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恋の門 [2008年 レビュー]

恋の門」(2004年・日本) 監督・脚本:松尾スズキ

 痛快。
 実は食わず嫌いで今日まで観なかったが、こんなに面白い映画だとは思わなかった。
 これは松尾スズキが「こんな奴らがいて、こんなことがあったら笑えるなあ。ぐふふふ」と妄想したことをそのまま撮っちゃったような映画だ。だから観客は松尾スズキのバカ話に付き合うつもりで観ればいい。映画を観るために構える必要もないし、頭を使う必要もない。僕は脳みそをスキだらけにして、次々と繰り出される“仕掛け”に身を委ねて観た。だからものすごく笑えたと思う。
 一番笑えたのは主人公・恋乃(酒井若菜)の両親を演じた平泉成と大竹しのぶのコスプレ。しのぶさんが「イデオンのコスモとキッチンよ」とニッコリ笑ったときにはのけ反って笑った。
 松尾スズキはこの(どこから飛んで来るか分からない)ブーメラン・フックのようなギャグを作るのが本当に巧い人だ。

 端役で次々と登場する人たちも見どころのひとつ。
 忌野清志郎(こんな隣人いたら楽しい)、塚本晋也(フツーにヘンな男をやらせると妙に巧い)、尾美としのり(まるで別人)、市川染五郎(なんて贅沢な使い方なんだ!)、三池崇史(よく引き受けたなあ)、しりあがり寿(馴染みすぎ)、大竹まこと(ぷぷぷ)、小日向文世(サイコー!)。全員笑える。
 なんでもないシーンを意外なキャスティングでギャグとして成立させるテクニックも絶妙なら、一見突拍子もなく見えるギャグの数々がまったく空回りしていないのもスゴイ。
 空回りは「独り善がり」が生むものだ。そう思えば過去ギャグが空回りしていた映画は、マンガを原作としたものが多かったように思う。相対して本作が空回りしていない理由は、松尾スズキが演劇人であることと無関係ではないだろう。
 演劇は観客を抜きにしては作れない。
 客の拍手、客の笑い、客の涙。演劇とは客が生で観ることによって完成するエンタテイメントである。もしも観客を無視した独り善がりの演劇があったら、客は見向きもしなくなるだろう。
 松尾スズキは長年生の客と対峙することで「客の掴み方」を体得したのだと思う。てっとり早く客をつかむのに有効な手段は「笑い」であり、客を飽きさせないために必要なのも「笑い」。しかし、その分量を間違えると「笑い」は時に「毒」になることも知っている。なんと絶妙なバランス感覚。この感覚を体得している映画監督はほかに三谷幸喜しかいないだろう。

 石を使ったマンガ芸術家というハチャメチャな設定の松田龍平。コメディをやらせても天下一品だった父・優作には到底及ばないが、全く主体性のないダメ男をうまく演じていたと思う。実はストーリーも「単純に巨乳のネーチャン相手に童貞喪失したいだけ」というシンプルな構造が分かり易くて良かった。その相手役酒井若菜。普段はまったく好きじゃないんだけど、不思議と可愛く見えたのは「ヤレそう」だったからか?(笑)。
 いずれにしろ役者を誰一人殺すことなく、巧みに使いこなしていた松尾スズキの演出テクにも感心。
 出色の監督デビュー作。

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コメント 4

coco030705

こんばんは。
>役者を誰一人殺すことなく、巧みに使いこなしていた松尾スズキの演出テク

いやぁ、ほんとうにおっしゃるとおりです。役者を使うのがうまい人ですね。
ということは、役者に愛情を持っている人ともいえますよね。こんなユニークな人が世間にいるんだなということが、すでに驚きです。
TBさせていただきます。
by coco030705 (2008-12-13 23:43) 

ken

ご本人も役者であるから、その生理を理解しているんでしょう。
本当に多才な人だなと改めて感心してしまいました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-12-14 00:01) 

ももこ

この映画、おもしろかったなぁ。
ここでも大竹しのぶさんは異彩を放ってましたね。


by ももこ (2008-12-15 10:36) 

ken

メーテルにものけ反りましたw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-12-15 13:11) 

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