百万円と苦虫女 [2009年 ベスト20]
「百万円と苦虫女」(2008年・日本) 監督・脚本:タナダユキ
久し振りに引いた「当たり」映画。
完全なる「蒼井優ショウ」だけれど、主演女優の力を借りて「自分の言いたいことをちゃんと言った」タナダユキの脚本が秀逸だ。
特筆すべきは今の男には絶対に書けない、女性ならではの“潔さ”が全編ににじみ出ていること。
これが素晴らしく心地好い。
オープニングからそうだ。蒼井優は拘置所にいる。
僕は何事だと思った。
男にとって「蒼井優」と「拘置所」はおそらく世界で一番離れたところに立つ存在だ。だから僕たちは「まさかそんなはずないだろう」と慌てる。
しかし女に幻想を抱かない同性の監督は、一番遠いところにあるものが実は背中合わせで立っていることを知っている。だからタナダユキは何ら躊躇することなく、その2つを重ね合わせ、男たちが抱く幻想に先制パンチを喰らわせる。
見事としか言いようがない。
「では、なぜ蒼井優は拘置所にいるのか?」
その理由が明かされる序盤だけ時系列が入れ替えられている。もちろん先制パンチを喰らわせるためだ。腑に落ちる理由が明かされるとテイクオフ完了。物語は時系列に戻り、観客は今さら降りられない上空まで連れて来られたことに気付く。静かに。けれど瞬く間に。
まさに「映画に引きずり込まれる」という表現が相応しい、見事な掴みだったと思う。
ひょんなことから警察沙汰を引き起こし、自宅に居場所を失った鈴子(蒼井優)は「百万円貯めたら家を出る」と家族に宣言。そして家を出た鈴子は「百万円貯めるごとに見知らぬ土地で暮らす」という生活を始める…。
ロードムービーに欠かせない、ちょっと変わったキャラクターの作り方も巧い。
一番は桃の生産農家の息子を演じたピエール瀧。いい人なんだか、悪い人なんだか分からない、田舎の怪しいキャラクターを演じさせたら、今この人の右に出る役者はいない。観客は蒼井優と同じ目線でピエール瀧を見て、彼の本性を確かめようと必死になる。このドキドキ感がたまらなく面白い。と、僕はこのシークエンスを観ていて、ロードムービーの撮り方は二通りあることに気がついた。
主観で撮るか、客観で撮るか。
本作はもちろん主観で撮られている。だから他の登場人物の内面は描かれない。結果、主人公への感情移入を容易し、観客は主人公目線で鈴子の旅を疑似体験する。
客観で撮られたロードムービーは邦画で言えば「菊次郎の夏」や「転々」がある。このように旅人が複数でいる作品は客観で撮られることが多い。この場合、観客はもう一人の旅人としてか、あるいは旅する者の身内のような立ち位置で観ることになる。だから旅の行程や登場人物の素行が気に入らないと妙にやきもきする。
なるほど。勉強になった。
では。
タナダユキが「主演女優の力を借りて言いたかったこと」とは何か。
人生は思い通りにならないことの繰り返し。
この一言に尽きると思う。
マジメに生きようとしているのに、何故か他人に行く手を阻まれる…。
自分に正直に生きたいのに、不思議と自分の想いは伝わらない…。
こんな悩みを抱えたことのある女子に、この映画はきっと刺さる。そして蒼井優の生きざまに、きっと救われる。
ラストシーン。
蒼井優の放つ一言に僕は感動した。そして女性監督の潔さにも感服した。
男には無理。書けないし、撮れない。
繰り返すけれど「蒼井優ショウ」である。
中でも一番の見どころは彼女の「告白」シーンに尽きる。僕はいろんなことを思い出して、自分でも動揺するくらい心拍数が上がった。蒼井優はやっぱり天才だった。
ロードムービーでありながら、ゴールがないという点も意表を突いていて出色。
久し振りに引いた「当たり」映画。
完全なる「蒼井優ショウ」だけれど、主演女優の力を借りて「自分の言いたいことをちゃんと言った」タナダユキの脚本が秀逸だ。
特筆すべきは今の男には絶対に書けない、女性ならではの“潔さ”が全編ににじみ出ていること。
これが素晴らしく心地好い。
オープニングからそうだ。蒼井優は拘置所にいる。
僕は何事だと思った。
男にとって「蒼井優」と「拘置所」はおそらく世界で一番離れたところに立つ存在だ。だから僕たちは「まさかそんなはずないだろう」と慌てる。
しかし女に幻想を抱かない同性の監督は、一番遠いところにあるものが実は背中合わせで立っていることを知っている。だからタナダユキは何ら躊躇することなく、その2つを重ね合わせ、男たちが抱く幻想に先制パンチを喰らわせる。
見事としか言いようがない。
「では、なぜ蒼井優は拘置所にいるのか?」
その理由が明かされる序盤だけ時系列が入れ替えられている。もちろん先制パンチを喰らわせるためだ。腑に落ちる理由が明かされるとテイクオフ完了。物語は時系列に戻り、観客は今さら降りられない上空まで連れて来られたことに気付く。静かに。けれど瞬く間に。
まさに「映画に引きずり込まれる」という表現が相応しい、見事な掴みだったと思う。
ひょんなことから警察沙汰を引き起こし、自宅に居場所を失った鈴子(蒼井優)は「百万円貯めたら家を出る」と家族に宣言。そして家を出た鈴子は「百万円貯めるごとに見知らぬ土地で暮らす」という生活を始める…。
ロードムービーに欠かせない、ちょっと変わったキャラクターの作り方も巧い。
一番は桃の生産農家の息子を演じたピエール瀧。いい人なんだか、悪い人なんだか分からない、田舎の怪しいキャラクターを演じさせたら、今この人の右に出る役者はいない。観客は蒼井優と同じ目線でピエール瀧を見て、彼の本性を確かめようと必死になる。このドキドキ感がたまらなく面白い。と、僕はこのシークエンスを観ていて、ロードムービーの撮り方は二通りあることに気がついた。
主観で撮るか、客観で撮るか。
本作はもちろん主観で撮られている。だから他の登場人物の内面は描かれない。結果、主人公への感情移入を容易し、観客は主人公目線で鈴子の旅を疑似体験する。
客観で撮られたロードムービーは邦画で言えば「菊次郎の夏」や「転々」がある。このように旅人が複数でいる作品は客観で撮られることが多い。この場合、観客はもう一人の旅人としてか、あるいは旅する者の身内のような立ち位置で観ることになる。だから旅の行程や登場人物の素行が気に入らないと妙にやきもきする。
なるほど。勉強になった。
では。
タナダユキが「主演女優の力を借りて言いたかったこと」とは何か。
人生は思い通りにならないことの繰り返し。
この一言に尽きると思う。
マジメに生きようとしているのに、何故か他人に行く手を阻まれる…。
自分に正直に生きたいのに、不思議と自分の想いは伝わらない…。
こんな悩みを抱えたことのある女子に、この映画はきっと刺さる。そして蒼井優の生きざまに、きっと救われる。
ラストシーン。
蒼井優の放つ一言に僕は感動した。そして女性監督の潔さにも感服した。
男には無理。書けないし、撮れない。
繰り返すけれど「蒼井優ショウ」である。
中でも一番の見どころは彼女の「告白」シーンに尽きる。僕はいろんなことを思い出して、自分でも動揺するくらい心拍数が上がった。蒼井優はやっぱり天才だった。
ロードムービーでありながら、ゴールがないという点も意表を突いていて出色。
うっ。観たいと思いながら見逃しそうな映画でした。蒼井の達者さは『フラガール』で証明済み(方言バッチリ)なので、若手の中では信頼のおける女優と認識していました。二番館に間に合うかな。ウチのちっちゃいテレビでは名画はもったいない。
by midori (2009-04-04 21:11)
この映画、テレビじゃやらないと思います。
あ、wowowならやる!製作委員会に名前連ねてたしw
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-04-07 15:49)
久しぶりに意見が会いましたね(笑)
デモkenさんが書くとモノスゴイ説得力があります
ホント「蒼井優ショウ」だと思います
ラストシーンがサイコー!
by 魚河岸おじさん (2009-04-11 17:03)
ですね~w
今の感覚で「花とアリス」を観たら、評価も変わるかも知れない…
なんて思っちゃいました。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-04-12 00:39)
こんにちは。
この作品、大好きです☆
挫けずにゆるりと生きている感じがいいですね~
そんな心を持ってみたいものです(^^ゞ
by non_0101 (2009-04-21 12:23)
こんな生き方、ゼッタイ出来ないよね。
さすらいたいわぁw
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-04-25 22:03)
久しぶりにいい映画を観たという気になりました。話の良さだけでなく、丁寧に作られている心地よさがありました。ニヤニヤが止まらなかったです。後日TBさせてください。
by satoco (2009-06-15 01:19)
もし蒼井優がこの仕事を請けていなかったら…と考えたのですが、
上野樹里、柴咲コウ、竹内結子、麻生久美子、吉高由里子…。
誰も彼女の代わりは出来ない気がしますw
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-06-15 01:38)