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悪い男 [2009年 ベスト20]

悪い男」(2001年・韓国) 監督・脚本:キム・ギドク

 金は無い。けれど熱い。
 「マッドマックス」シリーズの口直しにそんな映画が観たくなって未見のギドク作品をチョイスする。
 昨年末に観た「ブレス」は期待外れだったけれどコレは凄かった。それはまるでキンキンに冷やしたズブロッカ(Żubrówka)のダブルをストレートで飲んだような刺激だった。

 ある日、街で見かけた女子大生ソナに心奪われたハンギは、公衆の面前で突然ソナの唇を奪う。周囲は騒然。ハンギは通りがかった兵士に取り押さえられ袋叩きに遭い、ソナには唾を吐かれて激しく罵られる。逆恨みしたハンギはソナを罠にはめることにした。ハンギは売春街を取り仕切るヤクザだったのだ…。

 キム・ギドクはこの映画について「男なら誰にでもある願望と、女なら絶対に絶対に避けたい不幸を描いた」と語っている。男の願望とは「女を暴力で支配する」こと。女の不幸とは「身体を売る」こと。
 力関係が明らかな男と女を通して訴えるのは、「いびつであっても純粋な愛の形」だ。
 キム・ギドクのクリエイティブの原点。
 そして観るべきは、人間を極限の極限まで追い込む演出である。
 
 ハンギにはめられ売春宿で働くことになったソナは、最初こそ抵抗するもやがて観念し客を取るようになる。では「女なら絶対に避けたい不幸」をソナが受け入れた理由は何か?それはソナが自分の置かれた世界の“行き止まり”を見たからである。平たく言えば八方塞。
 「誰も自分を助けに来ない。逃げることも出来ない」
 最悪な状況から抜け出すための可能性を絶たれた女は、最悪な状況の中での“最良”を探そうとする。これはすべての人間が選択する道だが、絶望の中でソナが見つけたのは復讐という名の“生きがい”だった。しかし、ある事件によってその“生きがい”まで失いそうになったとき、ソナの精神は崩壊する。ここが本編最大の見どころである。観客はここで「いびつな愛の形」が生まれる瞬間を目撃するのだ。
 
 一方で、もしも、と思う。もしもソナが女子大生のままだったなら。
 彼女は間違いなく「いびつだが純粋な愛」を獲得しない人生を歩む。そして誰もが手にする「ありきたりな愛」を、ホンモノの愛と信じて生きていくのだ。
 キム・ギドクが書いた結末は、夢と現実が混在する衝撃的なものだった。しかしそこには神が存在していたと思う。
 「ソナは神に救われた」
 僕はそう思った。

 ギドク作品らしく、主人公のハンギがほとんど台詞を発していない。
 けれど、僕がそれに気付いたのは後半に差し掛かろうとしているとき。それほどチョ・ジェヒョンの演技は雄弁だった。
 傑作。

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