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アナザー・ハッピー・デイ(2011年・アメリカ) [2011年 レビュー]

原題:ANOTHER HAPPY DAY  監督・脚本:サム・レヴィンソン

 国際映画祭のいいところは、外国人の観客と一緒に映画を観られることだ。
 サンダンス映画祭で脚本賞を受賞した本作は、大家族が内包する摩擦や対立を「笑わずにはいられない」ところまで昇華させたヒューマン・コメディ。しかし僕たちは外国人客のリード無しに笑えるシーンは少なかったと思う。事態(ストーリー)はそれほど深刻だった。

 リン(エレン・バーキン)はドラッグ依存症の長男エリオット(エルザ・ミラー)と、自閉症の二男ベン(ダニエル・イエルスキー)を連れて実家へと向っていた。最初の夫ポール(トーマス・ヘイデン・チャーチ)との間に産まれた長男ディランの結婚式に出るためだ。集まった家族は誰もが某かの問題を抱えていた。中でもリンはディランの継母(デミ・ムーア)の存在が気に入らなかった…。

 親戚という存在はとかく厄介なものだ。
 血縁関係という目に見えない鎖に縛られ、時に友達にもなれないような他人と交わらなければならず、気にかけたくもない子どもにも目を配らなければならない。これが赤の他人なら“関わらなければ済む”ハナシだが、親戚関係にあると否応なしに“面倒なことの一端を担がされる”のだ。
 アメリカの大家族の物語である。だからと言って日本人に突飛なエピソードが紡がれるわけではない。
 両親の離婚によって引き離され育てられた兄妹の苦悩。子供2人の親権を得られなかった母親の後悔。後ろ向きな母親と問題を直視しない父親にいらだちを隠せない長男。そんな長男も含め、誰にも心を開けない二男。姉の家族のごたごたをゴシップ記事のように笑う妹たち。実母を蔑視する継母。継母の存在を妬む実母。その怒りを母にぶつける娘。そして無関心な夫たち…。結婚式という人生で一番幸せな瞬間に、家族全員がカオスへ迷い込む。
 ここで恐ろしいのは、「この中でまともなのは自分だけ」と全員が思っていることだ。そう気づいた瞬間から観客は笑えなくなる。それはまさしく自分のことでもあるからだ。

 序盤、外国人客のリード無しに笑えなかったのは、この作品の目指すところが今ひとつ見えなかったから。
 しかし監督は中盤、ドラック依存症のエリオットに“目からウロコ”の台詞を与え、観客に明確な行く先を示す。

 「9.11のときは人生で一度だけ家族の絆を感じたときだった。悲劇が起きないと絆を感じられないなんて皮肉だね」

 この10年で最高の台詞だと思った。
 今の時代の確信を突いた、これは21世紀の「定説」である。
 この台詞以降本作は一気に観易くなる。さらにエリオットの言葉をそのまま証明することになる結末も捻りが利いていて良い。「絆」という言葉が巷にあふれている今の日本だからこそ、この映画は一般公開され、多くの人に観てもらいたいと思った1本だった。

 顔の皺という皺を全部見せたエレン・バーキンと、自身のキャラクターを前面に出して圧倒したデミ・ムーア。見事という他ない女優2人の対決も見物。
 佳作。

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コメント 4

midori

確かに、「家族」を意識するのは、
危機的状況になったときに改めて、
という感じですね。ぜひ観たいと思います。
by midori (2011-11-04 17:27) 

ken

脳天を殴られたかと思うほど衝撃のセリフでした。
これも日本で公開されるといいんですけど。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-11-05 02:51) 

クリス

お! わたしもこれ観ました。たしか日曜日の夜20時くらいのシャンテシネでしたが、kenさんもいらっしゃった・・・とか?
上のセリフには、ガツンとやられました。9.11は東日本の震災でもあてはまり。キツい(深刻な)映画だったからこそ、脚本が巧みだなあと感じました。エレンもよかったし。
by クリス (2011-11-05 09:48) 

ken

あら。一緒に観てますね。知らず知らずのうちに「ゆる会」になってましたかw
これよく出来たホンだと思いましたが、日本人にはちょっと難しいね。
nice!ありがとうございます。
by ken (2011-11-05 13:00) 

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