単騎、千里を走る。 [2006年 レビュー]
「単騎、千里を走る。」(2005年・中国/日本) 監督:チャン・イーモウ 主演:高倉健
高倉健とチャン・イーモウがタッグを組んだ。
この2人がどういう経緯で知り合ったのか、…なんてことよりも気になるのはこのタイトルだ。
劇中でも詳しい説明がないので公式ホームページの説明をまずは引用してしまう。
「単騎、千里を走る。」は、日本でも馴染み深い「三国志」に由来する、中国の仮面劇の演目である。
後の蜀帝・劉備の義弟・関羽が、劉備の妻子と共に宿敵・曹操の手に落ちるが、劉備への仁義と誠を貫き通し、最後はただ独りで劉備の妻子を伴い曹操の下を脱出し、劉備のもとへ帰還するという三国志の中でも最も感動的なエピソードの一つである。
ははあ。
そう言われても私にはなんのこっちゃですわ。だってこれじゃ映画の内容をイメージできないし。
では中味はと言うと、「永年仲違いしていた息子がガンに倒れ、父は息子がやり残していた仕事を果たすため、単身中国に渡る」というハナシです。
…まあフィクションですからどんな展開でもいいんですけど(笑)、まずは脚本が良くない。なんたって父(高倉健)の行動があまりに唐突で強引なんです。
「高倉健は自分にとってのアイドル」と言い切るチャン・イーモウはきっと、自分が作りあげた「不器用な男」を健さんに演じてもらいたかったんでしょう。でもそのせいでストーリーに無理が出たんだと思います。不器用な男の「気持ち」と「行動」が伴っていないような気がしました。
もうひとつ問題なのは中国部分と日本部分とでまったく質感が違うこと。
原因は起用した俳優の問題です。
チャン・イーモウは今回も多くの素人を俳優として起用していました。
通訳、現地ガイド、警察官、すべてがホンモノだそうです。素人を起用したおかげでプロの俳優には絶対に出せない“存在感”は出ましたが、まるでドキュメンタリーのような仕上がりになってしまいました。
かたや日本部分は高倉健と寺島しのぶの芝居を、監督・降旗康男、撮影・木村大作という2人の名匠に託したため正統な日本映画になっちゃってるんです(笑)。
チャン・イーモウは高倉健と一緒に仕事が出来るだけで嬉しかったんでしょうね。
この映画は、高倉健とチャン・イーモウの2人が互いを尊重し、譲り合い、闘わずして出来上がった作品、と言っていいと思います。
結論。チャン・イーモウの仕事としては残念ながら駄作です。
thanks! 280,000prv
ミュンヘン [2006年 レビュー]
「ミュンヘン」(2005年・アメリカ) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
この映画のタイトルはマズイです。
というのも、劇場公開時に書店で平積みされてたのはこの本でした。
「ミュンヘン~黒い九月事件の真実~」(角川書店)
当然コレが原作本だと思うじゃないですか。
でもこの「本」と「映画」は何の関係もありません。ただ同じ題材を扱っているというだけ。
本当の原作はこっちです。
「標的(ターゲット)は11人~モサド暗殺チームの記録~」(新潮社)
これって反則でしょ?どうしたって先の「ミュンヘン」が原作だと思うもん。
僕は角川書店の「ミュンヘン」を原作と信じて、それを読んでから映画を観たので、ずーっと「おっかしいなあ」と思っていました。なんたって展開がまるで違いますから(笑)。
「ミュンヘン」というタイトルをまずいと思う理由はもうひとつ。
僕はこの映画、事件の検証をする展開かと思っていました。
タイトルが「ミュンヘン」だから、オリンピックスタジアムで始まり空港で終わるんだろうと勝手に想像をしていたんです。
ところが事件の描写は冒頭の10分で終了。メインは復讐の物語なんです。この展開に驚いた人もきっと沢山いたことでしょう。
と言うわけで、これからご覧になる方は【イスラエル政府から“テロリストの首謀者を暗殺せよ”と指令を受けた男たちの物語】と認識してご覧になってください。
この先はネタバレに突入します。
フォーリング・マン/9.11 その時 彼らは何を見たか? [2006年 レビュー]
「フォーリング・マン/9.11 その時 彼らは何を見たか?」(2006年・英) 監督:ヘンリー・シンガー
アメリカ同時多発テロから5年が経った今年。「ユナイテッド93」、「ワールド・トレード・センター」と2本の9.11をテーマにした作品が公開される中、今月こんなDVDも発売されます。
『2001年9月11日午前8時46分。ニューヨーク・ワールド・トレード・センターへジャンボジェット機が激突したことからはじまったアメリカ同時多発テロ。事件直後、世界中の新聞に掲載されたのは逃げ場を失くしビルから飛び降りる被害者たちの写真だった。しかしその衝撃的な写真は間もなく姿を消してしまう。
なぜ写真はメディアから消えたのか?そのとき現場では何が起こったのか?撮影したカメラマンや編集者、さらには残された家族へのインタビューによって真実を明らかにする衝撃のドキュメンタリー!』(パッケージ解説より引用)
これは「報道の自主規制」にまつわる話です。
前半は、あのビルから飛び降りざるを得なかった人たちの話。
中盤は、“ある1枚の写真”が新聞に掲載されるまでと、されてからの反響に関する話。
後半は、その写真の人物が誰なのかを探る話。
本編72分はこのように構成されています。
まず前半。
ビルに取り残され「脱出不能」と悟った人たちの多くは、家族へ最期のメッセージを発信していました。その様子が遺族の証言によって明らかになります。
航空機衝突の直接的な被害を免れた上下階では、まもなく火災による煙が充満し呼吸困難に陥ります。新鮮な空気を求めて窓ガラスを破壊する人々。しかしそれが仇となり勢いを増して行く炎。
火に巻かれて焼け死ぬか、窓から飛び降りて死ぬか。
生き残る可能性が1%も残されていない“究極の選択”を超えた「悪魔の選択」をする人々。
そして最期のメッセージを受け取る家族。
もしもあの日自分があのビルにいたら…。
もしもあの日自分があのビルにいる愛する人からの電話を受けたなら…。
観ているだけで息苦しくなる生々しさに圧倒されます。
続いて中盤。
途中でふと気づくのは、9.11にまつわる報道でビルから飛び降りる人々の映像を観たことがなかったという事実です。自主規制はここから始まっていました。
そんな中、あるカメラマンの撮った「1枚の写真」が事故からまもなく世界中に配信されます。
それが「フォーリング・マン(落ちる人)」でした。
翌9月12日。朝刊にこの写真を掲載した地方紙「モーニングコール」は異常な反響に見舞われました。もちろん非難一色です。「こんな写真を載せるなんて非常識だ」と。
こうして、衝撃的な1枚の写真は姿を消しました。
さらに目撃者の証言から、ワールド・トレード・センターの北棟では倒壊までに200人以上が飛び降りていることが分かっているにもかかわらず、市の検死局ではこうアナウンスしていたと言います。
「飛び降りた人はいません。彼らは爆風で吹き飛ばされただけです。自分から飛び降りた人など1人もいません」
9.11にタブーが生まれた瞬間でした。
そして後半ではマスコミの真の恐ろしさを垣間見ます。
それが「フォーリング・マン探し」です。
落ちる人を探し当てて一体何をする気なのか。僕にはそこだけが理解できません。これこそ「落ちる人」の私的な部分に踏み込んだ、観る者を不愉快にさせる追求だったと思います。フォーリングマン探しは何だか論点がずれている気がして仕方ありません。
個人的にこの作品は「9.11報道における自主規制の弊害」を突き詰めるべきだったと思います。もちろんPTSD(心的外傷後ストレス障害)にも絡めて。
世の中には“見せていいもの”と“そうでないもの”が存在しているのは事実です。
そのジャッジをするのは基本的には個人の意思だと思います。
この作品も観るのはアナタの自由。
僕にとっては、9.11と自分との距離を測る“物差し”のような作品でもありました。
後半の展開には疑問を持ちつつも、しかしそれまでの構成は見事。
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト [2006年 レビュー]
「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(2006年・米) 監督:ゴア・ヴァービンスキー
驚いたことにこんな映画が大ヒットしてます。
観客動員ランキングを見ると、あの「スーパーマン・リターンズ」が公開5週目にしてベスト10圏外に落ちたのに、コイツは10週目にしてなお9位。おいおい、なんでこんなにヒットしてるんだ?と思ったら、その理由が友達からの電話で分かりました。
「ねぇねぇパイレーツ・オブ・カリビアン観た?観てないなら付き合ってよ。ワタシ今さらジョニデにハマっちゃって3回も映画館で観たんだけど、あと10回くらい行きたいのよ。でももう付き合ってくれる人がいなくなっちゃってさあ。アハハハ~」
こんなバカな電話を(しかも2年ぶりに)かけてきたのは来月44歳になる1児の母です。
「なるほどコイツみたいなリピーターがいるからヒットしてるんだな」
そう思ったら観に行ってもいいかと思って行って来ました。パート1を観てこんな記事しか書けなかった僕が。
で、前回もそうだったんですけどやっぱり今回も何が面白いのかサッパリ分からない映画でした。なんならちょっと寝ちゃったし(笑)。
しょうがないので劇場を出てすぐ「これって何がおもしろいの?」と友達に聞いたら、したっけコイツが爆弾発言。
「ワタシはジョニー・デップに逢いに来ただけだから内容なんて関係ないの♪」
………
………
………
テメェぶっ殺す。
こんなバカな友達はおいといて…。
じゃあどうして僕はこの映画をおもしろいと思えなかったのか?
多分、ジャック・スパロウに人間味がなくて肩入れ出来ないからだと思います。
本編を観ている最中、「インディ・ジョーンズ」が面白かったのはなんでだろう?とずーっと考えていたのですが、やはりキャラクターに感情移入出来ないとストーリーの展開にもハラハラドキドキしないんでしょうね。
でも問題なのはこれが本気でヒットしているという事実。まさか(マニアックな?)リピーターがこの映画のランキングを支えているとは到底思えません。それ以上のヒットでしょう、これは。
と、言うわけでお願いです。
この映画がヒットしている本当の理由を誰か教えて
ください!
パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト スペシャル・エディション
- 出版社/メーカー: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
- 発売日: 2006/12/06
- メディア: DVD
ユージュアル・サスペクツ [2006年 レビュー]
これは「X-MEN」「スーパーマン・リターンズ」のブライアン・シンガー作品だったんですね。
彼のプロフィールを調べてたらそう書いてあったのでちょっとビックリしちゃって、あわてて観ちゃいました。8年ぶりくらいで。
ちなみにこの映画を観たことがない人で、にもかかわらず「最近おもしろい映画がないなあ」なんてぼやいてる人がいたら、この映画はゼッタイにオススメです。この先は読まずに今すぐレンタルショップへダッシュして下さい(笑)。
…なんて自信を持ってオススメしている僕も、実は内容に関しては98%以上忘れていました。それでも「映画が進むうちに何か思い出すだろう」と思っていたのですが、何ひとつ思い出さないままあれよあれよとラストシーンへと到達します。残り2%の記憶はすべてこのラストシーンのものでした。
人間の記憶のメカニズムって面白いですね。精神的な衝撃が大きければ大きいほどその出来事は強く焼き付けられ、しかもその前後の記憶は薄くなるんですから。
今回僕は途中いくつかのシーンで「これってちょっと矛盾してないか?」と思うツッコミどころを見つけました。多分8年前に「ナニミル?」をはじめていたら、きっと「このポイントはおかしい!」と書いたと思うんですが、でもそんな記憶は僕の中にまったくなく、ただ単純に(あるいは興奮気味に)「『ユージュアル・サスペクツ』は面白い!」と長年言い回ってきたんですから、まさに「終わりよければすべて良し」。“感動の記憶”とは意外とあやふやなもんです。
さて、個人的な戯言はどうでもいいんですが、とにかく未見の方には若干30歳だったブライアン・シンガーの卓越した演出力を存分に楽しんで頂き、過去に観た記憶のある方は自分の記憶力が如何ほどのものかを試しながら、もう一度観て頂きたいと思います。なんたってAmazon.comで激安で売ってますから。
と言うわけで、この作品を存分に楽しんで頂くためにかなり当たり障りのない記事になってしまいました(笑)。
オマケ。
ケヴィン・スペイシーは大して変わらないんですが、ベニチオ・デル・トロがえれー若くて、ちょっと笑えます。
純愛中毒 [2006年 レビュー]
本作品は「我が心のオルガン」にコメントを頂いたsmimaさんのリクエストに応えて観てみました。
僕の周りではあまり評判が良くなかったので、僕も「観なくていいか」と思っていた1本です。
では、どんな映画だったかというと…。
あなたがイ・ビョンホンに興味が無ければこの映画は観なくていい。
あなたがイ・ビョンホンのファンだったとしても、この映画を良いと思うかどうかは分からない。
これはそれくらいアクの強い映画です。
ハリウッドには「スターシステム」という言葉があります。
これは「トップスターを企画の中心に据えた映画製作システム」のことで、日本の「アイドル映画」もこのジャンルに属しています。古くは美空ひばり、石原裕次郎、山口百恵らが主演した映画と言えば分かりやすいでしょうか。
「純愛中毒」の場合はスターシステムではなく、おそらく企画が先行していたとは思うのですが、内容が内容だけに製作陣はキャスティングに相当頭を悩ませたと思います。そんな状況にあって「イ・ビョンホンなら大丈夫だろう」と踏んで製作されたのは間違いないでしょう。
もちろんペ・ヨンジュンでも、チャン・ドンゴンでも、ウォンビンでも良かったんですけど、いずれにしても圧倒的な人気を誇る俳優でなければ企画は「GO」にならなかったと思います。
個人的には「バンジージャンプする」みたいな映画だな、と思って途中まで観ていました。
ところがどっこいアータ。なんですかコレは。
韓国四天王の誰にも興味ないアナタはドン引き間違いなしの鳥肌モン映画です。
ふたりの人魚 [2006年 レビュー]
「ふたりの人魚」(2000年・中国/ドイツ/日本) 監督・脚本:ロウ・イエ
TSUTAYAのDISCASでアジア映画を検索していたとき見つけた1本。
借りてみようかと思ったのは“イントロダクション”のこのコメントを読んだからでした。
2000年ロッテルダム国際映画祭のグランプリ受賞作。
中国の新鋭ロー・イエ監督が、現代の上海を舞台に描く切ない恋の物語。
上海でビデオの出張撮影の仕事をしている男。仕事は順調とはいえず暇をもてあまし気味。ある日、撮影先で人魚のように美しい水中ダンサーのメイメイにひと目ぼれする。ふたりはつきあい始めるが、彼女には謎めいた行動が多かった。しかもある日、彼女のことを自分の恋人のムーダンだと言い張る男まで現われて…。(原文ママ)
映画を観終わって僕が一番知りたかったのは、2000年のロッテルダム国際映画祭の審査員は誰だったのか、ってこと。
こんな投げっ放しな映画の何がよくてグランプリなんか与えたんだコノヤロー!
ロッテルダム映画祭はアジア映画に優しいらしいんですけどね、だとしても他に何かあるだろうって思ったもので。スイマセン、久しぶりに怒鳴ってしまいました…(笑)。
映画の冒頭、蘇州川を上る船の上から上海の街を見せるシーンが続くのですが、この辺りは実にいい雰囲気を出しています。ANAの「中国行って撮ってきて」CMなんかじゃ絶対に見られない、素顔の上海が切り取られていて期待感は高まるのですが、肝心の内容がメロメロ。だいたい「人魚」の意味が何もないんですからガッカリです。
中国のインディーズ映画に興味のある人はご自由に。
タッチはウォン・カーウァイに似ていると言えなくもありませんが、自己満足っぽいところも似てますから個人的にはどうでもいいですワ。主演の女の子がもう少し可愛けりゃ評価も違いましたけどねえ(笑)。
酔拳 [2006年 レビュー]
「ドランク・モンキー/酔拳」(1978年・香港) 監督:ユエン・ウーピン 主演:ジャッキー・チェン
監督のユエン・ウーピンは1945年生まれ。
デビュー作は31歳のときに撮った「スネーキーモンキー/蛇拳」(1976年)で、「酔拳」は33歳で撮った監督2作目にあたります。
この2作を比較するととても面白く、ウーピン監督がこの2年の間に何をしていたのかは知りませんが、確実に腕を上げているんですね。中でもカット割りと編集の技術は明らかに向上しています。
この「酔拳」以降ユエン・ウーピンはおよそ年に1本の割合で映画を撮るのですが、20世紀中に撮った17本のうち15本は日本未公開。残念ながら「酔拳」以降その名を日本で聞くことはほとんどありませんでした。
ところが1999年、意外なところからウーピンの名前を聞くことになります。それが「マトリックス」でした。
ユエン・ウーピンはウォシャウスキー兄弟から熱いラブコールを受け、「マトリックス」シリーズのカンフーコレオグラファー(早い話が振付師なんですけど)を務めることになったのです。
「酔拳」の監督がその21年後に「マトリックス」の仕事をするなんて誰も想像できませんよねぇ。当たり前ですけど(笑)。
さて本編。
これはもうジャッキー・チェンの魅力満載です。
コミカル路線にしたのが誰かは知りませんけど、ジャッキー・チェンという逸材があったからこそ成立した企画だったんだなと改めて思います。
ついでに改めて観た感想を2、3上げると…。
「酔拳」というタイトルを打ちながら、ストーリー上で「酔八拳」が語られるのが開始から78分後というのはどうでしょう?もう少し早く出しても良かったんじゃないですかね?(笑)
またクライマックスの対決シーンが10分強もあってちょっと長く感じました。
ところで今回一番笑ったのは、クライマックスで敵役となるカンフーの達人が、ペナルティのワッキーに似ていたこと(笑)。有り得ないんですけど「芝刈り機とかやってくんねーかなぁ」と思いながらずーっと観ていました。
懐かしさ満点。若かりしジャッキーの魅力も満点。
僕にとって荒削りの香港カンフー映画は少年時代のいい思い出です。
にゃんこ THE MOVIE [2006年 レビュー]
「めざましテレビムービープロジェクト」なるものがあるそうだ。
「めざましどようび」(フジテレビ系列毎週土曜、朝6時~8時30分放送)のスタッフが、番組で取材をした素材を基に短編映画を製作し、視聴者からの応募を受けて日本各地へスタッフが出向いて無料で公開する、と言うプロジェクトだ。
一見するとまったく採算の合わない事業に見える。既存の映画会社ではおそらく実現不可能なシステムだろう。
しかしフジテレビの場合は「番組PRの一環」かつ「DVDソフトの販促キャンペーン」として社内処理することで、映画事業局と広報局から費用を捻出することが可能だろうし、仮に(思いのほか渋チンで)予算が確保できなくても、ソフトの宣伝効果は絶大だから、多少の赤字は許されるだろう。
もしかしたら「懐かしの移動映画館」復活を喜んでいるのは、普段は煩型(うるさがた)の予算管理部長かも知れないわけだし(笑)。
そんなわけでテレビ局にしか出来ないプロジェクトである「めざムー」の第1弾が、番組の人気コーナー「どようびのにゃんこ」をベースにした「にゃんこ THE MOVIE」と言うわけだ。
これは地方の公民館とか、廃校になった体育館とかで上映されたら、田舎の人たちにはたまりませんわ。なんたって完全人畜無害映画だから家族全員で楽しめるし、話はカンタンだし、観てるだけでカワイイし、もう言うことありません。
作品としては「もうちょっと感動的なハナシがあったり、笑えるハナシがどんどん出てきてもいいんじゃないの?」なんて思ったりしますが、そんなこと言ってると、きっと田舎のおばあちゃんに「そんな野暮なこと言いなさんな」と一喝されそうな気がします。はい、スイマセン(笑)。
じゃあひとつ褒めときましょう。
「篠原涼子のナレーションがバツグンにイイですっ!」
ちなみにこのプロジェクトの第2弾は「わんこ THE MOVIE」だそうです。やっぱり!(笑)。
太陽 [2006年 レビュー]
「太陽」(2005年・ロシア/イタリア/フランス/スイス) 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
ロシア人が撮った昭和天皇の映画。
「外国人に日本語を習うような感じだろうか?」 などと考えながら銀座シネパトスへ足を運ぶ。
行ってみて驚いたが、晴海通りに背を向けて建つこのビルの、劇場へと続く階段下の通路には強烈な“昭和の臭気”が漂っていた。スナック、喫茶店、アダルトショップが居並ぶこの雰囲気を語るには「取り残された」という言葉がまさに正しく、「太陽」を観るに相応しい環境だなと思った。
ところがいざ始まってみると、“この作品の何を観るべきなのか”視点を定めるのに苦労する。
ただ漠然と観てしまうとこれは「イッセー尾形の舞台」である。
イッセー尾形が役者生命を賭けて挑んだ「ヒロヒト」という名の芝居。
もちろんそれではダメだと自分自身に言い聞かせてスクリーンに集中するものの、それでも僕はあるワンシーンを除いて、“昭和天皇を演じるイッセー尾形”にしか目が行かなかった。
それはなぜか。
僕たちは「誰かが演じる“昭和天皇のプライヴェート”を観たことがないから」だと思う。
だから好むと好まざるにかかわらず、イッセー尾形の一挙手一投足に注目してしまう。
映画に入り込めなかった僕はソクーロフ監督のメッセージが飲み込めなかった。
きっと僕と同じ思いの人がいると思う。だからもう一度観ようとする人もいるだろう。でも僕はもう一度観るより前に、この映画のパンフレットを購入することを勧める。と言うのも、このパンフレットには珍しいことに本編のシナリオが採録されているからだ。
シナリオを読む面白さは、自分なりのベストな映像とキャスティングでドラマをイメージ出来るところにあるが、「太陽」の場合も“イッセー尾形”を“ホンモノの昭和天皇”にすり替えることで、自分だけの完璧な「太陽」を完成させることが出来る。
セリフのウエイトが重く演劇的要素の強い作品だけに、このシナリオだけは読んだほうがいい。ただしいくつか抜け落ちた重要なセリフなどあって、それでいて1,000円もするのはちょっと高いけれど(笑)。
パンフレットの冒頭には監督のこんな言葉が記されている。
『彼は、あらゆる屈辱を受け入れ、苦々しい治療薬をすべて飲み込むことを選んだのだ』
頂点に立つ者にしか分からぬ悩み。それは国の行く先を決める究極の判断。
上映前。僕は映画に対する期待感を膨らませた。
この映画にはまず「神であることの苦痛」が描かれていた。
もっとも象徴的なシーンは皇后(桃井かおり)とのシーンだが、この描写には正直とても感動をした。もちろん昭和天皇のプライヴェートについては大いなるフィクションだが、唯一このシーンでだけ僕はイッセー尾形を媒体にして昭和天皇の姿を見た。
しかし僕が最も期待を寄せた「人間としての苦渋」の描写には不満が残る。
例えば軍首脳との御前会議のシーン。
すでに本土決戦を視野に入れた軍首脳たちと、「降伏」の二文字を選択肢に入れた昭和天皇との温度差は、昭和天皇が侍従長に愚痴を言うなどのシーンを入れても、もっと分かりやすく描いて欲しかった。
もうひとつ、どうしても入れて欲しかったのは「人間宣言」録音にまつわるシークエンス。
本編ではあまりに唐突に扱われていて(それが効果的だと言われればそれまでだが)残念。こここそ「人間としての苦渋」を表現する最大の見せ場ではなかったか。
とまれ、いくつか些細な不満はあるものの、このような映画が作られ無事日本でも公開されたことに対しては関係各所に敬意を払うべきだろう。タブーに挑戦することがいかにリスキーなことかを知れば、「太陽」が日本で公開されるということはひとつの「事件」と呼んでもいい出来事だからだ。もちろんそんなこと海外のメディア以外、どこでも取り上げないのだけど。
【SMENA8M F5.6 SS15】