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霧笛が俺を呼んでいる(1960年・日本) [2011年 レビュー]

霧笛が俺を呼んでいる」 監督:山崎徳次郎 脚本:熊井啓

 僕の旧作邦画好きは、もうどうにも止まらなくなってしまった。
 一体どうしてこういう趣向になったのか、自分でいろいろと考えたのだけれど、行き着いた結論は「今の日本では夢が見られなくなったから」じゃないかと思う。
 6年前「ALWAYS 三丁目の夕日」を観たとき、僕は「昭和30年代ブームはなぜ起きたのか?」について考えた。そして『21世紀を迎えて夢を見られなくなった僕たちは、夢を見ていた時代を懐かしむようになった』と書いた。このときから僕は懐古趣味に走り、今日まで来ているように思う。

 旧作邦画を観ている僕は、“未来人”の気分も味わっている。
 2011年に生きる僕は「映画」という名のタイムマシンに乗って、今回は1960年の横浜へ行くのだ。21歳で事故死した赤木圭一郎はまだ生きていて、のちに二代目水戸黄門となる西村晃と共演している。それだけじゃない。今年66歳になった吉永小百合が「新人」とクレジットされ、初々しい演技を披露している。彼女は当時、代々木中学を卒業したか、駒場高校に入学したばかりと思われ、その愛らしさは筆舌に尽くし難い。
 そんな彼らの将来を知りつつ観るのも、旧作の愉しみである。 

 さて肝心の映画について。
 航海士・杉敬一(赤木圭一郎)は、船の故障によって足止めを食らい、横浜のバンドホテルに1週間滞在することになった。そこで横浜の親友・浜崎(葉山良二)を訪ねると、浜崎は数日前に自殺したという。浜崎の性格を知る杉は自殺が信じられず、浜崎の妹・ゆき子(吉永小百合)に聞くと、「兄は誰かに殺されたかも知れない」と打ち明けた。そこで杉が調べてみると、実は麻薬取引に絡んだ身代わり殺人であることが分かる…。

 旧き良き時代の日活映画である。
 赤木圭一郎はとことんカッコ良く、ケンカも強く(必然性のないケンカのシーンもある)、そして女にモテる(親友の妻までトニーに惚れるありさま)。でも絶対にがっつかないのだ(ホモか?)。
 乗っているクルマもカッコいい。純白のボディに赤いレザーシートが映えるオープンカー、オースチン・ヒーレー100である。一度出航したら何ヶ月も帰って来ないという航海士に、そのクルマが必要とは思えないが、まあそこはいい。なんたってスターシステム映画なのだ。主役はとことんカッコ良くなければならない。
 脚本は緩いけれど、事件そのものの構造も面白かった。だからそれなりに観ていられる。
 そして何より吉永小百合4本目の出演作としての価値は高い。演じたゆき子はドラマの重要なキーパーソンで、彼女の兄を想う気持ちは、当時の観客の心に刺さったことだろう。演技の質云々の前に、表情だけで男心をくすぐるそれは、間違いなく「天賦の才能」である。“未来人”の僕も「君はそのままでいいよ」と言ってあげたくなる存在感であった。

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コメント 4

きさ

これって、「第三の男」のいただきではなかったでしたっけ。
それはまた別の映画だったかな。
という事で映画の楽しさとはまた別に当時の日活映画ってそういうものでした。
個人的に好きなのは「大草原の渡り鳥」かな。
昨年浅草で見た「東京の暴れん坊」も素晴らしかったので、割と小林旭はファンです。
by きさ (2011-06-12 01:19) 

ken

ご指摘の通り、「第三の男」から着想を得た、らしいです。
裕次郎映画は割と観たのですが、それ以外はあまり見ていないので
これから少し観てみようかな、
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-06-12 11:56) 

movielover

「今の日本では夢が見られなくなったから」
うーん、うまい切り取り方ですね。
昭和30-40年代を知らない、多分色んな意味で過渡期の世代の私にも、未来人の気持ちを味わいながら夢の追体験をすることができるのがこの時代の映画なんでしょうね。
バブルのときに子供時代を送り、これからという時にバブル崩壊を迎え、なんだかんだ翻弄させられた世代です。どんどん夢が見られなくなった世代だけれど、もっと下の世代ほど割り切ったりできなかった微妙な世代。ちなみに同世代の間ではこのあたりから草食系男子が一気に増えた、というのが通説です。

懐古趣味、多分あと10年くらいしたら私もはまりだすかもしれません(笑)。その時にもう一度kenさんのBlog参考にしたいので、続けてくださいね。
by movielover (2011-06-13 23:43) 

ken

亀レスになっちゃいました。
微かに残る記憶が、思い切りを悪くするって、いつの時代にもありますね。
そうですか。バブル期に子供時代を送った世代って、複雑ですね。
あと10年かあ。頑張りますw
by ken (2011-06-18 21:49) 

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