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ドロップ [2010年 レビュー]

ドロップ」(2008年・日本) 原作・脚本・監督:品川ヒロシ

 原作者の品川は映画化の話が来たときに、自分で監督をやりたいと申し出て、ならば脚本を書いてみろと関係者に言われたそうだ。その出来栄えによってはやらせなくもないと。言われて品川は渾身の脚本を書き上げ、見事監督の座を勝ち取った…。
 映画監督・品川ヒロシ誕生の経緯は、当時の「品川ブログ」にこうあった。人気お笑いタレントの本が売れて、それを映画化するとは言え、原作者のタレントを「はい、そうですか」と監督に据えるほど日本映画界もバカじゃなかった、ということだ。
 脚本の出来を確認した角川映画は、約束どおり品川に監督の座を与えるが、その一方で保険も掛けていた。この前年「クローズZERO」で三池崇史の助監督を務め、アクション映画(しかもマンガ原作)のイロハを学んだ西川太郎の「監督補」起用である。
 西川は品川をサポートする上で、三池演出を巧みに取り込んだ形跡がある。ケンカの生々しさを伝えるため、観客が痛みを感じるようになるまで役者を痛めつける。この“手加減の無さ”は間違いなく三池演出そのもの。そういう意味でも西川太郎の起用は大正解だったと思う。

 ハナシは前後するが、僕は「品川ブログ」を読んでいたとき、一体どんな脚本に仕上げて監督の座を獲得したのだろう、と思っていた。角川は何をもってして監督を品川で行こうと決めたのか。
 観たら分かった。「ダイアローグ」である。
 そしてそこには書かれていない“間”を撮るためには品川以外に無いと判断したのだろう。この判断は間違っていなかった。とにかく登場人物たちの会話が面白い。品川は漫才のような台本を書いて、自分で演じるように撮った。これは本当に巧かった。また品川がイメージした“下げ”をイメージ以上のものにしたピース綾部は隠れファインプレイである。

 一方で波岡一喜が出ていたせいもあって「パッチギ!」と比較しながら観ていた僕は、ケンカの繰り返しで1時間が過ぎた辺りから、「このままで大丈夫なのか?」と思った。60年代末の京都を舞台にした「パッチギ!」は人種問題を裏テーマに抱えていた。そしてドラマもその方向へと向うのだが、80年代の狛江が舞台の「ドロップ」には訴えるべき社会的メッセージも無ければ、そんな伏線も見当たらなかった。だからどこへ向おうとしているのかが気になった。
 そこへ持ってきたのがヒロシ(成宮寛貴)の兄貴分、ヒデ(上地雄輔)の落下事故である。これは安直な展開でまったく気に入らなかった。伏線の引き方も唐突で、ここはシロウト監督の力不足が露呈したように思う。

 それでも青春映画としては悪くない。
 僕はこの作品、新しいカタチの「吉本新喜劇」だと思った。
 吉本の芸人が多数出演し、笑いを取るだけとって、最終的には人情噺にまとめる。王道と言えば王道。良く出来た演芸である。
 吉本興行の選手層の厚さにも感心した。一番はレイザーラモンHGこと住谷正樹。エンドロールを観るまでまったく気付かなかったけれど、HGはヒロシたちのライバルである加藤宏二郎を演じていた。芝居もまずまず。
 本仮谷ユイカはまさに掃き溜めの鶴。彼女の愛らしさが殺伐としたドラマに一服の清涼感を与える。
 そして水嶋ヒロ。あんなにドスの利いたセリフが言えるとは思わなかったし、アクションのこなしも想像以上で大満足。カムイも彼にやって欲しかった。

ドロップ スタンダード・エディション [DVD]

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ドロップ

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