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紀子の食卓 [2008年 レビュー]

紀子の食卓」(2005年・日本) 原作・監督・脚本:園子温

 東京に住んで27年になった。
 それまでの18年間は熊本、福井、愛媛、途中ちょっと神戸、で暮らしていたけれど、東京に四半世紀住んでみて思うのは「東京はディープだ」ということ。
 例えば、田舎で起きると驚くような事件も、東京での事件なら驚かない。
 東京は“カオス”なのだ。

 17歳の平凡な女子高生・紀子(吹石一恵)は、地方新聞記者の父、専業主婦の母、そして妹のユカ(吉高由里子)の4人家族。
 田舎での生活に辟易としていた紀子は、ある日ネットの掲示板で知り合った「上野駅54」という人物を頼って家出をする。
 対面を果たした「上野駅54」は、“レンタル家族”という奇妙な仕事を主宰していた。
 まもなく、新宿駅で女子高生54人が一斉に飛び込み自殺を図るという事件が発生。この54人の中に姉がいるのでは?と思ったユカはネット上に手がかりを見つけ、やはり家を出てしまう。

 田舎から闇雲に東京を目指す、という図式は決して珍しくない。珍しくないのにこの手の素材がネタギレにならないのは、そんな若者たちを「東京」という街がすべて飲み込んでしまっているからだ。どんな理由であろうと、どんな人間であろうとお構いなしに、東京は彼らを無条件で受け入れている。
 27年前、無学で金も持たずに東京へ潜り込んだ僕は知っている。僕は“カオス”の底辺からそんな人間を腐るほど見てきたのだ。彼らはこの街の“無名性”を羽織って図太く生き延びている。東京はそんな彼らを受け入れながら、まるでブラックホールのように肥大し続けている。
 だから紀子の家出の動機にも、レンタル家族というビジネスにも、僕はそこはかとないリアリティを感じることが出来た。
 特に紀子と「上野駅54」が出会うシーンにはゾクゾクした。それは東京でなければ成立しないコミニュケーションの第一歩だったからだ。僕はこのシーンだけでこの映画を観た価値があったと思った。

 しかし物語は僕が期待した方向からは少しずつずれていく。
 田舎で崩壊した家族を、家長である父が東京で再生を試みるという展開になるからだ。残念ながらこの展開にはリアリティを感じることが出来なかった。
 この作品は同監督の「自殺サークル」のその後の世界が舞台になっているらしい。興味のある人は観ればいいと思うが、基本は先入観も期待感も抱かずに、158分で読み切れる小説を一気に読破するつもりで観るといい。

 吹石一恵が女優として優れた資質を持っていることは「雪に願うこと」で実証済み。
 それよりも本作では、ユカを演じた吉高由里子が素晴らしくいい。
 今年公開される主演作「蛇とピアス」(監督:蜷川幸雄)が楽しみだ。

紀子の食卓 プレミアム・エディション

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD

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コメント 4

ミック

この映画はまだ見ていないのですが、
園子温の映画は詩的なので、とても好きです。
ただ、怖い。
けど、kenさんの記事を読んで見たくなりました。
by ミック (2008-03-09 12:37) 

ken

いちおR-15です。
どんな濡れ場があるのかと思ったら、そんなものはまったくなく
ちょっとした惨劇がありましたw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-03-09 15:56) 

satoco

今日見たんですが、
「妹かわいいな」「妹かわいいな」
って言いながら見てました。
私にはちょっと1シーン1シーンが長かったですが...
東京生まれで平凡に育った私には、カオス東京は別次元という感じで却って遠い地に感じます。
by satoco (2008-03-21 00:00) 

ken

ユカが可愛いんですよね~。
あんな娘がいたら、ゼッタイ嫁になんかやりませんw
僕はこの27年でディープな東京を覗いちゃったんですよ。
もちろん、平凡な東京のほうが好きです。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-03-21 00:47) 

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