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二十四の瞳(1954年・日本) [2012年 レビュー]

監督・脚色:木下恵介
原作:壷井栄

 あまり知られていませんが、今年2012年は木下恵介生誕100周年の年です。
 と言うワケで、いい機会なのでこれまで未見だった本作を観てみました。
 意外だったのは上映時間。よもや156分もあるとは思いませんでしたが、観ればなるほど1954年度キネマ旬報ベストテン第1位に相応しい作品だったと思います。ちなみに第3位は「七人の侍」ですから、その出来栄えは推して知るべしです。

 さて僕は本作を「香川県小豆島の分校を舞台した高峰秀子主演のドラマ」と認識していたのですが、ストーリーはちょっと意外な展開をしていました。
 そもそも1年2年の物語ではなく、昭和3年から終戦の翌年(昭和21年)に渡る「教員と教え子たちの師弟愛」を描いたもので、特に意外だったのは高峰秀子演じる“おなご先生”が一度教職を離れること。そして結婚し、3人の子を作り、やがて復職するという展開です。
 また描かれた年代を見れば、戦争というテーマから逃れられないことは容易に想像がつきますが、これが優れた「反戦映画」に仕上げられていて、GHQの実行支配から解放されたことで弾けた“日本の映画製作者たちの想いの塊”とでも言うべき作品になっています。

 おなご先生が教職を離れる理由は戦時教育の方針でした。
 太平洋戦争末期の昭和20年5月22日に公布された「戦時教育令」で「学徒は戦時に適切な用務に挺身すること」とされ、国家に対する最後の奉公を義務づけたわけです。おなご先生は教え子たちに「命を粗末にするな」を教えることで「アカ」呼ばわりされ、それに嫌気が差して教職を辞することになるのです。
 時代が変われば常識が非常識になり、非常識が常識になることの恐ろしさ。国が国の都合を優先して国民にこれ以上ない負担を強いる狂気。戦時中はその最たる例ですが、今も同じ状況にあると思うのは僕だけでしょうか。
 事実は歪められて国民に伝えられ、正しい教えや行いをするものを社会から抹殺しようとする事態は間違いなく今も続いています。日本人は先の大戦から何を学んだのだろうと思います。

 本作の中で悲劇に見舞われる子どもたちが何人かいます。しかしそれは戦時中だからとか、貧しいからとかではなく、国が国民を正しい方向へ導けなかった結果に過ぎません。同じ悲劇は今も起きています。僕は60年近く前に作られた本作を観ながら、「これは決して過去の出来事ではない」と背筋が凍る思いでした。

 良い意味で心に残るのは多くの唱歌が用いられていること。
 僕も子どもの頃に歌った記憶のある曲が多数で、皆と一緒に歌った心地よさが蘇り、あれはあれで子どもながらに幸福感を感じていたんだなと気付きました。

 テクニカルな点についてひとつだけ。
 劇中小学1年生だった12人の子どもたちが、やがて6年生になります。この子役たちが恐ろしいほど似ていて、僕は一瞬「まさか5年間空けて撮影したのだろうか」と思ったほどでした。
 wikiによると全国から良く似た兄弟姉妹を募集し、3600組7200人のオーディションをしたのだとか。当時としては異例とも言える規模のオーディションのおかげで、子役たちも作品の完成度に貢献しています。

 繰り返しますが今年は木下惠介監督生誕100周年。
 いい機会なので、一度ご覧になることをお勧めします。
 傑作。

二十四の瞳 デジタルリマスター2007 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
  • メディア: DVD

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コメント 4

Sho

私もkenさんと同じように、2~3年間の物語だろうと思っていました。
今と共通する問題も様々含まれているのですね。
なんとなく地味な映画、と思っていましたが観てみたいと思いました。
by Sho (2012-07-05 06:18) 

ken

この時代の教育ものかと聞くと確かに腰が引けますよね。
でも名作です。nice!ありがとうございます。
by ken (2012-07-05 18:58) 

coco030705

こんばんは。
この映画おもしろそうですね。なんとなくTVで観たような気がします。が、詳しくは覚えていませんでした。
「事実は歪められて国民に伝えられ、正しい教えや行いをするものを社会から抹殺しようとする事態」は、もちろん今でも続いていますよね。あの
大震災でそういうことがクローズアップされた感がありますが、昔からそうだったと思います。国や政治は国民を守ってくれません。怖いことですが現実だと思います。
木下惠介監督生誕100周年とは知りませんでした。まずはこの作品を観てみたいものです。
by coco030705 (2012-07-05 22:34) 

ken

本作を観ていると今と戦時中と何が違うんだろうと思ってしまいます。
ぜひご覧になって下さい!
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-07-06 16:20) 

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