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武士の家計簿 [2010年 レビュー]

武士の家計簿」(2010年・日本) 監督:森田芳光 脚本:柏田道夫

 第23回東京国際映画祭特別招待作品。
 堺雅人は観たかった。でも監督が森田芳光と聞いて腰が引けた。2年前に観た「
椿三十郎」にほとほとガッカリしたからだ。さてどうするかと悩んで結果観ることにしたのは、何やら新しいタイプの時代劇のように思えたからだ。

 加賀藩の御算用者(会計担当者)として仕える猪山家八代目の直之(堺雅人)は、特に野心を抱くでもなく、ひたすら数字の帳尻合わせに勤しむ毎日。同僚たちは直之のことを陰で「そろばん馬鹿」と呼んでいた。
 そんな生真面目な性格が功を奏し、異例の昇進をはたした直之だが、ある日自宅の家計が窮地に追い込まれていることを知る。父・信之(中村雅俊)と合わせた猪山家の年収は銀約3,000匁(約1,200万円)。対して借金の総額は銀約6,000匁もあった。そこで直之は“家計建て直し計画”を立てる…。

 原作は、猪山家の家計を記した古文書を発見した磯田道史(茨城大学人文学部准教授)による歴史書「武士の家計簿」
 さすが事実ほどおもしろいものはない。僕は映画の出来栄え以前に「御算用者」という設定が気に入った。脇差をした武士たちが整然と並びそろばんを弾く姿は観たことのない映像で、新しい時代劇の登場を感じさせた。いや、もし時代劇が刀という武器に依存した物語ならば、これは「クラシックドラマ」とでも呼んで区別したほうがいい。なぜなら本作は、武士が主人公でありながら、誰ひとり柄(つか)に手をかける場面が無いからである。
 時代劇で描かれることの多い、体面にこだわる武士の生き様が、ここでは「生活費」という視点で描かれているのもおもしろい。しかも猪山家の財政はそのまま日本の財政とイコールで、あらゆる手段を講じて家計の建て直しを図る直之の実行力は、観ていてまったく胸がすく。今年の国債発行額が過去最高だったことを思えば、直之のような政治家が「身の丈に合った暮らし」を提案して、まずは我々国民の目を覚まさせてくれないものかと考えてしまった。

 やはり堺雅人がいい。
 本作には食事のシーンが多いのだが、食べる様子は「南極料理人」で観たまんま。ここに演じ分けは無いんだな、と妙に可笑しかったけれど、「ジェネラル・ルージュの凱旋」でも見せた確信的な“正義漢”ぶりは、本作でも充分に活きていた。
 また興味深いシーンもあった。
 4歳の息子・直吉に早くも家計簿をつけさせていた直之が、収支の合わないことを問い詰めるシーン。幼い息子と言えど容赦せず追い込んで行く姿は、森田芳光の出世作「家族ゲーム」での松田優作を思い出させた。なるほど森田芳光は刀を抜かない時代劇なら大丈夫かも知れない。
 思ったよりいい映画でホッとした。

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武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

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  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 新書

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コメント 10

Sho

つい先日、TVでこの作品が紹介されていました。
武士が教室のようにすわり、裃姿でいっせいにそろばんを弾く場面は
とても新鮮でした。
主人公が、どのように自身の家計を立て直していくのか、とても興味が
沸きました。kenさんの記事を拝読し、よりおもしろそうだなと思いました。
by Sho (2010-11-11 06:06) 

ken

本当に“今までにない”時代劇でした。
これからの新しい流れになるかも知れません。
by ken (2010-11-12 02:14) 

クリス

なにげに時代劇ブームですよね。
直之の、毎朝登城(というのかな?)するシーンが好きでした。
おもしろい歩き方をするなと思って。

あとは食卓シーンですね。『家族ゲーム』につうじるところがあって。
なるほどあのシーンの直之と家庭教師も、似ていましたね。
by クリス (2010-11-12 08:15) 

ken

時代劇は予算がかかるという理由で、テレビからは無くなっていったんですね。
だからこそ映画界がこの素材に手を伸ばすのかも知れません。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-13 01:13) 

non_0101

こんにちは。
直之は大人しそうな顔をしていても厳しい人でしたね。
あの両親からこの息子が!?とちょっと笑ってしまいました(^^ゞ
道を開くには地道な努力が一番という心意気が好きでした☆
by non_0101 (2010-11-14 10:13) 

ken

子役の男の子がいい芝居をしていましたね。
僕はあの子の健気さに心打たれましたw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-14 16:01) 

eriy

来月見ようと思ってましたので、タイミングよくkenさんのレビューが読めて良かったです。
堺雅人さんが好きというのもありますが、やはり時代劇だけれど主人公が「御算用者」という設定に興味を持ちました。
息子に家計簿をつけさせる場面の直之が、松田優作を連想させるっていうのは、やっぱり時代劇でも演出の特徴って出るものなんですかね。
私も鯛の絵の祝膳を前にした横一列に並んだ一家のチラシを見て、「家族ゲーム」を連想したので、面白いなと思いました。
by eriy (2010-11-14 18:13) 

ken

ネタバレは書いてありませんのでご安心をw
子どもと言えど手加減をせずに追い込んで行くところがソックリで
森田芳光はSなんだなと思いました。それと子どもが嫌いなのかも。
楽しんできて下さい。nice!ありがとうございます。
by ken (2010-11-14 21:34) 

coco030705

こんばんは。
友人のつき合いで追加上映を観にいったら、おもしろかったんで、
堺雅人に興味を持ちました。森田芳光は「椿三十郎」の監督だったんですね。これは評判よくなかったですけど。(^^)
「武士…」のほうは、脇役もそろってましたよね。おもしろく、しかも自分の
生活も、ちゃんとしなきゃなあと思わせてくれた作品でした。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2011-02-12 22:25) 

ken

堺雅人にハマる人、ここ数年多いですねw
確かに良い俳優さんだと思いますけど。
この時代劇は、今だからこそ作る価値のある時代劇だったと思いますね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-02-13 02:06) 

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