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胡同(フートン)の理髪師 [2009年 ベスト20]

胡同の理髪師」(2006年・中国) 監督:ハスチョロー 脚本:ラン・ピン

 オリンピックを控えた北京の胡同で理髪師として生きる老人の“黄昏”を描いた秀作。

 実に淡々としてます。カメラワークも編集も。だから観客は胡同を訪ねた旅人の気分になるかも知れません。アナタはそこで偶然出逢った理髪師のチンおじいさんに強く惹かれ、そして旅の足を止め、しばらくチンおじいさんの日常を観察することになるでしょう。なぜならチンおじいさんが驚くほど“達観”しているから。そして何事にもうろたえることなく、自分を見失うことも、他人に左右されることもない凛とした生き方を目の当たりにして、アナタは自分の未熟さを知り、愕然とするのです。

 とにかく主人公を演じたアマチュア俳優、チン・クイさんの存在感が圧倒的です。
 カメラを前にして全く動じないその演技は、時折ドキュメンタリーかと錯覚するほどリアル。一挙手一投足すべてに落ち着きがあり、目線も安定していて、文字通り演技であることを忘れさせてくれます。
 設定として秀逸なのはチンおじいさんの“美意識”。ジャンパーのポケットには常に櫛が入っていて時折髪を直す姿がかなり印象的で、これはいくつになっても社会との関わりを持つことの大切さをアピールしていたと思います。
 
 そんなチンおじいさんの日常を眺めていると、こんなことに気付きます。
 
「人間、欲さえ捨てれば、地球上すべての争いは無くなるんじゃないか?」
 もちろんそんな世界になることなどありません。ヒトラーが遺した「欲望は膨張する」という言葉通り、人間の欲には際限がないのです。それどころか欲こそが人間の生きがいになっているといっても過言ではありません。しかし僕は「一度手に入れたものを失う怖さ」が人間をズルくし、「一度は手に入れたいと願う欲望」が人間を危うくしているんじゃないかと思いました。
 “物欲番長”の僕はすべてにおいて反省することばかりです。
 そんな煩悩の塊である僕に、チンおじいさんの言葉は金言ばかりでした。中でもこれ。
 「人間というものは、偉そうにしてたらダメだね。寛大になって他人を受け入れるべきなんだ。張り合ってばかりいないで」
 若い頃に聞いても何も感じなかった言葉が、人生を折り返して聞くと身に染みます。
 そして、もっともっと老人の言葉に耳を傾けるべきだと思いました。

 映画としても実によく構成されていました。
 特に後半、大きく2度、映画の文法を逆手に取ったミスリードが絶品でした。「猟奇的な彼女」の中でクァク・ジョエンが使った手法よりも巧かったと思います。
 人生を折り返したすべての人にオススメ。

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胡同の理髪師 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
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コメント 4

江戸うっどスキー

私も煩悩が多いせいか、チンお爺さんに魅かれちゃったんだろうな~。
素敵な人でしたね、チンさん。
豊かな暮らしも、心がけ一つってことかも知れませんね。
kenさんのレヴューを見て、改めてそう思いました。

by 江戸うっどスキー (2009-01-22 00:29) 

ken

先人の言葉には耳を傾けるべし。そう思いました。
チンおじいさんから見たら、僕たちは「ひよっこ」です。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-01-22 02:02) 

ももこ

kenさんのエントリを読んでると観たい映画が増えますねぇ。
これ、すごく気になります。
by ももこ (2009-01-24 22:26) 

ken

最高の褒め言葉がウレシイです。
純粋にいい映画だと思いますよ。ぜひご覧になってください。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-01-24 23:03) 

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