ラスト、コーション [2008年 レビュー]
「ラスト、コーション」(2007年・中国/アメリカ) 監督:アン・リー 脚本:ワン・フイリン他
第二次大戦中の上海で、中国側のスパイとして活動をしていた鄭蘋如(テンピンルー)をモチーフにした短編を、「ブロークバック・マウンテン」のアン・リーが大幅に脚色したサスペンス。
抗日組織の弾圧を図る特務機関のリーダー、イーを演じるのはトニー・レオン。
祖国を裏切り、日本軍と手を結ぶイーを暗殺するため活動する女スパイ、ワン・チアチーはオーディションで1万人の中から選ばれた無名の新人、タン・ウェイ。
この2人の、まさに身体を張った演技が見ものの、R-18指定作品です。
本作をこれから観ようと言う人は、テンピンルーのことを知らずに(あるいは忘れて)観た方がいい。
テンピンルーの“最期”と、本作のクライマックスは大きく違います。僕はそこに少なからず失望してしまいました。
ヘタな先入観を持たず正しい情報を持って観ていれば、違う受け止め方があっただけに、久し振りに「見方を誤った」と後悔しています。
繰り返しますがこれはフィクションです。祖国を日本軍に占領されたある中国人の、“2つの生き様”がぶつかり合うドラマだと認識した上でご覧になってください。
さて、本作の宣伝文句に付いて回った「激しい性描写」については、僕がこれまでに観て来た映画の中では過去最高にきわどいものでした。「そのアングルから見せるか」と驚いたり、「そこにぼかし無しかい」と唖然としたり。けれどこれらのセックスシーンが決して話題づくりや客集めのためでないことは、イーとワン2人の複雑な表情のアップを幾度も折り込んだ編集から伝わって来ます。
攻守を入れ替えた何度かのセックスシーンがあってはじめて、クライマックス、ワンの重要な一言が重みを増すのです。
僕は「ブロークバック・マウンテン」を途中何度も思い出していました。
どうしてこんなにあの映画を思い出すんだろう?
考えていたら、「ブロークバック・マウンテン」と「ラスト、コーション」には共通するテーマがあることに気付きました。
「この世には身体を重ねた者同士にしか分からないものがある」
本作で描かれているのは、自身のアイデンティティを放棄させるほどの“想い”です。
時に国を、宗教を、家族を、そして性別までも乗り越えて結びつこうとする、人間が持つ最大の力。
「愛」
これはすべての人間が持ち合わせた、愛の力を思い知る作品なのです。
少女時代から熟練のスパイに成長するまでを一人で演じ分けたタン・ウェイは充分に観る価値ありです。けれどそれ以上に素晴らしかったのがトニー・レオン。誰にも心を開かず、誰も信じないという本人のキャラクターとは少々異なる役柄を、見事なまで物静かに、時に激しく演じていました。彼のキャリアで最高の演技だったかも知れません。
結論。
僕のように「見かた」さえ間違えなければ、上質のサスペンスドラマとして愉しめると思います。
大人のための上質な1本。
第二次大戦中の上海で、中国側のスパイとして活動をしていた鄭蘋如(テンピンルー)をモチーフにした短編を、「ブロークバック・マウンテン」のアン・リーが大幅に脚色したサスペンス。
抗日組織の弾圧を図る特務機関のリーダー、イーを演じるのはトニー・レオン。
祖国を裏切り、日本軍と手を結ぶイーを暗殺するため活動する女スパイ、ワン・チアチーはオーディションで1万人の中から選ばれた無名の新人、タン・ウェイ。
この2人の、まさに身体を張った演技が見ものの、R-18指定作品です。
本作をこれから観ようと言う人は、テンピンルーのことを知らずに(あるいは忘れて)観た方がいい。
テンピンルーの“最期”と、本作のクライマックスは大きく違います。僕はそこに少なからず失望してしまいました。
ヘタな先入観を持たず正しい情報を持って観ていれば、違う受け止め方があっただけに、久し振りに「見方を誤った」と後悔しています。
繰り返しますがこれはフィクションです。祖国を日本軍に占領されたある中国人の、“2つの生き様”がぶつかり合うドラマだと認識した上でご覧になってください。
さて、本作の宣伝文句に付いて回った「激しい性描写」については、僕がこれまでに観て来た映画の中では過去最高にきわどいものでした。「そのアングルから見せるか」と驚いたり、「そこにぼかし無しかい」と唖然としたり。けれどこれらのセックスシーンが決して話題づくりや客集めのためでないことは、イーとワン2人の複雑な表情のアップを幾度も折り込んだ編集から伝わって来ます。
攻守を入れ替えた何度かのセックスシーンがあってはじめて、クライマックス、ワンの重要な一言が重みを増すのです。
僕は「ブロークバック・マウンテン」を途中何度も思い出していました。
どうしてこんなにあの映画を思い出すんだろう?
考えていたら、「ブロークバック・マウンテン」と「ラスト、コーション」には共通するテーマがあることに気付きました。
「この世には身体を重ねた者同士にしか分からないものがある」
本作で描かれているのは、自身のアイデンティティを放棄させるほどの“想い”です。
時に国を、宗教を、家族を、そして性別までも乗り越えて結びつこうとする、人間が持つ最大の力。
「愛」
これはすべての人間が持ち合わせた、愛の力を思い知る作品なのです。
少女時代から熟練のスパイに成長するまでを一人で演じ分けたタン・ウェイは充分に観る価値ありです。けれどそれ以上に素晴らしかったのがトニー・レオン。誰にも心を開かず、誰も信じないという本人のキャラクターとは少々異なる役柄を、見事なまで物静かに、時に激しく演じていました。彼のキャリアで最高の演技だったかも知れません。
結論。
僕のように「見かた」さえ間違えなければ、上質のサスペンスドラマとして愉しめると思います。
大人のための上質な1本。
こんにちは。
この作品は映画館で観ましたが、見るのにもの凄くエネルギーが要るというか、見終わった後にすぐ立ち上がれず、でした。
性描写は確かにすごくて大画面で迫ってくるトニー・レオンのお尻に一瞬萌えてしまいましたが(笑)kenさんが仰る通り、あの場面があってこそ重みが増すんですよね。
実在の人物について元々何の知識も無かったので彼女の最期の描き方にも違和感なく見られましたが、いずれレンタルでまた観たいと思います。
by うつぼ (2008-11-02 14:25)
映画館で観た数少ない作品です。
確かにセックスシーンの二人は、ものすごくいろんな感情が入り乱れてた感じが伝わってきました。
トニー・レオンが、すごく強がってるのに男のデリケートな弱いところを上手く出してたと思います。
>「この世には身体を重ねた者同士にしか分からないものがある」
ホントそうですね。
なんかもう、この一言で終わっちゃいます(笑)
by Sho (2008-11-02 17:32)
>うつぼさん
劇場の大画面でトニー・レオンのケツw
いいですねえ。
トニーは香港映画界で確固たるキャリアを築いた人なのに、
よくぞここまでやったもんだと、拍手を送りたくなりました。
nice!ありがとうございます。
>Shoさん
強がって見せたい男の悲しい性をトニーはうまく演じていたと思います。
彼のことがますます好きになりました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-02 18:22)
テンピンルーのことは、まったく知らなかったです。それはそれで問題って気がしますが(汗)私が感じたのは、チアチーの居場所です。彼女は自身の存在意義を求めて、彷徨っていたようにみえました。
by クリス (2008-11-02 22:06)
存在意義を求めて彷徨っていたのは、まさにテンピンルーです。
そこは上手く描けていたのでしょうね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-02 22:22)
こんばんは。
見ごたえのある作品でした。トニー・レオンがとてもよかったとおもいます。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2008-11-03 23:57)
ですよね。この映画で評価されるべきは、やはりトニーですよね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-04 00:25)
仰る通り典型的な「するめ映画」だったと思います。
男と女の関係も、しばらく時間を置いて振り返ると、違う解釈が芽生えたり
するようなそんな感覚に似ていますね。
ハッピーエンドだったら、まったく記憶に残らない映画になったような気がします。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-04 12:55)
ボクが映画に感じている性描写について
前回お会いしたときに話した思い
kenさんの記事で一つ答えが見えた感じがします
中学生のように、誰もいない時に
コッソリ、ジックリ見ようと思います
by 魚河岸おじさん (2008-11-10 19:03)
ああ、絶対にそれがいいです。家族では見ない方がいいw
そしてトニー・レオンの苦悩を体感してください。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-11 00:54)
こんばんは。
トニー・レオンはこの作品でかなり疲れたので「レッド・クリフ」の諸葛孔明のオファーを降りたのに
周瑜役の危機を聞いて監督を助けるために「レッド・クリフ」に参加したらしいですね。
プロであると同時に気持ちの熱い人だなあと思いました。
そんなトニー・レオンの迫真の演技は心にくるものがありました☆
by non_0101 (2009-05-06 23:00)
男だねえ、トニー。カッコイイ!
僕はまだ「レッドクリフ」観ていませんが、wowowの放送を録画してあるので
トニーの気持ちを汲みながら観たいと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-05-06 23:18)