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真昼の暗黒 [2009年 ベスト20]

真昼の暗黒」(1956年・日本) 監督:今井正 脚本:橋本忍

 社会派の映画監督として知られ、個人的にいま最も興味ある監督の一人、今井正の作品を観る。
 脚本は黒澤明と共同で「七人の侍」などを執筆し、「私は貝になりたい」、「白い巨塔」、「砂の器」なども手がけた日本を代表する脚本家、橋本忍。

 これは1951年に山口県で発生した老夫婦強盗殺人事件、「八海事件」を基にしたドラマです。
 実際は単独犯だったにも関わらず、現場の状況から「複数による犯行に違いない」と勝手に推理した警察が犯人に拷問を加え、事件とは何の関係も
ない4人の名前を供述させた末、一審で死刑を含む全員有罪の判決を引き出した未曾有の冤罪事件。

 素晴らしく良くできた作品だと思います。
 この作品の5年後、山本薩夫監督がやはり冤罪を扱った「松川事件」を撮りますが、本作を参考にしていることは間違いありません。というのも、
 ①警察が容疑者に対して拷問を加え、そこで得た供述を元に無実の人間を逮捕するやり方。
 ②一方裁判では、「警察は拷問等一切加えていない」と虚偽の証言を行う様。
 ③無実の罪を着せられた人たちを何とか救おうと奮闘する弁護士の活動。
 ④事件の公判中に製作し、公開したタイムテーブル。
 すべてが映画「松川事件」と共通しているからです。
 ちなみに「真昼の暗黒」は1956年のブルーリボン賞で作品、監督、脚本の3冠。キネマ旬報日本映画ベストテンでは、「ビルマの竪琴」、「早春」、「流れる」といった僕でも知っている名作を随え、第1位を獲得しています。

 上映時間は112分。
 数字だけ見ると「意外とコンパクトにまとめたな」と思いますが、内容は非常に濃いです。
 まず112分のうち前半の60分を警察の悪質な取調べに割き、「(当時の)警察の捜査がいかに先入観に囚われた理不尽なものだったか」をアピール。
後半は「警察とはどこまでもメンツにこだわり、一貫して身内を擁護する組織である」ことを徹底的にアピールします。
 警察は、不当逮捕あるいは参考人として呼んだ人間から不利な証言が出ると、その総てを「嘘だ」の一言で片付けてしまいますが、本作が巧いのは、その証言内容をドラマとしてインサートしているところ。これで証言内容に偽りがないことを観客に教え、かつ登場人物たちの複雑な背景を描くことも出来て、感情移入を容易にさせる、というメリットをもたらしています。
 この「観客の心情をコントロールする」構成は、古くから「人情噺」に触れてきた日本人には極めて効果的で、かつ宗教を持たない日本だからこそ生まれたテクニックじゃないかと思いました。ちょっと研究してみたいテーマかな、と。

 そして。
 最後には「正義は勝つ」と信じたいのですが、その結末がどうなるのかは実際に観て確認してください。きっと裁判そのものがどういう顛末だったのか知りたくなるはず。
 秀作。

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コメント 4

Sho

こういう映画とか、この時代の邦画とか、とても気になります。
どうかこれからもご紹介ください。
by Sho (2009-02-24 08:53) 

ken

いつも書きますが、この時代の映画は本当に骨太です。
まだまだ観なきゃいけない作品が沢山ありますね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-02-24 17:19) 

瑠璃子

ミッチェルと以前見た「首」という映画http://warabaa.blog.so-net.ne.jp/2007-10-09は主人公の正木ひろし弁護士がこの八海事件にかかわっているので映画のラストも八海事件の弁護をしているところで終わります。ハリボテの首にがんがん包丁をたたきつけるのが印象的なんですが、よく考えたら「真昼の暗黒」と原作-脚本コンビが一緒なんですね。
この頃の橋本忍はよかったなあ…。
by 瑠璃子 (2009-03-11 15:41) 

ken

ご紹介頂いた映画、やっと観ることが出来たな、と思ってました。
ありがとうございます。
by ken (2009-03-11 16:11) 

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