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クンドゥン [2008年 ベスト20]

クンドゥン」(1997年・アメリカ) 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:メリッサ・マシスン

 「KUNDUN」とは「法王猊下(ほうおうげいか)」の意味で、ここではチベット仏教の最高指導者「ダライ・ラマ14世」を表している。
 これは、ダライ・ラマ13世の生まれ変わりとしてとある寒村で見出されてから、チベット動乱によってインドへの亡命を余儀なくされるまでの22年間を事実に即して描いた、史上初の「ダライ・ラマ14世」映画である。

 僕はこんな映画をスコセッシが撮っていたとは露知らず、そしてチベット動乱以来の暴動が今まさに中国各地で発生しており、これは絶好のタイミングだと思って観てみた。
 観ると「もしや『ラストエンペラー』の二匹目のどじょうを狙ったか?」と勘ぐりたくなる展開をするのだけれど、そう思うのも最初のうちだけ。結果から言うと、この作品は実に良く出来ている。「インドへ亡命するまでのダライ・ラマ14世はどういう人物だったのか?」を学習するには、これ以上ない教材と言っていいだろう。
 まず感心するのは、過剰な脚色がされていないという点だ。
 唯一、ダライ・ラマ13世の生まれ変わりかどうか試されるシーンだけが「出来すぎ」な感じがしないでもないが、それ以外は実に淡々としたエピソードの積み重ねで構成されており、とても好感が持てる。「はたしてこれをスコセッシが撮る必要があったか?」と言いたくなるくらい全編が実に“穏やか”なのだ。
 しかし何を隠そう、この穏やかさを作り上げているのはスコセッシならではの映像美と、例えどんなテーマの作品でも確実に自らの懐に手繰り寄せ、迷いのない演出を施す抜群の手腕によるものだ。
 観れば分かる。たわいもないシーンなのに何故か心に響くカットの積み重ねなのだ。

 脚本は「E.T.」のメリッサ・マシスン(ハリソン・フォードの元妻)。
 ダライ・ラマ14世は3歳のときにダライ・ラマ13世、トゥプテン・ギャツォの転生と認定され、以来「クンドゥン」と呼ばれるが、それでも3歳の子供に変わりは無い。本編の大半はこの子の成長物語に費やされるが、この成長の度合いも絶妙。
 子供でありながら法王猊下であることの“本人の戸惑い”が要所要所に織り込まれていて、俗人の我々にも理解の出来る展開が素晴らしい。
 ダライ・ラマ14世の3歳から24歳までを演じた4人の俳優も見事だった。
 この手の作品の場合、どこかの世代で何らかの違和感を感じるものだが本作に限ってはまったくそれが無かった。脚本とキャスティングプロデューサーと監督と、そして俳優たちの力の結晶だろう。

 ひとつだけ欲を言うなら、オープニングとエンディング間近で2度登場する「砂曼荼羅」は何らかの説明を入れて欲しかった。僕はたまたまあるニュース番組の特集を見て砂曼荼羅の意味を知っていたので、当該シーンの意味合いを理解できたのだけれど、それを知らない人たちには一体何のことだか分からないはずだ。実に勿体無い。

 去る3月16日の記者会見でダライ・ラマ14世は、今回の騒乱で多数の死傷者が出たことについて「文化的虐殺」と中国を非難した。この言葉の持つ意味は、本作を観ると実に良く分かる。
 なぜ中国は他国(と言いきってしまう)で綿々と息づいてきた異文化に干渉するのか。
 激しい憤りを覚えつつ、今後の情勢に注目したいと思う。
 今、まさに観る価値ありの1本。

クンドゥン

クンドゥン

  • 出版社/メーカー: 東北新社
  • メディア: DVD 

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コメント 2

虹子

kenさん、またまたこんにちは。
昔の記事にばかりコメントしてごめんなさい。
この映画、今まさに観たいと探しましたが
近くのビデオ屋さんにはなくて・・・。
観たいなぁ~。
by 虹子 (2008-04-10 15:01) 

ken

いえいえ、昔の記事にどんどん投稿してくださいw
クンドゥン、DISCASとかなら借りられると思いますよ。
by ken (2008-04-10 16:36) 

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