煙突の見える場所(1953年・日本) [2011年 レビュー]
「煙突の見える場所」 監督:五所平之助 原作:椎名麟三 脚色:小国英雄
今年4月からNHKBSプレミアムで「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本」という乙な企画が始まっている。2011年は「家族編」として50本の作品を放送するそうだ。
6月19日現在、放送されたのは14作品。ちなみに記念すべき1本目の放送は、小津安二郎の「東京物語」。しかもデジタルリマスター版での初放送とのことで、僕も近いうちにその映像を確認してみようと思っている。
さて今日から僕はこのシリーズ制覇を目指すのだが、14作品中未見の10本から、まず最初に選んだのが本作。大正15年から昭和38年まで足立区にあって、下町のランドマークだった通称「お化け煙突」(千住火力発電所)をタイトルとロケーションに用いた1本である。
この千住火力発電所は、当初は予備発電所として建造され、常時稼働ではなかったせいで、煙突からの煙もたまにしか出ず、それが火葬場をイメージさせたことと、見る場所によって実際には4本の煙突が3本にも2本にも1本にも見えたことから、「お化け煙突」と呼ばれたのだと言う。
そして、この「お化け煙突」を全国区にしたのが、本作だと言われている。
椎名麟三原作の短編小説「無邪気な人々」を、日本初のトーキー映画「マダムと女房」の監督、五所平之助がユーモアとペーソスに満ちた作品に仕上げ、ベルリン映画祭で国際平和賞を受賞したモノクロ作品。
映画が制作されたのはGHQによる占領が終了した翌年で、朝鮮特需による神武景気(1954〜1957)を迎える直前。都市部の開発はめまぐるしいものがあったが、下町には、まだまだ貧しい生活がいくつもあった。
足袋問屋に勤める緒方隆吉(上原謙)は、空襲で夫を失った弘子(田中絹代)と家賃三千円の貸家に暮らし、二階の空き部屋は税務署に勤める久保(芥川比呂志)と、街頭放送所のアナウンサー仙子(高峰秀子)に又貸ししていた。その家にある日、赤ん坊が置き去りにされていた。調べるとどうやら弘子の元夫の仕業らしかった…。
本作は実際には4本あるものが、3本から1本までいろんな見え方をする「お化け煙突」を象徴としながら、「人の価値観とは立場によって大きく異なるもの」と教えてくれる作品である。特に上原、田中、芥川、高峰が演じた4人の価値観は、小国英雄(黒澤作品にも多数参加した名脚本家)によって見事に書き分けられていて、4人が揃うシーンの芝居は実に見応えがある。
また観客はきっと自分と同じ価値観を持つ登場人物に共感し、事の成り行きを見守ることになるはずだが、それでも最後にたどり着く結論が皆同じになるのは、さすがよく出来た脚本だと感心する。
フィルムに記録された当時の暮らしぶりも見応え充分である。
洗顔は外で汲み置きの水を使い、暖を取るのは火鉢があるきりで、家の中でも厚着は当たり前。これを貧しい暮らしと呼ぶのは我々だけで、当時の人たちにとってはこれが普通の暮らしだったわけだ。さて僕たちはどこまで豊かな生活を犠牲に出来るだろう、と観ながら真剣に考えた。
余談だが他に驚いたことが3つあった。
ひとつめは芥川比呂志が氷室京介そっくりだったこと。
2つめは、上原謙の演じた夫があまりにダメダメ夫だったこと。よくこんな役を引き受けたものだなと。
3つめは、隅田川の河原で気を失った弘子に、久保が隅田川の水をすくって飲ませたこと。当時はまだ飲ませられるほどきれいな水だったのだろうか。僕はこのシーンがあまりに衝撃的で、肝心のシーンでしばらく放心してしまって困った(笑)。
むむむ♪これは初めて眼にする映画です。
面白そう…当時の生活が観てみたい♬
by thisisajin (2011-06-21 18:20)
長屋暮らしもそうですが、競輪場とか上野公園の周辺とか
いろいろと見どころがありますよ。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-06-21 23:31)