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「雲の墓標」より 空ゆかば(1957年・日本) [2011年 レビュー]

監督:堀内真直 原作:阿川弘之 脚色:堀内真直、高橋治

 神風特別攻撃隊を題材とした映画。モノクロ作品。
 特攻隊を描いた作品は数多くあるが、その悲劇性は誰もが知るところで、プロットも容易に想像がつくので僕はあまり観て来なかった。

 原作は昭和31年(1956年)4月に新潮社から発刊され、本作は翌年1月に公開されている。終戦後12年目。日本は戦前、戦中派が大多数を占めていた時代だ。だからか本作は特攻を頭ごなしに否定するものではない。その判断は観客に委ねる形でドラマは淡々と進んで行く。

 高校から同窓の吉野次郎(田村高廣)、藤倉晶(田浦正巳)、坂井哲夫(渡辺文雄)の3人は、大学で万葉集の研究をしていたが、昭和18年学徒兵として招集される。3人は海軍航空隊付きとなり、やがて特別攻撃隊に編成され、死と向き合う日々を送ることになる。
 吉野は非番の折りに偶然出会った娘、蕗子(岸恵子)を、坂井は母親代わりとして永年世話を焼いてくれた姉、さち(高峰秀子)を想いながら心の準備をする一方で、藤倉はなんとか死なずに済む方法はないものかと思案していた…。

 特攻映画を今まで観なかった僕が、本作を観た理由は先月「海軍」(1963)を観たことによる。
 この映画、僕は一海軍士官の立身出世物語かと思っていたら、最期は特殊潜航艇に乗り込み、真珠湾の藻屑と消えるという思いもよらぬ展開をする。僕は「海軍」を観て、一口に特攻映画と言ってもいろんなアプローチがあると知り、と言うことは、作り手によって作品に込めるメッセージも微妙に異なるのではないかと思って、本作を観ることにした。


 特攻映画には大きく3つのプロットがある。
 まず第一は「御国のために命を賭す価値と意義を巡る士官同士の対立」である。
 理不尽極まりない作戦を、若き士官がどう受け止めるかが特攻映画の縦軸であり、そこでの見解の相違と受け入れの時間差が最大の見どころと言っていいだろう。 
 本作の場合、主人公3人は3様の考え方を持ちながら、海軍生活によって徐々に「特攻致し方無し」と清濁併せ呑むようになる件が見どころになっている。「出来れば死にたくない。しかし選ばれたら最期従うしか無い」という無言の心中が丁寧な筆致で描かれていたと思う。
 第二は「想いを寄せた女性との別離」である。
 心を通わせている場合もあれば、一方通行の場合もある。いずれにしても“今生の別れ”の折に、その想いをどう決着させるのかが、もうひとつのクライマックスとなる。
 このプロット、本作では吉野のエピソードに集約されている。
 休暇で外出した際、美しい庭を見つけて見物を申し出た家の娘、蕗子に吉野は心を奪われる。やがて2人は心を通わせるようになるが、最期海岸での熱い抱擁は実は吉野の空想だったと言うオチでこのプロットは締めくくられる。この演出。下手にメロドラマを見せられるより、よほど吉野の潔さがにじみ出ていて良い演出だったと思う。
 第三は「息子を失いたくない家族の葛藤」である。
 なぜ我が子が自爆攻撃をしなけれればならないのか。そう思っていても声には出来ない。遺される家族、時に母親は胸も張り裂けんばかりの悲しみを負う。
 本作では、品川駅のホームで10分間だけ家族との面会が許される、というシーンがある。しかし会話は弾まず、各々差し入れの握り飯やミカンを並んで頬張るだけ。まさに「言えばすべてが愚痴になる」場面で心に痛い。
 出番は少ないが、吉野の父を演じた笠智衆が、家族の葛藤のすべてを抑えた演技で見せてくれた。父と子の最期の対面が妙にあっさりしているところが、また涙を誘う。

 全編を通して僕が一番感心をしたのは、高校も、大学も、ゼミも、そして海軍での配属先も同じだった3人が腐れ縁を振り返りながら、「出撃も3人一緒だといいな」と言わせておいて、実際に出撃命令を受けたのは、まずは坂井だけだったという展開。吉野と藤倉はここで一旦「助かった」と思ってしまうのだが、この些細な演出がとても巧かった。このシーンのおかげで観客は死と向き合って過ごした若者の気持ちを幾許か理解したはずだ。本編におけるベストシーンである。

 前後するが、吉野と蕗子は出会ってまもなくこんな会話をする。
 「あなたとは戦争のないときにお会いしたかった」
 「私も」
 「でも、その戦争のおかげでお会い出来たのだから、皮肉なものだ」
 いつの時代にも叶わぬ恋はある。しかし「戦争ほどの障害は他にない」と伝えるいいセリフだったと思う。
 主人公3人の感情を抑えた演技が心にしみる佳作。

雲の墓標 (新潮文庫)

雲の墓標 (新潮文庫)

  • 作者: 阿川 弘之
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1958/07
  • メディア: 文庫

<雲の墓標より>空ゆかば [VHS]

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  • 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
  • メディア: VHS

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