カポーティ [2008年 レビュー]
「カポーティ」(2005年・アメリカ) 監督:ベネット・ミラー 脚本:ダン・ファターマン
この作品をパーフェクトに楽しめるのは「冷血」を読んだ人だけだろう。
けれど、その逆もあっていいと思う。
僕はまったく興味が無かったけれど、映画を観たら読んでみたいと思った。
「ティファニーで朝食を」の原作者が新たに切り拓いた“ノンフィクション・ノベル”というジャンルの傑作を。
「冷血」は読んでいなかったけれど、森達也の「死刑」を読んで間もないせいもあって、僕の中でカポーティと森達也が何度か重なった。
カポーティは作品を完成させるため、取材を続けた死刑囚の執行を望んだ。
その一方で死刑囚に対して“情”も湧いていた。
劇中カポーティはこう語る。
「変に聞こえるかも知れないが、彼を失うのは寂しい」
森達也は「死刑をめぐるロードムービー」と称した取材の中で、光市母子殺害事件の被告と面会したあとでこう書いた。
「僕は彼を死なせたくない」
まず映画の見どころは「死んで欲しい。死んで欲しくない」という矛盾の中で揺れるカポーティの葛藤だ。しかしスクリーン上にそのうねりはない。葛藤しているのかどうかも分からないくらい静かなタッチでカポーティの心理状態が紡がれていく。
よく出来ている。
映画は素知らぬ顔で「死刑は是か非か」を観客に投げつけ、放置する。そして途中、何度かカンザスの広大(かつどこまでもフラット)な地平線を挿入しては、ときどき聞いてくる。
「あなたはどちらか」と。
死刑制度を考えるに当たっては、森達也の「死刑」よりも、「カポーティ」ほうがニュートラルだ。
もちろん時代背景も国の違いもあるが、日本における最大の問題は「制度そのものが完全に不可視の領域にあること」と森達也は書いた。我々は望むと望まざるに係わらず、この制度のほとんどを目視することが出来ない。例えば死刑囚との面会。拘置所の様子。刑務官の証言。処刑場の見学。森達也は「不可視の領域」にあるものを想像力というハシゴによじ登って見ようとした。そしてひとつの結論に達した。
カポーティは“アミーゴ(友)”への責任を果たすために執行に立ち会った。そして「冷血」を完成させた。
森達也がカポーティと同じ体験をしたら、きっと本の結論はまた違ったものになっただろうなと思った。それが幸せかどうかは分からないけれど。
カポーティは「冷血」以降、一冊の本も上梓出来なかった。
森達也はこれからも書き続けるだろう。
「見た者」と「見ていない者」の差か。
この作品をパーフェクトに楽しめるのは「冷血」を読んだ人だけだろう。
けれど、その逆もあっていいと思う。
僕はまったく興味が無かったけれど、映画を観たら読んでみたいと思った。
「ティファニーで朝食を」の原作者が新たに切り拓いた“ノンフィクション・ノベル”というジャンルの傑作を。
「冷血」は読んでいなかったけれど、森達也の「死刑」を読んで間もないせいもあって、僕の中でカポーティと森達也が何度か重なった。
カポーティは作品を完成させるため、取材を続けた死刑囚の執行を望んだ。
その一方で死刑囚に対して“情”も湧いていた。
劇中カポーティはこう語る。
「変に聞こえるかも知れないが、彼を失うのは寂しい」
森達也は「死刑をめぐるロードムービー」と称した取材の中で、光市母子殺害事件の被告と面会したあとでこう書いた。
「僕は彼を死なせたくない」
まず映画の見どころは「死んで欲しい。死んで欲しくない」という矛盾の中で揺れるカポーティの葛藤だ。しかしスクリーン上にそのうねりはない。葛藤しているのかどうかも分からないくらい静かなタッチでカポーティの心理状態が紡がれていく。
よく出来ている。
映画は素知らぬ顔で「死刑は是か非か」を観客に投げつけ、放置する。そして途中、何度かカンザスの広大(かつどこまでもフラット)な地平線を挿入しては、ときどき聞いてくる。
「あなたはどちらか」と。
死刑制度を考えるに当たっては、森達也の「死刑」よりも、「カポーティ」ほうがニュートラルだ。
もちろん時代背景も国の違いもあるが、日本における最大の問題は「制度そのものが完全に不可視の領域にあること」と森達也は書いた。我々は望むと望まざるに係わらず、この制度のほとんどを目視することが出来ない。例えば死刑囚との面会。拘置所の様子。刑務官の証言。処刑場の見学。森達也は「不可視の領域」にあるものを想像力というハシゴによじ登って見ようとした。そしてひとつの結論に達した。
カポーティは“アミーゴ(友)”への責任を果たすために執行に立ち会った。そして「冷血」を完成させた。
森達也がカポーティと同じ体験をしたら、きっと本の結論はまた違ったものになっただろうなと思った。それが幸せかどうかは分からないけれど。
カポーティは「冷血」以降、一冊の本も上梓出来なかった。
森達也はこれからも書き続けるだろう。
「見た者」と「見ていない者」の差か。
こんばんは。こういう映画が作られていたこと、初めて知りました。かつて、彼の小説は読みましたが・・・・・・。
by extraway (2008-04-18 23:34)
もし「冷血」をお読みでしたら、ぜひご覧になってみて下さい。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-04-19 00:39)
こんにちは。
この作品はカポーティの華やかな部分がメインだと思っていましたが、
まったくそうではありませんでしたね。
「冷血」を読んだのは高校生の時なのでほとんど記憶は薄れていましたが、
数年前に、60年代に映画化されたものを観ていたので、
その記憶が蘇り、いろんな部分でカチリとピースがはまった気がしました。
よかったらこの映画もぜひご覧になってみてください。
by dorothy (2008-04-19 02:56)
映画「冷血」自体も面白そうですね。いつか観てみたいと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-04-19 10:06)
死刑囚と、取材した作家の関係では、加賀乙彦の「宣告」を読みました。
自分の生涯で読んだ本のベスト3に入れたいです。
この映画は、作中のカポーティの心情にうまく入っていけない感じで見ていました。ベビーフードのシーンが印象的でした。
by Sho (2008-04-19 19:37)
snoritaさんにも「宣告」を薦めていただきました。
いつか読んでみたいと思います。
映画は淡々としすぎていて、ついていけないと、と言う人もいるでしょうね。
by ken (2008-04-19 22:28)
「アラバマ物語」で知られるハーパー・リーがうまく物語の中に絡んでましたね。カポーティと一緒に取材したりする女性です。彼女がアラバマ物語を書き、賞を取ってさらにハリウッドで映画化されそれもアカデミー賞をとった様子がちらりとでてきましたね。それにしてもカポーティと体型は全然違うのに、そっくりな喋り方と似せた容姿でなりきったフィリップ・シーモア・ホフマンはなるほどの主演男優賞受賞でございました。
(ちなみにカポーティは短編集は上訴したのですが、結局長編小説を仕上げることができなかったんだと記憶しています)
「アラバマ物語」も、「陪審員制度」というものを考える上では結構重要な作品だと思います。ちなみに「アラバマ物語」でグレゴリーペックが演じた主人公の少女の父親(弁護士)が、アメリカ映画協会発表した「最も偉大な映画ヒーロー」の第一位になりました。
by 瑠璃子 (2008-04-19 23:56)
そうそう。書き忘れたんですけどリーを演じた女優さん、好きなんですよねえ。
最近観た映画で何に出てたっけ?
と随分アタマを悩ませたんですが、いまプロフィールを確認して分かりました。
「40歳の童 貞 男」に出てたんだ!
「インタープリター」の捜査官役も良かったし、いろいろ出てますね。
by ken (2008-04-20 00:15)
初めは、なんて嫌なヤツなんだ!カポーティと思いましたけど、気づけば号泣していました。葛藤する姿が痛々しかったです。字幕も泣かせるし~。
by 江戸うっどスキー (2008-04-20 16:44)
ラストの字幕は意外な情報で、ぐぐっと来ました。
フィリップは巧かったですねえ。アカデミー賞受賞も納得でした。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-04-20 19:38)
個人的にはカポーティは「見た者」になって
良かったんだと思いたいです。
作家としてではなく、人として。。
『死刑』もおもしろそうですね!読んでみます☆
by ジジョ (2008-04-22 05:55)
僕もジジョさんの考えに賛同します。
大きく人生を変えることになったけれど、「見た者」にならなかったら
カポーティは、カポーティとして名を残さなかったでしょうね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-04-22 16:36)