SSブログ

J.A.C.E./ジェイス(2011年・ギリシャ/ポルトガル/マケドニア/旧ユーゴスラビア/トルコ/オランダ) [2011年 レビュー]

原題:J.A.C.E.  監督・脚本・プロデューサー:メネラオス・カラマギョーリス

 第24回東京国際映画祭4本目は、いま世界経済の鍵を握るギリシャの作品。
 TIFF公式サイトの作品解説に「ギリシャ発の暗黒エンタテインメント!」とあったのが、この作品を観るきっかけだった。ところが本作で描かれる世界は「エンタテインメント」と割り切るには、あまりに恐ろしい現実。これはバルカン半島に巣食うマフィアの実態に基づいた物語だそうだ。

 家族をマフィアに殺された少年は、人身売買の“商品”となり、アテネの商家の養子になっていた。ところが養父もマフィアに殺され、少年はかつて父からもらったナイフでマフィアの一人を殺してしまう。そして少年院へ。ところが塀の中までマフィアの手は伸び、少年は脱走を手引きされる。仮病を使って病院へと移った少年はマフィアの罠によって腎臓を摘出されてしまう。今度は臓器売買の“商品”にされてしまったのだ。少年は病院を抜け出し、サーカス団に身を隠すが、身の不幸はこれでは終わらなかった…。

 タイトルのジェイスは少年が途中から名乗る名前。
 サーカス団には人間に両親を殺されたため、時に凶暴になる子象がいた。その子象がなぜか少年にはなついた。子象の名は「J.A.C.E(Just Another Confused Elephant/群れから離れ、混乱した象)」。少年は叔父の遺言「余計なことは喋るな」を頑なに守っていたため、他人に名前すら明かしていない。ある日、サーカス団で名を聞かれた少年は自らの境遇を重ねて子象の名前を指差す。以降少年は「ジェイス」と呼ばれるようになる。以上がタイトルの理由である。

 TIFF公式サイトに「事実に基づく過酷な物語」とあるものの、ジェイスの辿る数奇な運命がそのまま事実とは信じ難い。と言うのも、ストーリーの途中でジェイスが好意を寄せる女性が登場するのだが、この女性とマフィアのボスの関係が、物語としては“かなり出来過ぎ”な関係だったからだ。
 また「今もなおバルカン半島全体で行われている」(監督)という人身売買や臓器売買の問題を取り上げながら、この2人の関係だけが極めてドラマ的なシークエンスで、僕の目にはいかにも“付け足した”ように映った。だからジェイスのような子どもはいたにせよ、ジェイス自身は架空の少年と観るのが懸命だと思う。
 もしも本作が日本で公開されたら、「どこまでが事実で、どこからがフィクションなのか」は気にせずに観るのがいいだろう。それでも充分過ぎるほど衝撃的な作品だからだ。
 なにより子どもを食い物にするマフィアの実態は目を覆いたくなるほど卑劣である。これが大航海時代ならいざ知らず21世紀の今に行われていることかと思うと、幼い子を持つ親としては激しい怒りに駆られる。
 しかしマフィア以上に許されないのは、その顧客である。
 マフィアからすれば「欲しいという客がいるから手配しているだけ」に過ぎない。しかも反社会的な行為に及ぶ人間が、往々にして社会的地位の高い人間であることにも憤慨する。
 ドラマは途中から幼児売買を行うに至ったマフィアの背景にまで言及し、いささか散漫になるが、バルカン半島の暗黒面を世界に告発した価値ある1本と言っていい。

J.A.C.E._main.jpg


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。