HANA-BI [2008年 レビュー]
「HANA-BI」(1997年・日本) 監督・脚本:北野武
「アキレスと亀」を観て以来、ぜひ観てみたかったヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作品。
結論から言うと、「グランプリの理由」は読み取れなかったので、そこには触れないでいく。
北野作品の特徴でもあるバイオレンス描写はここにも多い。しかし主人公・西(ビートたけし)の行為に限っては、その背景に妻に対する“愛”が存在しており、これまでとは趣が異なる。
映画の中の暴力は、自身のためではなく弱者を守るためであれば、それはエンタテインメントの王道として赦されて来た。だから観客は西の暴力を肯定し、心の平和を勝ち取って欲しいと願う。
しかし観客の“肩入れ”など折り込み済みの北野監督は、それを裏切ることによってあえて「無常」を訴えた。
半身不随になって退職した同僚の刑事と、殉職した部下の妻に対する西の助力を盛り込んだのも、圧倒的な無常を描くための布石に過ぎない。西は「生きていれば必ずいいことがある」と無言で他人に説く一方、「しかし自分の人生にその価値は無い」と総てを否定するのだ。
「神は存在して欲しいが、はたして神は存在しない」
日本人には伝わりにくい。
けれど宗教に寄り添って生きる人々には重くのしかかるメッセージである。
一説によると「ソナチネ」と同じ幕引きと言われ、評価を下げる向きもあるという。幸運なことに僕は「ソナチネ」を観ていなかったため、本作の結末は納得の着地だったが、とまれ北野武終生のテーマが、ここに一旦集約されたのではないかと思う。
例えば、本作以降のバイオレンス描写がどう変化していくのかは確認を要するが、監督自身年齢を重ねるごとに暴力性が希薄になり、一途な人間に対するそこはかとない愛情の芽生えを感じているのではないか。その結果、「アキレスと亀」を生むことになったのではないか、と結論付けるのは早急かつ強引だろうか。
北野作品は基本多くを語らない。
しかし本作の場合は表情と仕草と行動が雄弁だった。すべての人に観やすい作品だと思う。
ヴェネチアの“勲章”抜きに、北野作品を語る上で避けては通れない佳作。
当時50歳とは思えない、若々しいビートたけしも魅力。
「アキレスと亀」を観て以来、ぜひ観てみたかったヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作品。
結論から言うと、「グランプリの理由」は読み取れなかったので、そこには触れないでいく。
北野作品の特徴でもあるバイオレンス描写はここにも多い。しかし主人公・西(ビートたけし)の行為に限っては、その背景に妻に対する“愛”が存在しており、これまでとは趣が異なる。
映画の中の暴力は、自身のためではなく弱者を守るためであれば、それはエンタテインメントの王道として赦されて来た。だから観客は西の暴力を肯定し、心の平和を勝ち取って欲しいと願う。
しかし観客の“肩入れ”など折り込み済みの北野監督は、それを裏切ることによってあえて「無常」を訴えた。
半身不随になって退職した同僚の刑事と、殉職した部下の妻に対する西の助力を盛り込んだのも、圧倒的な無常を描くための布石に過ぎない。西は「生きていれば必ずいいことがある」と無言で他人に説く一方、「しかし自分の人生にその価値は無い」と総てを否定するのだ。
「神は存在して欲しいが、はたして神は存在しない」
日本人には伝わりにくい。
けれど宗教に寄り添って生きる人々には重くのしかかるメッセージである。
一説によると「ソナチネ」と同じ幕引きと言われ、評価を下げる向きもあるという。幸運なことに僕は「ソナチネ」を観ていなかったため、本作の結末は納得の着地だったが、とまれ北野武終生のテーマが、ここに一旦集約されたのではないかと思う。
例えば、本作以降のバイオレンス描写がどう変化していくのかは確認を要するが、監督自身年齢を重ねるごとに暴力性が希薄になり、一途な人間に対するそこはかとない愛情の芽生えを感じているのではないか。その結果、「アキレスと亀」を生むことになったのではないか、と結論付けるのは早急かつ強引だろうか。
北野作品は基本多くを語らない。
しかし本作の場合は表情と仕草と行動が雄弁だった。すべての人に観やすい作品だと思う。
ヴェネチアの“勲章”抜きに、北野作品を語る上で避けては通れない佳作。
当時50歳とは思えない、若々しいビートたけしも魅力。
ヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞した時、暴力シーンについて外国の記者から質問された森社長が、「暴力も愛情表現の一つだ」と答えていた意味が、ようやくわかったがします。
彼にとっての暴力は、妻を守るためだったのですね。
作品中の北野武の「画」が、強烈でした。
by Sho (2008-11-16 06:07)
森さんはそんなコメントをしていたのですね。
なるほど、納得。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-16 09:06)
私は本作はちょっと好みではないのですが、kenさんのレビューはなるほどと思いました。たけしさんは夫婦愛というものを愛している方だと思うのですが、そういうたけしさんはすごくいいなと思います。
by satoco (2008-11-16 15:13)
夫婦愛を敬う彼の姿勢は、
実の両親「菊次郎とさき」を想う気持ちの表れでしょうね。
そして自らの妻に対する贖罪の意識もあるかも知れません。
「アキレスと亀」はまさにそんな映画だったような気がします。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-16 21:56)
アキレスと亀、見損なっちゃったんですが、地元で再上映されるんですよ。北野映画はみたことがないのだけど、このエントリーを読んだら興味が増しました。絶対、見に行こう。
by ももこ (2008-11-18 23:06)
本当なら初期の作品をどれか一つでも観てからの方が愉しめると思いますが
「アキレスと亀」から逆行して行くのも、アリかも知れません。
きっと、ももこさんのような人も多いんだろうなあ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-19 01:29)
こんばんは。
「アキレスと亀」で北野作品初見デビューを果たした私です。
なかなかよかったので、また北野映画を見たいと思ってました。
次はこれにします。
by coco030705 (2008-11-22 21:24)
きっとcoco030705さんのような方がたくさんいらしゃるんでしょうね。
そういう人たちにも初期の作品はショッキングだろうなあ、と思います。
とすれば、この作品はいい導入剤かもw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-23 00:50)
私もまだ、「HANABI」だけです。
by room7 (2008-11-24 14:16)
観なきゃいけない作品、たくさんありますね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-11-24 14:30)