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AVATAR [2009年 ベスト20]

アバター」(2009年・アメリカ) 監督・脚本:ジェームズ・キャメロン

 公開直前。都内某所で3D版を観る機会に恵まれた。
 座席数は30と少ないが、デジタルシネマプロジェクターから送出される映像は230インチスクリーンに、音響はBOSEの7.1chサラウンドシステムから繰り出される。環境としては申し分なし。ここで「アバター」を観られたのは幸運だった。なぜなら僕はジェームズ・キャメロンが突き詰めたクオリティを、100%に近いところで体感することが出来たからだ。スクリーンの最前列や端っこで見る羽目にならなかったし、ひそひそ話をする客もいなければ、ケータイメールをチェックする輩もいない。僕は久しぶりに五感をフルに使って映画を愉む悦びを味わった。「傑作」と呼んでもいい大作で。

 この映画には語られるべきいくつかの側面がある。が、まずはテクニカルな部分の話を先にしてしまおう。
 僕は近い将来、「3D技術の応用は、本作によって大きく転換することになった」、と映画の教科書に載るんじゃないかと思う。
 
3D映画と聞くと未だに「飛び出すもの」と理解する人が多いが、ジェームズ・キャメロンが3Dで表現したのは、その真逆にある「奥行き」である。分かり易く言うなら「アバター」は「飛び出さない3D映画」。もしこれで「アバター」に興味を失ったら、そんな人は観なくていい。
 ジェームズ・キャメロンは最新技術を駆使しながら、それをウリにした「見世物」にすることなく、「世界観の伝達」にのみこだわって3D技術を応用したのだ。「画期的」という評価はこの点にこそ相応しい。
 
戦慄迷宮3D」の清水崇監督が、「クリエーターたちが新たな使い道を発見できなければ、3D映画は一過性のもので終わるだろう」と語っていたことを思い出す。一方でジェームズ・キャメロンは「もう3D映画しか作らない」と公言しているそうだ。僕は今日、清水崇監督のそれは杞憂に終わると確信した。そしてジェームズ・キャメロンの言葉には大きく頷いた。なにより3Dは2Dとは比べ物にならないほど映像が美しい。これを観ずして2010年以降の映画は語れないほど圧巻の美しさである。
 
 と言いつつ、実は2Dでも充分通用する作品でもある。
 僕は技術ばかりが先行して、脚本が稚拙だったら、批評家たちの酷評は免れないだろうと思っていた。上映時間は162分。ジャンルはSFアクション。主人公は無名の俳優。重要な登場人物はフルCGで表現されたキャラクター。過去の例を振り返ってもこれらの要素は不安材料でしかなかった。
 しかし。
 エンドクレジットを観ながら、僕は猛烈に感動をしていた。
 僕が最も心打たれたのは、本作の「コンセプト」そのものだ。大きく描かれているのは人間のエゴ、生物多様性を崩壊させる人類の悪事、そして資本主義に走るが故に起きる軋轢と悲劇。「アバター」は過去さまざまな過ちを犯してきた人間たちに“反省を促す”ために作られた壮大な“たとえ話”と言ってもいい。その証に劇中「9.11」をイメージさせるシーンも盛り込まれている。ただし本作でテロリストとなるのはアメリカ人である。
 地球を舞台にしたこれまでのSFエンタテインメントは、そのほとんどが「侵略を受ける」という被害者の立場で描かれることが多かった。しかし「アバター」はその逆。人類が侵略者となって他の星を襲う物語である。「エイリアン2」から23年。ジェームズ・キャメロンは人間を「エイリアン」に仕立て上げた。この発想の転換からすでに素晴らしい。

 作品の根底には「コミュニケーション」という大きなテーマも横たわっている。
 「アバター」にはいくつか目を見張る設定があるが、中でも秀逸なアイディアが、「衛星パンドラのナヴィ族といくつかの動植物は“絆”を結ぶことが出来る」という設定だ。この“絆”を結ぶことによってナヴィ族は馬や鳥を乗りこなすことが出来るようになるのだが、僕にとっては「スター・ウォーズ」の「
フォース」以上に欲しいと思わせる能力だった。自然と対話が出来るなら、人間はもっと謙虚な生き物になれるだろう。そう思わずにいられなかった。

 極めて現実的な話もしておくと、3D専用メガネをかけて2時間46分を観ても、目が疲れることはほとんどないと断言しておく。なぜなら「飛び出さない」から。もしも何かと飛び出す映画だったら絶対にもたなかっただろう。 
 最後に再びテクニカルな話になってしまうが、この作品でもうひとつ僕が感心したのは「被写界深度の使い分け」である。被写界深度とはピントが合っている領域の広さのことだが、ジェームズ・キャメロンは3D技術を研究した結果、「だからといって何でもかんでもピントを合わせればいいってもんじゃない」と気付いたのだと思う。彼は3Dらしく見せるものと、2D的でいいものをカットによって分類し、観客の目の負担を軽くしようとしているのだ。とは言え、たとえ2D的でいいと判断したカットでも、時にライブ映像のような突発的ズーム・インを多用して、緊張感を生む演出を施すあたりはさすが。恐るべしジェームズ・キャメロン。まさに映画作りの天才である。

 僕は今日字幕3D版を観たが、吹き替え版の3Dと2Dも
観てみたいと思った。もしも僕と同じことを考える観客がいるなら、「タイタニック」の興行成績は塗り替えられるかも知れない。
 繰り返すが、これを観ずしてこの先の映画史は絶対に語れない、極めて重要な1本だ。

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コメント 33

tomoart

期待して見たいです。
by tomoart (2009-12-21 02:45) 

Sho

予告を見て感じたのが、まさに「奥行き」でした。
大金をかけたキワモノでは、決してなさそうですね。
kenさんのレビューが研ぎ澄まされている感じです。
敬服です。
by Sho (2009-12-21 06:17) 

ken

>tomoartさん
 期待していいと思います。nice!ありがとうございます。

>Shoさん
 金をかけただけのことはあると思います。
 しばらくは言葉が見つかりませんでした。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-21 12:14) 

Betty

これは観たくなりましたよ☆
by Betty (2009-12-21 16:58) 

rosemary

映画館に行きたいです!
by rosemary (2009-12-21 19:19) 

rennka

私も少し観たい気持ちになりました。
勉強不足で(笑),3Dってんで,飛び出すヤツって
頭しかなく,絶対疲れるだけだし・・・と思ってました。
クリスマスキャロルも3Dでしたね,娘と行こうって話してて
3Dじゃないやつみようねーと・・・行けてないけど,こちらも
飛び出さないのだったのかな・・・・。
・・・そうですね・・考えてみれば,今までと同じ(私の知ってる)
3Dで,こんなに話題にするわけはないですね。
by rennka (2009-12-21 22:49) 

silvercopen

これは観に行かないとダメですね。

by silvercopen (2009-12-22 00:17) 

ken

>Bettyさん
 よかった。見逃さないようにして下さい。
 nice!ありがとうございます。

>rosemaryさん
 そうです。家では観られません。
 nice!ありがとうございます。

>rennkaさん
 ぜひお嬢さんと一緒に。歴史が変わる1ページです。
 nice!ありがとうございます。

>silvercopenさん
 行かないとダメです。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-22 01:11) 

satoco

久々にガツンと来たレビューでした。感動が伝わってくるようです。nice!10個くらいつけたいです。
私も長いこと、3Dはだれか使いこなしてくれる人を待っているなと思っていたのですが、キャメロンがその人だったとは嬉しい驚きでした。ピクサーがCGアニメをものにしたのと同じような興奮を感じます。私が一番うれしいのは被写界深度の使い分けです。
ここ数年は、現代の人類がかかえる問題を反映した映画が増えていている気がしますが、それを新しい形で鋭く描いたものは間違いなく傑作になりますね。必ず行きます。

by satoco (2009-12-22 09:14) 

ken

10個もnice!ありがとうございますw
本文には書きませんでしたが、「アバター」がCOP15直後に公開されたのも
何かの巡り会わせじゃないかと思っています。
この映画を観たら、自国の利益を追求してばかりもいられないんじゃないかと
思うんですけどね。ともあれsatocoさんにガツンと響いて嬉しいです。
by ken (2009-12-23 01:48) 

noel

kenさんのレビューで俄然見たくなりました。

キャメロン監督のお母様が青い3mくらいの人間の夢を見てそれがイメージのもとになっていると何かで見ました。それから14年間暖めたものだとか。まさに時代がキャメロン監督に追いついて出来たものなのかもしれませんね。

絶対見ます。

by noel (2009-12-23 13:46) 

ken

お母さんの夢でああなったんですね。いいエピソードだなあ。
nice!ありがとうございます。楽しんでください!
by ken (2009-12-23 18:58) 

tomoart

観て来ました。いい映画ですねぇ。3D映画なのに、3Dを感じさせない自然な使い方が沁みます。キャメロンが「もう3Dでしか映画を撮らない」と言った意味が本当によく分かります。技術的にはまだまだ進化の余地はありますが(裸眼3Dの実現など)、この作品によって3D映画というのは真の意味でのインフラになったと感じました。

ラストバトル前、ジェイクがエイワに対して「地球には緑がない」と話すシーン、多分地球人全員の心にグサッと刺さったと思います。COP15の話、ナルホドですねw
by tomoart (2009-12-24 04:48) 

midori

観てきました!
kenさんにこれだけ秀逸なレビューを書かれたら,もう私のコメントなんか不要なのですが,これだけ言わせてください.

本当におっしゃるとおり.素晴らしいの一言.
「だってさ,つくりもんじゃんか」と自分に何度も言い聞かせるんですが,五感がというか本能がというかDNAがというか,そういう私の中の何かが勝手に感動してました.
おそらく私が今年観る最後の映画なので,これを選んで良かった.
kenさんのおかげです.来年も宜しくお願いします.
by midori (2009-12-24 09:28) 

spika

凄かったです~

昨日、見てきました。


自分が見に行ったのに、見せられたという感じ。。。美術が凄い。


そして、やはり、ストーリーが素晴らしいですね。

『タイタニック』・『T2』の素晴らしさはもう語る必要もないぐらいですが、
『トゥルーライズ』なんかもお話が面白いんです。


先程、ネットで『アバター』の予告を見てましたら、4歳の娘がものも言わずに傍にあった3D用のサングラスを掛けたんです。

そのしぐさに驚きました。

そういう時代なんですね。彼女はもう何度も3D映画を見てる。

3D用サングラスも昔は左右に分かれた緑と赤のセロファンなんて時代でした

未来というタイムマシーンにあたしたちはいつも乗っているわけです。


by spika (2009-12-24 10:07) 

ken

>tomoartさん
 「技術的な進化の余地」は今の段階では置いておきましょうw
 技術の進化にゴールはないのですから。
 考えるべきは、環境問題だと思います。本当に。
 nice!ありがとうございます。

>midoriさん
 「作りもの」にしかアピールできないことってあると思います。
 戦争や環境問題は、リアルドキュメンタリーになった時点で
 すでに終わりのような気がするんですよね。そうならないようにすること。
 それを伝えられるのは、フィクションだと思います。
 nice!ありがとうございます。

>spikaさん
 「トゥルーライズ」は壮大な夫婦げんかの話でしたが、
 そうかあれもキャメロンだったんですね。
 3Dが当たり前の時代に生きる子どもにとって、
 映画ってどういう存在になるんだろう、と考えさせられたコメントでした。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-24 18:40) 

Betty

観て来ました!!
Kenさんの記事を読まなかったら今年はこのまま総集編を書いていたと思います。
大袈裟ではなく!この映画は今後も語り継がれる1本になると思いましたよ。
ところでCG映画の歴史ですが「この映画が転換だった」という代表作って何でしょうね。。。

あと、この映画を見てゲームの世界も3Dに変わっていくと思いました!!
by Betty (2009-12-27 19:41) 

ken

ご覧頂けて良かったです!
CG映画の転機となった代表作は、「ジュラシック・パーク」だと思います。
あの衝撃は未だに忘れられません。
そしてあの瞬間に映画は大きく変わると思いましたね。
by ken (2009-12-28 03:30) 

Betty

なるほど!!
「ジュラシック・パーク」まさにそうですねO(≧∇≦)O
ありがとうございます☆
by Betty (2009-12-28 16:58) 

ken

こちらこそ。来年もよろしくお願いします!
by ken (2009-12-28 17:17) 

non_0101

こんにちは。
“これを観ずして2010年以降の映画は語れない”作品でしたね~!
映像の美しさに圧倒されました。あの奥行き感は凄かったです。
あと、シンプルなストーリーなのですけど、アメリカ側が勝者にならないところが面白かったです。
ストーリー的にアメリカではヒットするのかなあ何て思ってしまいましたけど
ちゃんと大ヒットしてましたね(^^ゞ
by non_0101 (2009-12-30 08:33) 

ken

ジェームズは「タイタニック」の成功によって大きなプレッシャーを背負いましたが、
それをきちんと理解していたのだと思います。
「欧米でウケる映画」と「世界中で認められる映画」は違うのだと言うことを。
だから、こんなストーリーになったんじゃないのかなと。
nice!ありがとうございます。
by ken (2009-12-30 12:03) 

きさ

今日3D吹替え版を見ました。
インフルやら発熱やらで年内は無理かとも思っていたのですが、何とか時間が取れたので。
、とにかくビジュアルイメージに圧倒されました。
一つの惑星の生態系を描ききってしまうのが凄い。

ストーリーにはそれほど新味はないですが、ビジュアルが革新的だからこれくらいシンプルな話でないと観客は付いて来れないかも。
3時間近い映画を一気に見せるあたりさすがです。
キャメロン監督のファンとしては色々と過去の集大成という感じもあって楽しかったです。

by きさ (2009-12-30 17:37) 

きさ

知り合いで「ダンス・ウイズ・ウルブス」と似た話という意見がありましたが、一番話として似ていると思ったのは、トム・クルーズの「ラスト・サムライ」です。
ラストの展開が違うだけで、ほとんど同じ話ではないかと。
気のせいかヒロインまで似ています。
ヒロインが小雪に見えてしかたありませんでした。
by きさ (2009-12-30 23:11) 

ken

一つの惑星の生態系を確かに描いてました。
設定資料集とか読んでみたくなりましたね。
by ken (2009-12-31 01:07) 

ジジョ

おーー☆公開前にご覧になってたんですね!
しかも、なんともうらやましい環境で、、、^^;

この映画、ちゃんとメッセージがあって、
それを伝える(というか体感)するための3D技術って感じがして、
先端技術に溺れてない、しかりした感じが超☆好感♪

エンドロールで画面びっしり!スミからスミまで!
スタッフの名前が記載されてたのも圧巻でした!!
by ジジョ (2010-01-07 05:22) 

ken

エンドロールは新しい出し方になってましたね。
普段のような、肩書+フルネームが1行づつでは、何分かかるか分からない
ってことでしょう。もしかしてスタッフロールだけで20分くらいかかったかもw
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-07 15:36) 

てくてく

kenさんのレビューに
“なるほど、なるほど”
と相槌を打ちながら読みました。
読みながら映画を思い出し、
感動してウルウル来てしまいました^^

歴史に残るだろう1本。
是非とも3Dでも堪能したいです。
by てくてく (2010-01-07 16:21) 

ken

2Dでウルウルしてたら、3Dはどうなっちゃうんでしょうw
その感想もまた教えてくださいね。nice!ありがとうございます。
by ken (2010-01-07 19:15) 

movielover

ようやく観てきました。
kenさんが書いてらっしゃることに納得です。
本当にすごいですね。
TBさせてください。
by movielover (2010-02-11 02:13) 

ken

僕もそろそろまた観たいと思います。
nice!ありがとうございます。
by ken (2010-02-11 11:53) 

nary

 私も3D版を見てきました。
いや、本当にCGのすごさに圧倒されました。
もうこれは、完全に実写とアニメにつづく第3の映画ジャンルですね。
 この映画の身長3mのナヴィの演技を見ながら、
フルCGの俳優が登場し、実写の俳優と共演する日も
そう遠くないのでは・・・と感じてしまいました。
(いまでもターミネーターとかの設定なら可能かも・・・)
by nary (2010-02-13 13:00) 

ken

「第3のジャンル」は、いい表現ですね。
まったく同感です。
by ken (2010-02-14 08:33) 

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