グッド・シェパード [2008年 レビュー]
「グッド・シェパード」(2006年・アメリカ) 監督:ロバート・デ・ニーロ 脚本:エリック・ロス
エンドクレジットを観ている最中躊躇した。
「面白いけど難しい」と書くべきか、「難しいけど面白い」と書くべきか。
そこでエンドマークを確認したあと、いくつかのシーンを見直して決めることにした。
結論は前者。
「いろんな要素が詰まっていて面白い。しかし詰め込みすぎた結果、難解な映画になってしまった」
難解になった理由はCIA誕生の物語と、CIA最大の汚点とされるピッグス湾事件が同時に描かれているからだ。
まず「CIA誕生物語」。あんな悪の巣窟みたいなモノが出来上がる話だから、ことは単純じゃない。いろんな事件といろんな人間が絡んでくる。ジョージ・w・ブッシュがメンバーだったことでも有名な秘密結社、スカル&ボーンズについての予備知識も必要。
そして「ピッグス湾事件」。亡命キューバ人のゲリラ部隊を支援し、カストロ政権の転覆を狙うも、情報漏洩などによって失敗に終わったCIA主導の作戦。
この2つを同時に描くのは至難の技だ。前後する時代を描くため時系列は崩れ、そこへオリジナルエピソードを加えるから時系列はさらに複雑になる。なのに、どういうわけか主役のマット・デイモンは老けメイクを施さずおよそ四半世紀を演じるため、ビジュアルで確認することも難しい。
しかし、これら多少の予習をしておけば、本作はなかなか骨のある佳作に映ると思う。
本作で観客が知るのは「自分の人生でありながら、自分の思い通りにならない歯痒さ」だ。
特に主人公のエドワード(マット・デイモン)は幼い頃に父を失ってから、確固たる目標を定めることが出来ないまま、合衆国に仕える身になってしまう。一見すると重要な任務に就いているようだが、一個の人間としてのプライオリティは放棄させられたに等しい。選択の余地なしである。
エドワードが「グッド・シェパード(良き羊飼い)」になってしまった象徴的なシーンがある。
サム・ジアンカーナ(シカゴマフィアのボス)をモデルにしたとされるイタリア系アメリカ人、ジョセフ・パルミ(ジョー・ペシ)に国外追放かCIAに協力するかを迫るシーン。パルミはエドワードに言う。
「ひとつ聞きたい。イタリア人には家族と教会がある。アイルランド人には故国。ユダヤ人には伝統。黒人には音楽がある。だがあんたたちに何がある?」
エドワードは顔色ひとつ変えず答える。
「アメリカ合衆国です。あなた方はお客だ」
いいシーンだったと思う。ジョセフ・パルミの説明がほとんどなく分かり難かったこと以外は。
映画の中に仕掛けられたいくつかの伏線も見どころのひとつ。
中でも重要な役割を果たすのが、エドワードが若かりし頃、図書館で偶然出逢うローラ(タミー・ブランチャード)だ。耳が不自由という彼女の設定が、のちに登場する通訳のハンナ(マルティナ・ゲデック)で効き、彼女の存在自体がエドワードの人生を別視点から見るきっかけにもなっている。このキャラクターがいるといないとで作品の出来栄えは大きく変わっていただろう。
予備知識を持たない日本人に167分は退屈だ。しかしケネディ大統領暗殺にも繋がるアメリカの影の歴史に興味があるなら、いくつかの情報を集めた上で観るといい。この世で一番高価なものは金でもダイヤでもなく、その「情報」以外の何物でもないとする世界を垣間見ることが出来るだろう。
映画を知り尽くした監督の、映画の面白さがいくつも仕掛けられたハードルの高いサスペンス。
エンドクレジットを観ている最中躊躇した。
「面白いけど難しい」と書くべきか、「難しいけど面白い」と書くべきか。
そこでエンドマークを確認したあと、いくつかのシーンを見直して決めることにした。
結論は前者。
「いろんな要素が詰まっていて面白い。しかし詰め込みすぎた結果、難解な映画になってしまった」
難解になった理由はCIA誕生の物語と、CIA最大の汚点とされるピッグス湾事件が同時に描かれているからだ。
まず「CIA誕生物語」。あんな悪の巣窟みたいなモノが出来上がる話だから、ことは単純じゃない。いろんな事件といろんな人間が絡んでくる。ジョージ・w・ブッシュがメンバーだったことでも有名な秘密結社、スカル&ボーンズについての予備知識も必要。
そして「ピッグス湾事件」。亡命キューバ人のゲリラ部隊を支援し、カストロ政権の転覆を狙うも、情報漏洩などによって失敗に終わったCIA主導の作戦。
この2つを同時に描くのは至難の技だ。前後する時代を描くため時系列は崩れ、そこへオリジナルエピソードを加えるから時系列はさらに複雑になる。なのに、どういうわけか主役のマット・デイモンは老けメイクを施さずおよそ四半世紀を演じるため、ビジュアルで確認することも難しい。
しかし、これら多少の予習をしておけば、本作はなかなか骨のある佳作に映ると思う。
本作で観客が知るのは「自分の人生でありながら、自分の思い通りにならない歯痒さ」だ。
特に主人公のエドワード(マット・デイモン)は幼い頃に父を失ってから、確固たる目標を定めることが出来ないまま、合衆国に仕える身になってしまう。一見すると重要な任務に就いているようだが、一個の人間としてのプライオリティは放棄させられたに等しい。選択の余地なしである。
エドワードが「グッド・シェパード(良き羊飼い)」になってしまった象徴的なシーンがある。
サム・ジアンカーナ(シカゴマフィアのボス)をモデルにしたとされるイタリア系アメリカ人、ジョセフ・パルミ(ジョー・ペシ)に国外追放かCIAに協力するかを迫るシーン。パルミはエドワードに言う。
「ひとつ聞きたい。イタリア人には家族と教会がある。アイルランド人には故国。ユダヤ人には伝統。黒人には音楽がある。だがあんたたちに何がある?」
エドワードは顔色ひとつ変えず答える。
「アメリカ合衆国です。あなた方はお客だ」
いいシーンだったと思う。ジョセフ・パルミの説明がほとんどなく分かり難かったこと以外は。
映画の中に仕掛けられたいくつかの伏線も見どころのひとつ。
中でも重要な役割を果たすのが、エドワードが若かりし頃、図書館で偶然出逢うローラ(タミー・ブランチャード)だ。耳が不自由という彼女の設定が、のちに登場する通訳のハンナ(マルティナ・ゲデック)で効き、彼女の存在自体がエドワードの人生を別視点から見るきっかけにもなっている。このキャラクターがいるといないとで作品の出来栄えは大きく変わっていただろう。
予備知識を持たない日本人に167分は退屈だ。しかしケネディ大統領暗殺にも繋がるアメリカの影の歴史に興味があるなら、いくつかの情報を集めた上で観るといい。この世で一番高価なものは金でもダイヤでもなく、その「情報」以外の何物でもないとする世界を垣間見ることが出来るだろう。
映画を知り尽くした監督の、映画の面白さがいくつも仕掛けられたハードルの高いサスペンス。
私もグッド・シェパード見ました。
確かにkenさん仰るとおり予備知識が必要な映画で、かなり分からない部分が多かったので、観終わったあとに色々と調べました(汗)
Once CIA, then CIA for life.
恐ろしいけど確かに存在する世界ですね。
by pandahead (2008-12-15 00:51)
自国の大統領を葬るエクスキューズが、「合衆国のため」なんて言える公務員は
世界中どこを探してもいない気がします。本当に恐ろしい。
ケネディが生きていたら、CIAは解体していたかも知れないと思えば、歴史の文を
感じずにはいられません。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-12-15 00:57)
みたーい。すっごく面白そうだ!デニーロは、この映画についてはなんか言っているのですか?
>「ひとつ聞きたい。イタリア人には家族と教会がある。アイルランド人には故国。ユダヤ人には伝統。黒人には音楽がある。だがあんたたちに何がある?」
いや、ほんとに。答えが興味深いですね。
ちなみに、日本人には、何があるんだろう。
by snorita (2008-12-15 07:33)
公式HPがすでに削除されているので、監督のメッセージは読んでいません。
日本人には何があるのか、僕も真剣に考えました。
「侍魂」、「粋」、「協調性」、いろんな言葉が浮かびましたが
やっぱり「原爆の傷痕」ですかね。イコール「戦争の放棄」。
難しい質問です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-12-15 13:13)
見たのにィ~、内容が出てこないときここは便利だ。
失礼だ。。。
でもほんとうだ。
by **feeling** (2008-12-22 00:24)
いいように使ってやってくださいw
nice!ありがとうございます。
by ken (2008-12-22 01:57)