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もず(1961年・日本) [2011年 レビュー]

監督:渋谷実 原作・脚色:水木洋子 主演:淡島千景、有馬稲子

 久しぶりに強烈な映画を観た。
 これは「母と娘の究極の腐れ縁」映画。
 腐れ縁と言えば思い出すのは、男と女のズルズルの関係を描いた成瀬巳喜男の「浮雲」だが、調べてみたらいずれの脚本も水木洋子。なんという偶然。なんという筆致。驚きを越えて感動をしてしまった。

 新橋の三流小料理屋「一幅」で住み込み女中をしているすが子(淡島千景)のところへ、松山から娘のさち子(有馬稲子)が訪ねて来た。さち子は離婚をし、東京で美容師として生計を立てようと上京して来たのだ。しかし、そんな2人の対面は実に20年ぶりだった…。

 住み込み女中とは一種のホステスである。
 すが子には藤村というパトロンがいるが所詮は日陰の身。生産性のない関係が永く続き、気がつけば50歳になっていた。しかも一福の女将(山田五十鈴)とは折り合いが悪く、小言に口答えしては立場を危うくする始末。将来を不安に思いながら、その不安を客の酒で胃袋に流し込む日々だった。そんな折に上京して来た娘さち子。母は「娘と一緒に暮らせれば…」と計算する一方で、娘は「母のツテでどこかに仕事を探せれば…」という思いがあった。ただすが子にとって分が悪いのは、行動を起こしたのはさち子の方であって、すが子には渡りに船の幸運が舞い込んで来たに過ぎないことだった。さらに女の盛りが終わろうとしている母と、まさに今が華という娘との置かれている状況の違いも大きかった。

 主演2人の映画だが、ストーリーを牽引するのは「娘に依存する母」すが子である。そして一番の見せ物は「娘を自分の言いなりにしたい母親のあがき」である。
 すが子はご機嫌伺いのときには猫なで声を出し、思うようにならないと一気にキレる。淡島千景の演技も見事でその様は凄まじく、僕は自分の母親を見ているような錯覚にも陥り、嫌な気分を抱えながらエンディングを迎えることになった。
 旧い映画なのでネタバレを書かせて頂くが、すが子がさち子のために貯金通帳を残していた、というオチをして、本作のテーマは「親の心子知らず」と解釈する向きもあるだろう。しかし僕は「最期の最期、娘に母親への仕打ちを後悔させる復讐」ではないかと思った。それほどすが子はさち子を愛し、一方で恨んでいたのだ。
 母親との関係に悩む女子にはオススメかも知れない。そして自身がこの作品をどう受け止めるか、冷静に考えてみてもいいと思う。

 本作の見せ物はもうひとつある。それが「女の嫌らしさ」だ。
 水木洋子はとにかく女の嫌な部分を徹底的に書いた。それはすが子とさち子に留まらず、脇役陣にまで徹底している。一例を紹介しよう。
 すが子とさち子を下宿させている阿部ツネ(清川虹子)は、床に伏せているすが子とそれを看病するさち子の代わりに買い物に出た。雨の中、八百屋のリヤカー引きが大根を落としたのを見て、その大根を拾い、リンゴ2個と合わせて30円にまけさせる。ツネはそれらを52円と言ってさち子から代金を受け取るのだ。
 水木洋子の脚本はとにかく細かい。そして女が持つ“嫌な部分”を、何人もの登場人物に背負わせて“吐き出す”のである。それはそれは見事な描写という他ない。ただしどういう意味を込めてタイトルを「もず」としたのか、その真意は掴めなかった。

 女子必見。
 僕は他の水木洋子作品が気になって来た。


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コメント 6

Sho

ああ、もうこれは絶対に観なきゃ、です。
そうそう、女は意地悪なんですよ(笑)
水木洋子という方は、確かとても高名な方ですよね?
母と娘がきちんと切れていく、というのは難しいのですね。
とっても観たいと思います。
by Sho (2011-09-10 23:38) 

midori

淡島千景と有馬稲子、
山田五十鈴に清川虹子。
これだけでもう、痛いくらい膝を叩きました。
コレは観なきゃでしょう。

「もず」といえば「はやにえ」。
何か関連がありそうですかね?
by midori (2011-09-12 10:42) 

ken

>Shoさん
 僕は自分の母と妹の関係を観るようでした。
 母と娘が切れるって難しいです。
 nice!ありがとうございます。

>midoriさん
 ほかに乙羽信子も出てます。とにかく女優陣は強烈です。
 はやにえと本作とのつながりは僕には見出せませんでした。
 nice!ありがとうございます。
by ken (2011-09-12 12:01) 

midori

いま観ました。
いやあ…濃かった。。。
女優はみんな良かったですね、女のいやらしさを手加減せずに演じ切ってました。男優は少し腰が引けてたかな(笑)。

内容は、いやはや、よくまあここまで描けたもんだワと感心しました。
私は、母や養母や妹や従姉妹とはドライな関係ですが、
それはやはり、迂闊に近づき過ぎないこと、会って気付いたことがあっても余計な一言はなるべく飲み込むこと
で、なんとか保っているようなところがありますもの。
(最近、養母に車間距離つめられてきて、ちょっとウンザリきてます。キケン)
私は、もし生まれ変われるとしたら、次もゼッタイ女がいいですね。なぜって女が嫌いだから。こんなタチの悪い生き物はいません。付き合うなんてまっぴら(笑)。

タイトル「もず」の意味は結局わかりませんでしたね。
乙羽信子がキュート。芸達者だわ。私が男なら惚れるかも。すげなく袖にされそうだけど。

なかなかの掘り出し物でした。こうやって紹介いただかなければ一生観なかった映画でしょうね。毎度お世話になっております。謝謝。
by midori (2011-10-05 22:30) 

ken

濃かったでしょう?w
それにしてもmidoriさんも名言を吐きましたね。

>付き合うなんてまっぴら。

いいコメントを頂戴しました。どこかで使わせて頂きますw
女の人同士って大変ですね。その点、男は「一瞬も一生も馬鹿」だからなあ。
by ken (2011-10-05 22:43) 

midori

>一瞬も一生も馬鹿
コレいただきw。

そこがカワイイんじゃないですか。
なんだかんだいっても男の人は優しいもんね。
付き合うならやっぱり男です。

あ。書き忘れてましたが、ラスト。
すが子の腹の中は、私もkenさんと同じく解釈しました。
さち子の涙は「くやし泣き」だと思いました。
シテヤラレタ。
金もってるんだったら言ってよ、
あたし何のためにあんなオヤジに。。。
しかもお母さんの死に目にも会えないで。。。
母を亡くした悲しみも勿論あったでしょうが、
悲しみはおそらく後からジワジワくるもので、
あそこでまず激しく泣いた理由はそんなところではないかと推測。
by midori (2011-10-06 08:50) 

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