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SING FOR DARFUR [2009年 ベスト20]

シング・フォー・ダルフール」(2009年・オランダ/スペイン) 監督:ヨハン・クレイマー

 僕が理想としていた映画と出逢いました。
 この作品は今から四半世紀以上前、僕が脚本の勉強をしていた頃に「こんなものが書きたいな」とイメージしていたまんまの構造をしています。

 舞台は「シング・フォー・ダルフール」という世界的音楽イベントが開かれる日のバルセロナ。
 このイベントによる渋滞に巻き込まれていた道化師が最初の主人公です。…が、その道化師に話しかけたイギリス人女性→その女性の鞄をひったくった少年→少年から鞄を受け取ったバイクの少年→バイクの少年が鞄を届けた初老の男→その男に使いを頼まれた部下…。といった風に次から次へと視点が変わるのが、この作品の最大の特徴。そしてクライマックスには思いもよらない出来事が待っています。

 その昔、僕が考えていたのは「街ですれ違うすべての人にドラマがある」、その様を1本のドラマとしてまとめられないか、ということでした。その考えの基となったのは、15歳のときに聴いたさだまさしの「主人公」という曲の歌詞です。
 「あなたは教えてくれた 小さな物語でも 自分の人生の中では、誰もがみな主人公」
 この歌詞に猛烈に感動した当時高校1年生の僕は、その3年後に高倉健主演の「駅 STATION」を観て、まさしくすれ違う人たち全員にドラマがある倉本聰さんの脚本に心震わせ、「でももっと多くの人が登場するドラマを自分でも書きたい」と思っていたんです。ジャンルで言うと「群像劇」ということになるのですが、本作の素晴らしいところはまるでネットサーフィンのように次々と登場人物を乗り換えていくところ。
総勢30人以上(動物1匹も含まれる)で紡がれるドラマの中に、ではどんなメッセージが込められているかというと、タイトルからも分かる通り「ダルフール紛争」に関するものなんですが、このアプローチの仕方がまた今までの同様の映画にはない極めてCOOLなものでした。

 本作はダルフールの現状を直接的に訴えたものではありません。そもそも舞台はバルセロナだし、登場するのはその日バルセロナにいた人たちだけです。
 本作はこの映画に触れることによって、ダルフールのことを気に留め、自らアクションを起こして、ダルフールの情報を得るべきだ、というメッセージを発信しています。人から与えられるものではなく、自ら情報を取りに行くことで、この問題に対する人々の姿勢も変えようと。
 しかも本作は商業映画でないところもミソ。あくまで非営利で製作され、利益の一部はThe Sing For Darfur Foundationへ寄付されるそうです。面白い成り立ちだなあ。
 
 CMディレクターが監督を務めているだけあって、カットの重ね方も大胆で映像はスタイリッシュ。そして純粋に映画として、とてもよく出来ています。
 人から人への繫がりは、どこへどう繋がっているか分かりませんが、仮に僕からスタートしてもダルフールに辿り着けるんじゃないかと思いました。アフリカのことだからといって対岸の火事と決めてかかってはいけない。「ホテル・ルワンダ」以来、久しぶりにそんなことを思い知った佳作です。
 配給元は100か所のスクリーンでの上映を目指しているとか。
 あなたの街でも見かけたら、ぜひ。

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コメント 4

Sho

なるほど。「駅STATION」は、そういう映画だったのですね。
とても印象に残る映画でしたが、「結局誰が主人公だったのだろう?
何がいいたかったのだろう?」という引っ掛かりがちょっとあったのですが
解消しました。
啓蒙というか啓発というか、そういうことにもいろいろなアプローチがあるのだなと思いました。
by Sho (2009-08-17 22:17) 

ken

「駅 STATION」は子どもにはちょっと複雑な物語だったと思います。
今、改めて観直してみたいなと思う1本ですね。
by ken (2009-08-18 00:39) 

movielover

こんな映画があったんですね。
知らなかった。
もう東京で観られるところはないんでしょうか??
とっても残念です…。
バルセロナの街は街自体もとても魅力的なので、
本当に観てみたかったなと思います。

by movielover (2010-01-07 22:08) 

ken

タイミングさえ許せば、200万ヒットの暁に、
この映画の上映会を催したいと思っています。
でも、それまでに探せばどこかで観られるんじゃないでしょうか?
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-08 02:13) 

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