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その男、凶暴につき(1989年・日本) [2012年 レビュー]

監督:北野武
脚本:野沢尚

 「BROTHER」を観たらいよいよ原点を観直してみたくなった。
 劇場公開時あまりの衝撃に「2度と観ない」と心に決めた作品。23年ぶりに2度目の鑑賞である。

 深作欣二監督の降板を受け、北野武がプロデューサーの奥山和由から監督の以来を受けたとき、脚本の書き直しを条件に引き受けた、というハナシは当時から知られていたが、これを劇場で観た僕は、ここまで残酷な映画に仕上がっていようとは想像も出来ず、目をそらしたくなるような暴力描写に強烈な嫌悪感を覚え、その後ほとんど思い出そうともせず(レビューも書かず)、ある意味“封印”していた1本だった。

 そう思わせた決定的なシーンは2つあって、ひとつはヤクの売人が金属バットで刑事の頭を殴るシーン。もうひとつは殺し屋の清弘(白竜)の匕首を我妻(ビートたけし)が素手で握るシーンだ。これらは今回も観ていて胸のざらつく思いがした。
 しかし。
 そんなシーンも含めて、本作は実に完成度の高い作品だったことを、今回初めて知った。
 それは「お笑い芸人が初めて撮った割りには」という前置きなど論外で、今なら「キム・ギドクのような強烈な個性とメッセージを持った監督が日本にもいた」と言いたい。

 我妻諒介は犯罪者を追い詰めるためなら、暴力行為もいとわない刑事。おかげで行く先々でトラブルを起こし、署のたらい回しに遭っていた。そんなある日、港でヤクの売人の遺体が見つかる。我妻は乱暴な手口で密売ルートを暴いていくが、我妻の理解者である先輩刑事、岩城(平泉成)が麻薬の横流しをしていることを知る…。

 北野映画の魅力は「間」だと各所で書いて来たけれど、デビュー作からすでにその「間」は完成されている。特に印象的なのは我妻が黙々と歩くシーンが妙に多いことだ。その間セリフは皆無。観客は我妻が黙々と歩く度に付き合わされ、その“行間”を読まされることになる。
 これが何度も続くとさすがに「行間を読むにしてもヒントをくれよ」と言いたくなるのだけれど、今度はそのタイミングでヒント投下するのだ。
 命を狙われている売人の様子を伺った我妻は、帰り道に殺し屋の清弘とすれ違う。互いを知らない2人はそのまま行き過ぎるが、やがてカットが変わっても黙々と歩いていた我妻は突然踵を返し、売人のアパートまで走って戻る、というシーンだ。
 会ったことはないけれど、存在だけは知っている殺し屋と、今すれ違ったことに気付く我妻。
 この「間」も絶妙なら、たけしさんのフットワークも素晴らしく、かつ我妻の思考を知ることになるこのシーンは、本編最高のシーンだったと思う。

 我妻の相棒である菊池刑事(芦川誠)がヤクザに取り入るというオチも効いていた。
 菊池にしては身分不相応とも取れるバーに出入りしている謎がラストで解けるのだ。「何か引っ掛かるけれど、怪しむほどではない」という絶妙なフリ。感心。突っ込みどころがどこにも無い。

 もしかして北野武監督の最高傑作はこれかも知れない。
 いい大人になってやっとホンモノの味が分かった気分。

その男、凶暴につき [DVD]

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コメント 2

Sho

この映画好きです。
好きな理由がわかりませんでしたが、kenさんのレビューを拝読し、
キム・ギドクと何か共通点があるな・・と、思いました。
北野武もキム・ギドクも徹底しているところが好きな気がします。
中途半端じゃない。暴力も、残酷さも、悲しさも。
又観てみたくなりました。
by Sho (2012-09-22 17:26) 

ken

徹底しているイコールブレないってことですね。
まさに2人の監督の共通点だと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2012-09-22 18:04) 

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