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満員電車 [2008年 ベスト20]

満員電車」(1957年・日本) 監督:市川崑 脚本:和田夏十、市川崑

 間違っても「痴漢シリーズ」ではありません。これは市川崑版の「大学は出たけれど」。
 傑作でした。脚本が実に素晴らしい。

 高度経済成長真っ只中の日本。
 最高学府を卒業した茂呂井民雄(川口浩)は、後輩もうらやむ大企業ラクダビールにコネなしで就職をする。あいにく本社勤務の席は縁故入社の同期に奪われ尼崎工場に勤務になるが、プラス思考の民雄は仕事に没頭していく。
 そんなある日、実家の父から「母親の気が触れた」と手紙が届き、時を同じくして民雄の身体にも異変が起きる…。

 高度経済成長期になぜ「大学は出たけれど」なんだろう、と思いながら観ていたのですが、調べてみたら1950年代前半は空前の就職難の時代だったそうです。
 1950~51年は朝鮮特需で“売り手市場”だったものが、52年からは雇用情勢が悪化した上に、旧制と新制合わせた大学卒業者が一気に倍増。完全に“買い手市場”となり、需要と供給のバランスが崩れた状態に陥ったのだとか。
 そこで大卒者たちは官庁や大企業をあきらめ中小企業に目をやるものの、そこでは「大卒者は扱いにくい」と敬遠される始末。
 市川崑監督は、空前の就職難の時代をこれ以上乗りようのない「満員電車」に例え、「それでもこの電車に乗り遅れると、人生の落後者になり兼ねない」という“大いなる矛盾”を、実にシニカルに描いています。

 脚本の巧さを観たのは展開とセリフ。
 展開は書くとネタバレになるので明かしませんが、セリフもいちいち巧いんです。
 何と言ってもリズミカル。
 主人公・民雄のせっかちな性格を、短いセンテンスで区切るセリフの文字数で。
 父・権六(笠智衆)の厳格さは、まるで訓示のような文章で。
 そして母・乙女(杉村春子)の気が触れた状態は、脈略のない老女の独り言風のセリフで表現していました。観れば分かりますが最大のポイントは母・乙女です。この先は自主規制(笑)。

 この作品は市川崑監督の没後企画としてwowowが特集、放送したものですが、邦画の旧作には今の日本を理解する上で重要な教材へと熟した作品があるんだなと、改めて教えてくれた1本でした。
 繰り返しますが、これは傑作です。


満員電車

満員電車

  • 出版社/メーカー: 角川ヘラルド映画
  • メディア: DVD

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