フロスト×ニクソン [2009年 ベスト20]
「フロスト×ニクソン」(2008年・アメリカ) 監督:ロン・ハワード 脚本:ピーター・モーガン
さすがロン・ハワード。実在の人物、事件、事故を描かせたら、やっぱりこの人は巧かった。
どこがどう巧いのかはあとで説明するとして、まずは作品を堪能するためにも、ぜひ予習に取り組んで下さい。課題はもちろん「ウォーターゲート事件」です。
1972年6月。民主党本部のあるウォーターゲート・ビルに、盗聴器を仕掛ける目的で5人の男が侵入しようとして現行犯逮捕される。これが事件の発端。
そして逮捕された1人が所持していた手帳の中に、ホワイトハウス内のある人物と繋がる電話番号が見つかったことで、事件は大きなうねりとなる。
当初ホワイトハウスは「事件と政権は無関係」と主張していたものの、マスコミによって現職大統領の関与が暴かれ、ニクソンはアメリカ史上初めて、任期を残しての辞職に追い込まれる。
これが事件の簡単なあらまし。
ですが本作を充分に愉しむために、もう少し入れて欲しい情報があります。
1)ニクソンがFBIの捜査を妨害すべく、大統領補佐官たちと議論をしたテープが残っていた。
事件の調査委員会からテープの提出を求められたニクソンはこれを一旦拒絶。のちにテープを提
出。しかし18分30秒に渡って消去された箇所があることが発覚。
2)ニクソンには後任のフォード大統領により、大統領特別恩赦が与えられ、以降一切の捜査も裁判
も免れた。そのため盗聴の目的も明らかにされず、ニクソンは謝罪もしていない。
3)イギリス人テレビ司会者デビッド・フロストからの依頼を受け、ニクソンがインタビューに応じたの
は辞任から3年後の1977年のことだった。
この3点は作品を理解する上で重要なポイントになります。あとは事の成り行きを見守って下さい。
さて冒頭の話に戻ります。
僕が感心したのはト書きの演出。役者のセリフがない場面こそ見応えがありました。
本作は「ボクシング」に例えたセリフが随所に出て来ますが、セリフの無い場面はボクサーが互いに手を出す前、いわゆる“探り合い”と同じです。一見すると試合は動いていませんから、面白く見えません。しかし僕がここを「面白い」と思えたのは、リングに上がる前の2人の背景がきちんと描かれていたからです。
フロストとニクソン。2人の背負った“十字架”が見えるからこそ、ゾクゾクするほど面白い。しかも“探り合い”の演出が巧いときてる。役者の目線と表情、それを捉えるカメラの構図、仕上げる編集の間合い。そのすべて。
観客のイメージをかき立て、作品を補完させるロン・ハワードのテクニックは「アポロ13」にも見られましたが、本作でさらに磨きがかかっていたように思います。
ニクソンを演じたフランク・ランジェラ。
歴代大統領の中でもニクソンほど個性的な顔の持ち主はいません。先日、アカデミー賞の授賞式でマイケル・ダグラスは「映画が始まってすぐにすべての雑念が消え去り…」とランジェラを紹介しました。僕は内心「そんなことはあるまい」と思っていました。僕にはどこをどうみてもランジェラはニクソンに見えなかったから。
ところが。
マイケル・ダグラスの言葉は本当でした。恐らくほとんどの人が何の違和感もなくランジェラ=ニクソンを受け入れることでしょう。彼の演技は実に素晴らしかった。つけ足しに聞こえるかも知れないけれど、セレブ司会者を演じたマイケル・シーンも。
本作の結末。すなわちニクソンの結末は皮肉です。
テレビが政治に大きな影響を及ぼすようになった時代の、彼は「最初の敗者」と言っていいのかも知れません。
この映画、少なくともマスコミに携わる人は観て損はないと思います。悪く言えば地味ですが、事件を知る人にはかなり面白い作品です。
さすがロン・ハワード。実在の人物、事件、事故を描かせたら、やっぱりこの人は巧かった。
どこがどう巧いのかはあとで説明するとして、まずは作品を堪能するためにも、ぜひ予習に取り組んで下さい。課題はもちろん「ウォーターゲート事件」です。
1972年6月。民主党本部のあるウォーターゲート・ビルに、盗聴器を仕掛ける目的で5人の男が侵入しようとして現行犯逮捕される。これが事件の発端。
そして逮捕された1人が所持していた手帳の中に、ホワイトハウス内のある人物と繋がる電話番号が見つかったことで、事件は大きなうねりとなる。
当初ホワイトハウスは「事件と政権は無関係」と主張していたものの、マスコミによって現職大統領の関与が暴かれ、ニクソンはアメリカ史上初めて、任期を残しての辞職に追い込まれる。
これが事件の簡単なあらまし。
ですが本作を充分に愉しむために、もう少し入れて欲しい情報があります。
1)ニクソンがFBIの捜査を妨害すべく、大統領補佐官たちと議論をしたテープが残っていた。
事件の調査委員会からテープの提出を求められたニクソンはこれを一旦拒絶。のちにテープを提
出。しかし18分30秒に渡って消去された箇所があることが発覚。
2)ニクソンには後任のフォード大統領により、大統領特別恩赦が与えられ、以降一切の捜査も裁判
も免れた。そのため盗聴の目的も明らかにされず、ニクソンは謝罪もしていない。
3)イギリス人テレビ司会者デビッド・フロストからの依頼を受け、ニクソンがインタビューに応じたの
は辞任から3年後の1977年のことだった。
この3点は作品を理解する上で重要なポイントになります。あとは事の成り行きを見守って下さい。
さて冒頭の話に戻ります。
僕が感心したのはト書きの演出。役者のセリフがない場面こそ見応えがありました。
本作は「ボクシング」に例えたセリフが随所に出て来ますが、セリフの無い場面はボクサーが互いに手を出す前、いわゆる“探り合い”と同じです。一見すると試合は動いていませんから、面白く見えません。しかし僕がここを「面白い」と思えたのは、リングに上がる前の2人の背景がきちんと描かれていたからです。
フロストとニクソン。2人の背負った“十字架”が見えるからこそ、ゾクゾクするほど面白い。しかも“探り合い”の演出が巧いときてる。役者の目線と表情、それを捉えるカメラの構図、仕上げる編集の間合い。そのすべて。
観客のイメージをかき立て、作品を補完させるロン・ハワードのテクニックは「アポロ13」にも見られましたが、本作でさらに磨きがかかっていたように思います。
ニクソンを演じたフランク・ランジェラ。
歴代大統領の中でもニクソンほど個性的な顔の持ち主はいません。先日、アカデミー賞の授賞式でマイケル・ダグラスは「映画が始まってすぐにすべての雑念が消え去り…」とランジェラを紹介しました。僕は内心「そんなことはあるまい」と思っていました。僕にはどこをどうみてもランジェラはニクソンに見えなかったから。
ところが。
マイケル・ダグラスの言葉は本当でした。恐らくほとんどの人が何の違和感もなくランジェラ=ニクソンを受け入れることでしょう。彼の演技は実に素晴らしかった。つけ足しに聞こえるかも知れないけれど、セレブ司会者を演じたマイケル・シーンも。
本作の結末。すなわちニクソンの結末は皮肉です。
テレビが政治に大きな影響を及ぼすようになった時代の、彼は「最初の敗者」と言っていいのかも知れません。
この映画、少なくともマスコミに携わる人は観て損はないと思います。悪く言えば地味ですが、事件を知る人にはかなり面白い作品です。
観たくなっちゃった。
by ばくはつごろう (2009-03-25 21:39)
ウオーターゲートと言えば「大統領の陰謀」ですが、これはまた違った切り口の映画っぽい(ニクソンがでてくるあたり)ですね。アメリカって、なんかこう、コワいよねー。是非見まーす。
by snorita (2009-03-25 22:16)
>ばくはつごろうさん
世代的にもイイと思います。nice!ありがとうございます。
>snoritaさん
「大統領の陰謀」も面白い映画でしたが、これもなかなかですよ。
それにしても大統領を殺しちゃう国ですからね。コワイですよ本当に。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-03-26 00:51)
世代的というのが妙に引っかかりますが。
気にしないことにしておきますよ。
by ばくはつごろう (2009-03-26 10:24)
子供には分かりませんからw
by ken (2009-03-26 10:33)
当時の事を少し調べてから鑑賞したいと思います☆
by Betty (2009-03-26 16:16)
ほんのちょっとの努力が、映画を面白いものにしてくれると思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-03-26 16:35)
こんにちは。
二人の対決は本当に見応えがありました~!
ちゃんと「ウォーターゲート事件」を勉強してから、再チャレンジします!
by non_0101 (2009-03-29 10:23)
クライマックスの重要性を知る上でも予習は必要ですよね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-03-29 10:57)