく

こんばんは^^
チョン・ジヒョンも可愛かったですし、
イ・ジョンジェも良かった~。
彼の切なさが痛いほど伝わる駅のシーンが印象的でした。
kenさんの記事を読んで、
自分の過去記事(韓国版、ハリウッドリメイク版)を読み返してみましたが、
韓国版から感じる“切なさ”が良かった、とありました。
恋愛映画に切なさは欠かせない要素ですもんね^^
by てくてく (2010-10-11 02:35) 

ken

せつなさ。
そうなんです。朝鮮半島の歴史が、その感性と無縁ではないと思いますが
まさに韓国映画の味でもありますよね。
僕は韓流夜明け前の映画で、日本に入ってきているものはあらかた観ていると
思いますが、最近の作品とは明らかに違う気がします。ちょっと残念。
nice!ありがとうございます。

by ken (2010-10-12 04:19) 

k_iga

2年前のウンジュ(チョン・ジヒョン)の姿を見ようとする夜の駅のシーンが
美しいですね。
by k_iga (2010-12-19 20:43) 

ken

切なすぎました。逢わせてあげたかった!w
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-12-20 17:05) 

midori

観始めてすぐ
「なんだよ、たいしたオトコじゃねーじゃんか」
と工事現場で働くイ・ジョンジェに期待してなかった私
(別にメンクイではありません、念のため)ですが、
だんだんカッコ良く見えてきて、ラストでは
「あーもーあたしをどこにでも連れて行って!」
と思ってしまいました(落ち着けオレ。失礼)。

素敵な物語と美しい映像。
一人で観てもHappyになれたけど、
できれば好きな人と二人で観たい映画ですね。
by midori (2011-07-01 12:34) 

ken

「会えない時間が、愛育てるのさ」と、かの郷ひろみ様も歌っておられたので
ここはひとつ、遠距離恋愛の2人に観てほしいですね。
それぞれの家で、同じ時間に、せーので。相当切ないだろうなあ(笑)。
nice!ありがとうございます。面食いでもいいじゃないですか。
by ken (2011-07-01 17:55) 

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