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私たちの幸せな時間 [2008年 レビュー]

私たちの幸せな時間」(2006年・韓国) 監督:ソン・ヘヨン 脚本:チャン・ミンソク

 3回も自殺未遂した女性と、3人を殺害した死刑囚が面会を重ね、心を通じ合わせていくドラマ。

 この映画は冒頭に重要なアナウンスがあります。
 「本映画は現在の法体系の反映ではなく、フィクションです」
 なぜこんなテロップが入るかと言うと、ありえない設定でドラマが進行するからです。
 少なくとも日本では、「死刑確定囚は独房に収容され、ごく限られた親族と弁護士以外は、面会も文通も禁じられている」と聞きます。
 ところが本作に登場する死刑囚は他の囚人と大部屋に収監され、面会も差し入れも自由に受けられる設定になっていま
した。
 僕は森達也氏の「死刑」や、大塚公子氏の「死刑囚最後の瞬間」などを読んでいた関係で、開始まもなく映画の設定に違和感を覚えます。けれど冒頭の“ことわり”には大きな意味があるはず、とも思っていました。原作者の思い。そして製作者の思いはどこにあるのか。シーンが進むごとに湧き上がる違和感を呑み込みながら、やがて迎えたエンディング。
 僕は最後の最後でようやく、この作品が発信する“メッセージ”に気が付きました。

 劇中で描かれた死刑囚の環境は、「人間としてせめてこれくらいのことは許してあげたい。そして、死刑囚は絶命する最後の瞬間まで社会との関わりを絶ってはならない」という明確な抗議だったと思います。

 
 これを念頭に映画を観ると、僕のように無駄に違和感を感じることなく、もっと深くこの作品に入ることが出来るでしょう。
 ドラマは一人の死刑囚を軸に、現代社会が抱える様々な問題を焙り出していきます。
 格差社会、貧困、性的暴力、医療保障、宗教、そして死刑制度の意味。
 よくぞここまで折り込めたものだと思う。
 中でも重要なポイントは「法の名の下に行われる殺人は罪ではないのか?」というアプローチです。
 これまで世界中で語られてきた死刑制度に関する最大の争点のひとつ。特に死刑存置派が多数を占める日本でこそ、いま絶対に議論すべきテーマだと思いました。
 
 何らかの理由によって死刑を受けることになった人間。
 何の因果か、死刑を執行することになった人間。
 観客はこの映画を通して、どちらの立場にも立ち、死刑制度の在り方を考えてみるといいと思う。
 韓国映画特有のセンチメンタリズムが強調されていますが、映画としてはよく出来ていました。
 クライマックスは涙なしに観られません。
 柴咲コウに似た雰囲気を持つ、主人公イ・ナヨンの演技も見事。

私たちの幸せな時間

私たちの幸せな時間

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD

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Sho

これは是非観たいです。
by Sho (2008-07-29 00:18) 

ken

はい、ぜひ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-07-29 00:31) 

DanDara

こんばんは、「シネまにあ★」を書いていたAzです。
ブログを移しました。
今後もヨロシクです。

鳩山法相が「死神」と言われたことへの賛否両論でヒートアップしてるときに、死刑制度をなくして、アメリカみたいに懲役300年などにして
減刑しても出所できない刑期にすれば折り合いがつくのでは、
などと無い頭で考えたことがあります。

この映画、ぜひ見てみたいです。

by DanDara (2008-08-01 22:52) 

ken

僕も懲役300年に賛成ですね。
とりあえず、死刑は無い方がいいと思う。
ぜひ観てみて下さい。
by ken (2008-08-02 01:41) 

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